俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
王都調査局を出たのは翌朝だった。
「旧鐘楼区画かぁ」
ルークが地図を見ながら言う。
「王都にもこんな場所があるんだな」
「昔の市街地なんだって」
ミリアが答える。
「再開発から取り残された区域ですね」
コーデリアが資料を見ながらそう告げた。
ゲームにも『旧市街』という地域を大雑把に設定していた。
シティアドベンチャー系のクエストで、戦闘を発生させるための地域だ。
それが現実では「旧商業区画」「旧鐘楼区画」と細かく分かれている。
王都の拡張に伴って中心地が移り、人々も新しい区画へ移住した。
残された建物は老朽化し、現在では低所得者や職人の一部が暮らす程度。
王都の中でも特に人口が少ない地域だという。
「行方不明者が出るには都合が良さそうだな」
アレックスの言葉に全員が頷いた。
王都中心部から離れるにつれて景色が変わる。
整備された石畳はひび割れが目立ち始め、建物の壁にも補修跡が増える。
洗濯物が風に揺れている。
人はいるが少ない。
通りを歩く者の表情もどこか疲れて見える気がする。
やがて、昨日アレックスが異常を指摘した鐘楼が見えてくる。
高くそびえる石造りの塔。
近くで見ると老朽化は明らかだった。
壁面には苔が張り付き、一部には補修の痕跡もある。
「まずは聞き込みですね」
コーデリアの提案で周辺住民への聞き込みを始めた。
◇
「行方不明?」
年配の男性が眉をひそめた。
「そりゃ聞いたことはあるよ」
「この辺りでもですか?」
「最近だな」
男性は声を落とした。
「夜になると帰ってこない奴がいる」
「何人くらいです?」
「さあな」
男は首を振る。
「役人も来てたが結局分からなかった」
別の住民にも話を聞いた。
こちらは雑貨屋の女性だった。
「夜は出歩かない方がいいよ」
「何かあったんですか?」
「消えるんだよ」
女性は小さく言った。
「見つからないんだ」
「魔物とか?」
ルークの質問に女性は首を振る。
「違うね」
「悲鳴も聞こえない」
「争った跡も無い」
「朝になったらいなくなってる」
私はメモを取りながら話を聞く。
どれも決定打には欠ける。
ただ一つ、ここでも行方不明者は確実に存在する。
それも王都調査局の資料だけではなく、住民たちも異常を認識するくらいには。
◇
聞き込みを終えると鐘楼の調査を始めた。
内部は想像以上に狭い。
螺旋階段が上へ続いている。
埃っぽい空気。誰も使っていないわけではないらしいが、人の出入りは少なそうだった。
アレックスは壁や柱を確認している。
私は《ディバイン・サイト》を使った。
光の粒子が視界に広がる。
呪い……魔力……異常……意識して探してみる。
だが反応は無い。
「どうだ?」
アレックスが聞く。
「何もない」
「鐘は?」
「普通に見える」
実際、鐘そのものからは何も感じない。
呪いも魔法陣も無かった。
鐘楼最上部まで調べたが成果は無い。
「外れか?」
ルークが呟いた。
その時、胸の奥で何かが引っ掛かった。
何とも言えない違和感……今まで感じていたものとは少し違う。
私は立ち止まる。
「フィアナ?」
ミリアが不思議そうにこちらを見る。
私は返事をしない。
感覚を探る。
鐘ではない。
塔でもない。
もっと別の場所。
もっと下。
「……下?」
思わず口に出た。
「何だ?」
アレックスが近付いてくる。
私は床を見た。
石造りの床。
見た目は普通だ。
だが。
感覚は確かにそこを指していた。
「鐘じゃない」
「何?」
「下だ」
私はしゃがみ込んだ。
王都に来てから初めてだった。
アレドの地下遺跡、エリシアの呪い。あの時と似ている。
理屈ではない。だが無視できない。
「地下に何かある」
レオンの目が細くなる。
「根拠は」
「説明できない」
正直に答えた。
「でもある」
アレックスはすぐに床へ視線を落とした。
「探そう」
◇
そこから探索が始まった。
壁を叩く、床を調べる、隙間を確認する。
一時間近く成果は無かった。
ふと、ルークが疲れたように壁へ寄り掛かった時だった。
ゴトッ。
鈍い音が響く。
全員の視線が集まる。
「今の何だ?」
「俺じゃねぇぞ」
ルークが慌てて離れる。
壁の一部がわずかに沈んでいた。
アレックスが近付く。
手で押すが動かない。
別の場所を調べると、石材の一つだけ摩耗具合が違った。
「これか」
アレックスが押し込むと重い音が響いた。
ゴゴゴゴ……
壁の一部が横へ動く。
その奥から冷たい空気が流れ出す。
地下へ続く階段。
「隠し通路……」
ミリアが呟く。
レオンはすぐに剣へ手を掛けた。
「当たりだな」
コーデリアの表情も険しくなる。
地下、しかも隠蔽された入口。
偶然で済む話ではない。
私は階段の奥を見つめた。
鐘ではない、異常の中心は地下だ。
アレックスも同じ結論に至ったらしい。
「行くぞ」
短く言う。
ルークが剣を抜き、ミリアが弓を持つ。
私たちは視線を交わし、小さく頷く。
そして一歩ずつ地下へ足を踏み入れた。