俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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旧鐘楼区画

「ですが有力な手掛かりがありません」

 

コーデリアは資料を閉じた。

行方不明者の数は少なくなかった。

 

旅人や冒険者、浮浪者だけではない。

商人、職人などの王都在住の労働者。

身元の分かる人間まで消えている。

 

それなのに足取りが掴めない。

私が資料を眺めていると、隣でアレックスが腕を組んだ。

 

「一つ気になることがある」

 

レオンが視線を向ける。

 

「何だ」

 

「まだ根拠は弱い」

 

そう前置きしてからアレックスは続けた。

 

「今日聞いた鐘の音だ」

 

コーデリアが首を傾げる。

 

「鐘ですか?」

 

「行方不明事件との関係は分からない」

 

アレックスは正直に言った。

 

「ただ、あの鐘は普通じゃない」

 

レオンは腕を組んだまま聞いている。

 

「さっきも言っていたな」

 

「ああ」

 

アレックスは頷く。

 

「もし何かが王都全体へ影響を与えているなら、鐘は候補になる」

 

私は思わずアレックスを見る。

ゲーム開発中からそうだった、こいつは根拠のない断言をしない。

つまり、それなりに何か確信があるのだろう。

コーデリアはしばらく考え込んでいたが、やがて机の上の地図を広げる。

 

「王都には八ヶ所の鐘楼があります」

 

「八ヶ所」

 

「地区ごとに管理されています」

 

アレックスが地図へ身を乗り出した。

 

「全部調べられるか?」

 

「可能です」

 

コーデリアは即答した。

 

「鐘守への許可もこちらで取ります」

 

レオンが低い声で言う。

 

「鐘の調査か」

 

「行方不明事件との関係は不明です」

 

コーデリアも理解しているようだった。

 

「ですが現状、有力な手掛かりはありません」

 

その言葉で決まった。

 

「分かった」

 

アレックスが頷く。

 

「全部回る」

 

 

翌朝、私たちは王都中心部の鐘楼から調査を始めた。

鐘楼そのものは珍しくない。

王都のどこからでも鐘が聞こえるよう配置されているらしい。

 

市場近く、神殿区画の鐘楼、南門近くの鐘楼。

鐘が鳴る時間に合わせて移動し、鐘が鳴るのを待つ。

 

ゴォォォン――

 

アレックスは目を閉じた。

周囲の人々は誰も気にしない。

日常の音。ただそれだけだ。

鐘が鳴り終わる。

 

数秒後。

アレックスは首を横に振った。

 

「違う」

 

「何が?」

 

ルークが聞く。

 

「普通だ」

 

「だから何が普通なんだよ」

 

ルークが頭を抱えた。

私も気持ちは分かる。何も分からない。

鐘は普通の鐘だった。

 

二ヶ所目。

三ヶ所目。

結果は変わらない。

 

「これも違う」

 

「普通」

 

「異常なし」

 

その繰り返しだった。

昼を過ぎた頃にはルークの表情が露骨に疲れていた。

 

「なあ」

 

「何だ」

 

「本当に調査になってるか?」

 

アレックスは真顔で答えた。

 

「なってる」

 

「そうか……」

 

ルークは納得していないようだったが、文句は言わずに付き合ってくれる。

 

 

四ヶ所目の鐘楼を出たところで私は聞いてみた。

 

「お前、何を聞いてるんだ?」

 

アレックスは少し考えた。

 

「鐘」

 

「それは分かる」

 

「いや、正確には違うな」

 

言いながら空中に線を引く。

 

「鐘の音そのものじゃない」

 

「じゃあ何だ」

 

「後ろ」

 

「後ろ?」

 

ルークとミリアも聞いている。

アレックスは地面へ小石を投げた。

転がる音が響く。

 

「今の音が鐘だとする」

 

「うん」

 

「その後ろで誰かが小声で喋ってる」

 

ミリアが首を傾げる。

 

「聞こえないよ?」

 

「普通はな」

 

アレックスは頷いた。

 

「でも聞こえる」

 

「お前だけだろ」

 

ルークが即座に突っ込んだ。

 

「たぶんな」

 

否定しない。

私は少し考える。

元の世界の知識を総動員してようやく理解できた。

 

「《ノイズ》?」

 

「近い」

 

アレックスがこちらを見る。

 

「鐘だけ鳴ってるように聞こえる。でも違う」

 

「何か重なってる?」

 

「そう」

 

そこで初めてアレックスは少し笑った。

 

「そこまでは分かった」

 

「何が重なってるんだ?」

 

「分からん」

 

即答だった。

 

「だから探してる」

 

 

夕方近く。

七ヶ所目の調査が終わった。

残りは一つ。

地図を確認したコーデリアが言う。

 

「最後は旧鐘楼区画です」

 

「旧鐘楼区画?」

 

「昔の市街地ですね。建物が老朽化していて、住民が減っています」

 

この辺りは、王都中心部ほどの賑わいは無いらしい。

街並みが少しずつ変わる。

石畳は古く建物も年代を感じる。人通りも少ない。

王都中心部とは空気が違った。

寂れている。そんな表現が近い。

 

やがて鐘楼が見えた。

他の鐘楼より古い。

石壁には風雨の跡が刻まれている。

その時。

 

ゴォォォン――

 

鐘が鳴った。

アレックスの動きが止まる。

私はすぐに気付いた。

今までとは違う。

鐘が鳴っている間、アレックスは微動だにしなかった。

音が消える。

それでも耳を澄ませ続けている。

十秒ほど経った頃だった。

 

「……見つけた」

 

小さな声だった。

レオンが反応する。

 

「何だ」

 

アレックスは鐘楼を指差した。

 

「ここだ」

 

「異常があるのか?」

 

「ある」

 

迷いのない返答だった。

私は鐘楼を見る。

何も変わらない。

古い鐘楼だ。

それだけにしか見えない。

 

「何が違う?」

 

アレックスは少し考えてから言った。

 

「鐘は一つじゃない」

 

意味が分からなかった。

レオンも同じらしい。

 

「説明しろ」

 

アレックスは空中に二本の線を描いた。

 

「こっちが普通の鐘」

 

一本目。

 

「こっちが別の音」

 

二本目。

 

「二つ重なってる」

 

コーデリアが眉をひそめる。

 

「そんなことが可能なのですか?」

 

「分からない」

 

アレックスは首を振った。

 

「でも聞こえる」

 

そして鐘楼を見上げた。

 

「表向きの鐘の音の裏に、別の《信号》がある」

 

ルークが首を傾げる。

 

「しんごう?」

 

「遠くに何かを伝える仕組みだ」

 

私が補足すると、ルークもミリアもますます困惑した顔になる。

 

「それって鐘だから時間じゃないのか?」

 

「それだけじゃない。俺にも仕組みは分からない」

 

アレックスは鐘楼を見上げた。

 

「普通の鐘の音じゃない」

 

そして静かに続ける。

 

「表向きの音の裏に、何か別の《情報》が重なってる」

 

私は鐘楼へ視線を向けた。

私には聞こえない。

だがアレックスだけは確信していた。

 

「他の鐘楼には無かった」

 

レオンが確認する。

 

「ここだけか?」

 

「ああ」

 

アレックスは断言した。

 

「ここだけだ」

 

 

夜、私たちは王都調査局へ戻った。

報告を聞いたコーデリアは真剣な表情になる。

 

「旧鐘楼区画のみ異常」

 

「確証は無い」

 

アレックスは椅子へ腰掛けた。

 

「ただ、他と違うのは間違いない」

 

レオンはしばらく考え込んでいた。

やがて立ち上がる。

 

「十分だ」

 

短い言葉だった。

 

「旧鐘楼区画を調査対象に追加する」

 

コーデリアも頷く。

 

「明日から周辺の資料を集めます」

 

私は窓の外を見る。

夜の王都。

遠くで鐘が鳴った。

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