俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
「なんでお前が主人公で俺がヒロインなんだぁぁぁっ!!」
俺の叫びは草原に虚しく響いた。
だが叫んだからといって現実が変わるわけではない。
しばらく騒いだ後、俺たちは近くの木陰に座っていた。
「落ち着いたか?」
「落ち着けるか」
即答。
俺は腕を組もうとして違和感を覚える。
胸が邪魔だ。
座り方も落ち着かない。
スカートも邪魔だ。
何より声が違う。
自分の身体なのに、自分の身体じゃない。
「最悪だ……」
思わず頭を抱える。
すると明弘が吹き出した。
「お前、見た目だけ見ると完全にフィアナなんだよな」
「殴るぞ」
「可愛い顔で言われても怖くない」
「本気で殴るぞ」
「悪かったって」
俺はため息を吐いた。
現実逃避していても仕方がない。
まずは状況確認だ。
「明弘」
「ん?」
「ここがどこか分かるか?」
明弘は周囲を見回した。
草原、丘陵、一本だけ見える街道、そして遠くの森。
街道の先には街らしきものが見える。
「たぶん……始まりの草原だと思う。で、あの街が多分アレドの街だろ」
俺も同意見だった。
ゲーム序盤で主人公が目覚める場所、最初に向かう街。
地形もよく似ている。
問題は。
「似てる、なんだよな」
「俺もそう思う」
明弘の表情が少し曇った。
二人とも同じ違和感を覚えていた。
ゲームならもっと単純な地形だった。
しかし今見えている景色は異常に広い。
草一本に至るまで作り込まれている。
風も匂いもある。
鳥も虫もいる。
現実そのものだった。
「VRなんてレベルじゃないなこれ」
「だな」
しばらく沈黙する。
ややあって、俺は立ち上がった。
「とりあえず確認する」
「何を?」
「俺たちの能力を、だよ。本当にアレックスとフィアナならゲームと同じことができるはずだ」
アレドの町を目前にした丘の上。
俺と明弘は街道から少し離れた林の中まで移動した。
理由は単純だ。
「まず検証だ。ゲームと一緒ならアレックスは勇者の力で身体能力が高いはずだし、フィアナは魔法が使えるはずだ」
俺が言うと、明弘は呆れた顔をした。
「町に入る前にか?」
「むしろ入る前だからだな」
異世界に来た……おそらく。
ゲームのキャラクターになった……これもおそらく。
だが俺たちはまだ何も分かっていない。
この身体が本当にゲームのキャラクターと同じ性能なのか。
レベルはあるのか。
スキルは使えるのか。
検証できることは今のうちに検証するべきだった。
「プログラマーの悪い癖だな」
「馬鹿野郎。システムを理解しないまま運用する方が怖い」
それは本心だった。
未知の環境ほど恐ろしいものはない。
だからこそ仕様を確認する。
それが俺のやり方だ。
「じゃあ何からやる?」
明弘が立ち上がる。
俺は少し考えた。
「まず身体能力」
「分かりやすいな」
ゲーム内のアレックスは戦士タイプ。
高い筋力と身体能力を持つ。
一方フィアナは後衛の聖女。
身体能力は一般人程度のはず。
「その辺の木を殴ってみろ」
「嫌だよ」
「主人公だろ」
「だからって木を殴る理由にはならないだろ」
文句を言いながらも明弘は近くの木へ歩く。
そして軽く拳を振った。
バキッ。
木が折れた。
二人とも固まる。
沈黙。
「……」
「……」
「え?」
明弘が間抜けな声を出した。
折れた。
直径二十センチ近い木が拳一発で。
「待て待て待て」
俺は慌てて駆け寄る。
確認する。
見間違いじゃない。
本当に折れている。
「お前、今本気で殴った?」
「まあそれなりに。でも木が折れるとは思わなかったぞ」
「嘘だろ」
「俺が一番驚いてる」
どうやらアレックスの身体能力は本物らしい。
次は俺だ。
近くの石を持ち上げる。
重い。
普通だ。
少なくとも怪力ではない。
ゲーム設定通りだった。
「よし」
俺は頷く。
「筋力は再現されてる」
「嫌な確認の仕方だな」
「次」
俺は右手を前に出した。
フィアナのクラスは聖女。
回復魔法と神聖魔法を扱う。
当然ゲーム内では大量の魔法が存在する。
問題は発動方法だ。キーボードもコントローラーもない。
「どうする?」
「分からん」
俺は眉をひそめる。
ゲームならコマンド選択で済む。
だがここは現実だ。
しばらく考える。
そして思い出した。
「魔法陣か」
「確かに。そういう設定にしたな。だが魔法陣なんてどこにある?ゲームみたいに虚空に浮かぶわけじゃないだろう」
明弘が納得したように頷く。
確かに設定上の魔法はそうだった。
魔力を認識し、術式を魔法陣で構築し、現象として発動させる。
俺は深呼吸した。そして頭の中で魔法陣を思い描く。
フィアナの使えるすべての魔法、というかゲーム内で登場する全魔法の魔法陣は覚えている。
こちとら製作者だ。ビルドのたびに何回アセットの確認を……と、そこまで考えてふと思い出した。
(そういや、魔法陣のグラフィックも全部、例のグラフィッカーから送られてきたんだっけな)
(それにここに来る直前に送られてきたやけに細かい魔法陣……何か意味があるのか?)
怪訝そうに見ている明弘を横目に、俺は最も基本的な神聖魔法《ライト》の魔法陣を頭の中で思い描きつつ
ゲームの魔法発動モーションそのままに右手を前に突き出し──次の瞬間。
右手の前に魔法陣が浮かび上がると同時に、眩しい光球が出現した。
「うおっ!」
明弘が後退る。
俺も驚いた。
成功した。
本当に魔法が発動した。
しかも。
「おい、待てよ」
俺は光球を見つめる。
違和感があった。
ゲームのライトはただの照明魔法だ。
だが。
「熱がある」
「熱?」
「少しだけ」
光球から微かな暖かさを感じる。
ゲームには存在しなかった設定だ。
つまり、再現されているだけではない。
現実として補完されている。
その事実に背筋が寒くなる。
「直人」
明弘の声が真面目になる。
「これ、思ったより危なくないか」
「分かってる」
俺も同意だった。
ゲームでは失敗してもやり直せる。
だがここは違う。
もし魔法を暴発させれば。
本当に怪我をする。もしかしたら本当に死ぬ。その可能性がある。
「次、スキルだ」