俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
時間はアレドで半年間の冒険者活動中のある日
◇
「今日は頼んだよー!」
宿の部屋から出ていくミリアが手を振る。
「留守番よろしくな」
ルークも続く。
「留守番じゃねえ。仕事だ」
俺が言い返すと、二人は笑いながら階段を降りていった。
最後に明弘が振り返る。
「治療院、無理するなよ」
「分かってる」
足音が遠ざかり、部屋に静けさが戻った。
今日は俺だけ別行動だ。
午前中は街の治療院の手伝い。
最近は回復魔法が上手い神官として認識され始めていて、たまに応援を頼まれる。
三人は討伐依頼を受けているが、治療院との約束が先だったので同行できなかった。
◇
「さて」
治療院の仕事も無事に終わり、帰ってきてベッドに腰を下ろす。
久しぶりに完全な一人だ。
何となく窓際へ行き、鏡を見る。
銀髪。
青い瞳。
圧倒的な美少女。半年経った今でも慣れない。
慣れたくはない……たぶん。
「胸はそこそこか」
ぽつりと呟く。
神官服越しでも分かる程度にはある。
「まあ俺が設定したからな」
EEのヒロイン。プレイヤー受けしそうなデザイン。
清楚系。
美少女。
胸は控えめだがちゃんとある。
当時の俺はたいして考えていなかった。
まさか自分がなるとは思わないだろ。
「……本当に何考えてたんだ俺」
鏡の中の少女が同じ顔でこちらを見る。
落ち着かなくなり視線を逸らす。
ふと一つ思い付く。
「そういえば」
俺は右手を前へ出した。
神聖魔法の発動姿勢。
《ライト》
《ヒール》
《ホーリー・アロー》
ゲームでは魔法陣やモーションはただの演出だった。
だが現実では、この姿勢やイメージが魔法発動に関係している。
試しに魔力を使わないように注意しながら、動きだけ再現してみる。
「ライト」
指先を掲げると身体が妙に自然に動いた。何百回も行った動作のように。
魔法は発動しないが、動きそのものは綺麗に再現できる。
「お?」
もう一度やる。
《ヒール》
《ホーリー・アロー》
何故か妙にしっくり来る。
「へえ……」
少し面白くなってきた。
神官以外も試してみる。
ミリアのファイア・アロー。
魔術師系の発動姿勢。
さらにゲーム設定の記憶を辿りながら様々な魔法を再現する。
《ファイア・ストライク》
《ライトニング》
《アイス・ランス》
ゲーム時代に作ったモーションデータが頭の中に残っている。
それをなぞるように身体が動く。
妙な感覚だ。ダンスの振り付けを覚えているような、そんな感じだ。
「意外とできるな」
一人で感心していると、ある魔法を思い出した。
《レイズ・デッド》
死者蘇生魔法。
大半のRPGでは実装されている。勿論EEにも存在する。
俺は記憶を辿る。
発動モーション、魔法陣、演出。全て覚えている。
右手を掲げ……そして再現してみる。
……。
何も起きない。もう一度。
……やはり駄目だ。
他の魔法は「こう動く」という感覚が自然に出てくる。
だがレイズ・デッドだけは妙だった。
どこか空白がある。
「ふむ……」
三度目。
今度はさらに慎重に。
それでも駄目だった。俺は腕を組む。
「もしかして……」
単純な推測だ。
「存在しないのか?」
死者蘇生。
元々、この世界で本当に使えるとは思っていなかったし、試したこともなかった。
ヒールや神聖魔法はまだ分かる。高レベルの治癒魔法の効果は自分でもどうなってるんだと思うこともあるが。
だが死者復活は根本的に別物だ。現実なら世界そのものが変わる。
「まあ、そうだよな」
むしろ納得だった。
死んだら終わり。
それが普通だ。
俺はベッドに寝転がって天井を見上げる。
「他に何かないかな……」
そこで思い付いた。イベントはどうだろうか。
EEのイベントシーン。
サブクエスト数をウリにしようとして、数え切れないほど作った。
明弘が書いたシナリオに合わせて俺が演出を実装した。
当然覚えている。
俺は立ち上がり、部屋の中央へ移動する。
「えーと……」
最初はヒロイン単独イベント。
神殿の中庭。
主人公を待つシーン。
記憶を辿りながら演じる。
「……遅いですね」
思ったより上手くいった。
というか、半年もこの姿で生活しているせいか。
女の子の仕草が自然に出てしまう。少し複雑な気分だ。
「私、待つのは嫌いじゃありませんよ?」
手を胸の前で組む。
視線を少し下げる。
……。
「うわ」
自分でも少し引いた。
でも似ている。かなり似ている。
鏡で確認できたら完璧だったと思う。
◇
今思えば、ここでやめておけば良かったんだ……本当に。
だが調子に乗ってしまった。
「せっかくだし恋愛イベントもやるか」
主人公とヒロインの恋愛イベント。夕暮れの丘が舞台のやつ。
例のグラフィッカーからやけに気合の入ったスチルが送られてきたのも相まって、βテストでも評判が良かった。
俺はヒロイン役を演じる。
「アレックス」
少し上を見る。
相手がいるつもりで。
「あなたと旅をしていて気付いたんです」
そこで少し照れる演技。
「私……あなたと一緒にいる時間が好きなんです」
思った以上に再現度が高かった。
演出担当として少し嬉しい。
そう思ってさらに調子に乗ってしまう。
「だから」
一歩前へ出る。
「これからも――」
――ガチャ。
扉が開いた。
俺の思考が停止した。
そこにいたのは。
ルーク、ミリア。そして明弘。
帰ってくる予定より早い。
三人とも扉の前で止まっていた。
誰も動かない。
俺も動けない。
部屋の中央で片手を胸に当てたまま固まる。
数秒、いや十秒くらいか。
永遠みたいな時間に感じた。
最初に動いたのはミリアだった。
「あー」
納得した顔。
「やっぱりね」
「やっぱりだな」
ルークまで頷いている。
「待て」
俺は慌てた。
「違う」
「何が?」
「これは違う」
「何が?」
二人とも同じ顔をしている。
やめろ。
その顔やめろ。
明弘は額を押さえていた。
「直人」
「違うからな?」
「聞いてない」
「聞けよ!」
「聞かなくても分かる」
分かるな。
頼むから分かるな。
「ゲームのイベント確認してただけだ!」
「げーむ?いべんと?」
ルークが首を傾げる。
しまった!説明できない。
「その……昔の劇だ!」
「一人で?」
「研究だ!」
「恋愛の?」
「うっ」
詰んだ。
ミリアがにやにやしている。
ルークは何かを納得したような顔をしている。
明弘はもう諦めた顔だった。
「直人」
「なんだ」
「頼むから俺を相手役にするのはやめてくれ」
「だから違う!」
俺の叫びが宿の部屋に響いた。
その後しばらく、ルークとミリアから生暖かい視線を向けられ続けたのは言うまでもない。