俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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未実装スキル

地下へ続く階段は、想像していたよりもずっと深かった。

石壁に囲まれた通路を《ライト》の光が照らす。

先頭を進むレオンの背中を見ながら、私は周囲へ意識を向けた。

冷たい空気に、微かな湿気。

地上の鐘楼とはまるで別の世界だ。

 

「かなり深いな」

 

ルークが小声で言う。

 

「鐘楼の地下ってレベルじゃないぞ」

 

「同感です」

 

コーデリアも周囲を見回した。

 

「こんな施設が王都の地下に存在していたとは……」

 

やがて階段が終わる。

私たちは広い地下通路へ足を踏み入れた。

 

最初に感じたのは既視感だった。

壁、柱、床。

規則正しく並ぶ石材。

装飾とも文字ともつかない模様。

 

「フィアナ」

 

「ああ」

 

アレド西の森で見つけた地下施設。

エリシアを救出したあの場所。

 

「似てるな」

 

アレックスが壁に触れる。

 

「かなり」

 

私は頷いた。

 

「同じ時代の建物かもしれない」

 

レオンが周囲を見渡す。

 

「心当たりがあるのか?」

 

「エリシア様を救出した施設と似ている」

 

アレックスが答えた。

 

「構造も雰囲気も近い」

 

「偶然には見えませんね」

 

コーデリアが記録を取り始める。

私は改めて壁の模様へ視線を向けた。

アレドの地下施設だけではない。もっと別の場所でも見た。

ゲーム開発中。謎のグラフィッカーが送ってきた資料の中に似た意匠があった。

 

 

通路を進む。分岐は少ない。

まるで何かの施設をそのまま埋めたような造りだった。

 

不意にアレックスが立ち止まる。

剣の柄に手を掛けている。

 

「何かいる」

 

その声とほぼ同時だった。

暗闇の奥で何かが動く。人ではない。

黒い影が光の外縁に現れた。赤い眼がこちらを見ている。

 

「影の魔物か!」

 

ルークが剣を抜いた。

影は一斉に飛び出してくる。

四体、いや、さらに後ろにもいる。

 

「来るぞ!」

 

アレックスが前へ出た。

先頭の個体が爪を振り上げる。

それより速く剣が閃いた。

 

《スラッシュ》

 

黒い胴体が斜めに断たれる。

だが残りは止まらない。

左右から回り込む敵を、ルークが迎撃する。

 

「はあっ!」

 

剣撃が影の腕を切り飛ばした。

ミリアは後方へ跳びながら弓を構える。

 

《ダブル・ショット》

 

二本の矢が同時に放たれた。

一体の肩と首へ命中する。

影がよろめく。そこへ私は杖を掲げた。

 

《ホーリー・アロー》

 

光の矢が飛ぶ。

直撃した影が白い粒子となって崩れた。

神聖属性への弱さは変わらない。

だが数が多い。さらに奥から三体現れる。

 

「増えたぞ!」

 

ルークが叫ぶ。

 

その時だった。

レオンが一歩前へ出る。左手で剣を構える姿勢は独特だった。

重心を低く落とし、刀身を後方へ引く。

 

見たことがない。いや、見たことはある。

だがあれは……!

 

レオンの剣が淡い光を帯びる。

空気が震えた。

魔力が集中している。

 

「あれは……」

 

アレックスも気付いたらしい。

レオンが踏み込む。

一瞬。

 

《ジャッジメント・ブレード》

 

白銀の軌跡が走る。

閃光、遅れて轟音。

前方にいた影の魔物がまとめて消し飛んだ。

斬られたというより、光そのものに呑み込まれたようだった。

 

ルークがようやく口を開く。

 

「……今の何だよ」

 

「スキルだ」

 

レオンは短く答えた。

 

「見れば分かる」

 

「いや、分からねぇよ」

 

もっともな反応だった。

ルークとは少し違うが、私も同意見だった。何故なら。

 

「アレックス」

 

「ああ」

 

彼も理解している。

あの技は『未実装スキル』だ。

ゲームのデータには存在したが、存在するはずのない技。設定資料だけに残っていた技。

 

それが目の前で使われた。

レオン本人は当然そんな事情を知らない。

だからこそ不気味だった。

 

この世界は私たちが知るゲームに似ている。

しかし決してゲームそのものではない。

その事実を改めて突き付けられた気分だった。

 

 

私たちはさらに奥へ進んだ。

影の魔物が現れた以上、この施設はきっと行方不明事件と無関係ではない。

しばらく歩いたところでミリアがしゃがみ込む。

 

「これ見て」

 

床を指差した。

擦れた跡。

何かを引きずったような痕跡だった。

レオンも確認する。

 

「新しいな」

 

「分かるのか?」

 

ルークが尋ねる。

 

「埃の積もり方が違う」

 

確かにそうだ。周囲には薄く埃が積もっていがその部分だけは削られている。

最近できた跡のようだ。

 

私は近くに落ちていた布切れを見つけた。

粗末な服の一部。冒険者ではない。

王都の一般市民が着ていても不思議ではない服。

 

「行方不明者か」

 

アレックスが低く呟く。

私は頷いた。

可能性は高い。

さらに周囲を探る。

壁際……床……角……そして通路の奥。

 

「フィアナ?」

 

アレックスがこちらを見る。

私は目を閉じて感覚を研ぎ澄ませた。

鐘楼で感じたものと同じ、地下へ続いていた違和感。

私は通路の奥を指差した。

 

「向こうだ」

 

「何がある?」

 

レオンが尋ねる。

 

「分からない」

 

正直に答える。

 

「でも、この痕跡と同じ方向だ」

 

引きずられた跡も。微かな感覚も。

どちらも同じ場所を指していた。

アレックスが剣を握り直す。

 

「追うぞ」

 

私たちは警戒を強めながら歩き出した。

《ライト》の光が暗闇を押し退ける。

その先には、まだ見えない何かが待っているようだった。

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