俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
なので意図的に「私」にしてます(メス堕ち度+1)
王都の異変
王都アークレインが見えたのは昼前だった。
街道の先に現れた巨大な城壁を見て、ルークが馬車の荷台から身を乗り出す。
「うおーーっ!」
その声にミリアも立ち上がった。
「すごい……!」
アレドとは比べものにならない規模だ。
白い石造りの城壁は遠くまで続き、その内側には無数の建物が立ち並んでいる。何本もの塔が空へ伸び、その中心には王城らしき巨大な建築物が見えた。
ゲームで何度も見た王都。
だが実際に目の前にすると迫力が違う。
「王都か……」
私も思わず呟いた。
「まず市場!」
ミリアが元気よく言う。
「いや飯だろ」
「服!」
「飯!」
「服!」
「だから飯!」
二人は早速言い争いを始めた。
半年近く一緒に旅をしているが、このやり取りは見慣れたものだ。
「お前らな……」
アレックスが呆れた声を出す。
「調査局の依頼で来たんだぞ」
「わかってるって」
「終わったら少しくらい見て回れるだろ?」
ルークはまったく反省していなかった。
王都に来るのが初めてなのだから無理もない。
私自身、ゲームのでも物語の中心となる王都を、実際に見ることが出来ると思うと少し楽しみだった。
門を抜けると、さらに人の多さに圧倒された。
荷馬車、露店、貴族らしい馬車。
商人、冒険者、神官。
あらゆる人間が行き交っている。
街全体が活気に満ちていた。
「おお……」
ルークが辺りを見回す。
「迷子になるなよ」
「子供扱いすんな」
「たぶんなる」
ミリアが即答した。
ルークが抗議の声を上げたその時。
ゴォォォン――
王都中に鐘の音が響いた。
昼を告げる鐘だろう。
周囲の人々は特に気にする様子もない。
聞き慣れた音なのだろう。
だが。
「……待て」
アレックスが足を止めた。
私は振り返る。
アレックスは鐘楼の方向を見ていた。
「どうした?」
「今の鐘」
少し考えるような間があった。
「変じゃないか?」
ルークとミリアが同時に首を傾げる。
「普通だったぞ?」
「鐘の音でしょ?」
私も最初はそう思った。
だがアレックスの表情は真剣だった。
元の世界のゲーム制作では、こいつがサウンドコンポーザーをやっていた。
耳が異常に鋭く、ゲームの効果音制作中も、私には全くわからない違いを聞き分けていた。
「どこが変なんだ?」
私が聞くと、アレックスは少し考えてから言った。
「説明が難しいな」
そして空中に指で円を描く。
「普通の鐘ってさ、叩いた瞬間に一番大きな音が出るだろ?」
「まあ」
「その後は徐々に小さくなる」
そこまでは分かる。
「でも今の音は違う」
アレックスは眉を寄せた。
「途中で別の振動が混ざってる」
「振動?」
「例えば《ギター》の弦を弾いたら音が鳴るだろ」
ルークとミリアはますます分からなそうな顔をした。
この世界にギターはない。
「あー……弦楽器だと思え」
私が補足すると二人は頷いた。
「普通は一つの音が鳴る」
アレックスが続ける。
「でも今の鐘は違う。後ろから別の音が引っ張ってる感じがする」
「引っ張る?」
「共鳴してるみたいな……いや違うな」
アレックス自身も上手く言語化できていないようだった。
「音そのものじゃなくて、音の減衰がおかしい」
私は少し考える。
その言葉でようやく理解できた。
「ノイズ除去前の録音みたいな感じか?」
アレックスがこちらを見る。
「近い」
「残響じゃなくて、別の波形が重なってる?」
「そうそう」
アレックスが何度も頷いた。
ルークとミリアは完全に置いていかれていた。
「何言ってるか全然わからん」
「私も」
二人とも諦めた顔をしている。
私も音響技術の専門家ではない。
それでもインディーゲームなんぞ作っていたから、多少は理解できる。
だがそれを、この世界の人間に説明するのは難しかった。
「とにかく変なんだよ」
アレックスはそう結論づけた。
「自然な鐘の音じゃない」
◇
ルークとミリアの希望通り、少し王都を見回ったあと、私たちは王都調査局へ向かった。
建物の入口には見覚えのある紋章が掲げられている。
天秤と鍵。ゲームで設定した王都調査局そのままだ。
応接室へ案内されると、二人の人物が待っていた。
灰色の髪をした鋭い目の男。
そして眼鏡を掛けた長髪の女性。
「レオン・ヴァイスだ」
男が短く名乗る。
「コーデリア・レインです。本日はお越しいただきありがとうございます」
女性は丁寧に頭を下げた。
私たちも順番に名乗る。
エリシア救出の件は既に報告が届いていたらしく、話はスムーズに進んだ。
アレド地下施設のこと。
黒い結晶のこと。
影の魔物のこと。
一通り情報交換が終わったところで、アレックスが口を開く。
「一つ聞きたい」
「何でしょう」
コーデリアが視線を向けた。
「王都の鐘なんだが」
レオンが僅かに眉を動かす。
「鐘?」
「音がおかしい」
コーデリアは首を傾げた。
「不具合の報告は受けていませんが」
「鳴らし方とか構造を管理してる人間はいないのか?」
「鐘守はいます」
「最近修理したとか」
「そのような記録はありませんね」
アレックスは説明を試みたが、結局途中で諦めた。
音の減衰。
共鳴。
振動特性。
そういった概念はこの世界では一般的ではない。
コーデリアもレオンも理解はしているが納得はしていない様子だった。
「申し訳ありません」
コーデリアは困ったように言った。
「少なくとも、調査局ではそのような異常は把握しておりません」
「そうか」
アレックスはそれ以上追及しなかった。
私も気になり、エリシアの時のように何か分からないかと《ディバイン・サイト》を使ってみた。
王都の空へ意識を向ける。
……だが何も見えない。
私が首を横に振ると、アレックスも納得したようだった。
「お前でも分からないなら、今は材料不足か」
会談が終わりかけた頃。
コーデリアが新しい資料を机に置いた。
「実は皆さんに相談したい案件があります」
レオンの表情が僅かに引き締まる。
「最近、王都で行方不明者が増えています」
部屋が静かになった。
コーデリアは資料をめくる。
「最初は旅人や浮浪者ばかりでした」
「最近は?」
アレックスが聞く。
「商人、職人、労働者。身元の分かる者も増えています」
「誘拐か?」
「断定できません」
レオンが答えた。
「足取りが消える」
「死体も?」
「見つかっていない」
私は資料を見る。
人数は決して少なくなかった。
偶然で説明できる数ではない。
「調査は?」
「続けています」
コーデリアは静かに頷いた。
「ですが有力な手掛かりがありません」
窓の外から鐘の音が聞こえた。
先ほどと同じ音。
私には異常は分からない。
それでも隣を見ると、アレックスは再び視線を上げていた。
まるで、音の向こうに何かが隠れているとでも言うように。