俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
行方不明者を追って進んだ通路は、やがて少し開けた場所へと繋がっていた。
一本道だった通路とは違う。
左右にはいくつもの部屋が並び、廊下の先にも扉が続いている。
「さっきまでとは造りが違うな」
ルークが周囲を見回した。
「生活してた場所……じゃないよね」
ミリアも壁際の石棚を眺める。
私は一番近くの部屋へ足を踏み入れた。
石のような不思議な材質の長机、壁一面の棚、床には砕けた水晶や金属片が散乱している。
何かを保管していたような棚も半ば崩れていた。
「ここは……」
アレド西の森で見つけた地下施設と、壁の模様も柱の造りもよく似ている。
ただ一つ違うのは、こちらの方が保存状態がずっと良いことだった。
崩落は少なく、部屋の形もかなり残っている。
「同じ文明だろうな」
アレックスも壁を撫でながら呟いた。
「でもこっちの方が新しい……いや、壊れてないだけか」
「設備も多いですね」
コーデリアが机の上を確認する。
「用途別に部屋が分かれているようです」
私は部屋の中央へ歩きながら周囲を見回した。
整然と並ぶ机に壁際の棚、それから部屋の配置。
どこか懐かしさを感じる。
「……《学校》みたいだ」
気付けばそんな言葉が漏れていた。
アレックスが振り向く。
「俺も思った」
「がっこう?」
ルークが聞き返す。
「俺たちの故郷にあった建物だ」
アレックスが説明する。
「勉強したり研究したりする場所」
私は頷いた。
「大学……に近い雰囲気かな」
もちろん石造りだし、魔法文明だから見た目は全く違う。
それでも部屋の役割が分かれている感じや、人が机を囲んで何かを調べていたような空気は、不思議と大学の研究棟を思い出させた。
「研究施設だったのかもしれませんね」
コーデリアの言葉に、私たちは自然と頷いた。
◇
部屋を調べていると、壁際から数枚の金属板が見つかった。
表面には細かな古代文字が刻まれている。
「読めそうか?」
レオンが尋ねる。
コーデリアは慎重に文字を追った。
「完全ではありませんが……」
しばらく黙読を続ける。
やがて顔を上げた。
「音響魔法……という言葉があります」
「音響」
アレックスが反応する。
「他には?」
「共鳴、増幅、魔力伝達……」
コーデリアは別の行へ視線を移した。
「遠距離……でしょうか。少し自信がありません」
「遠距離?」
ルークが首を傾げる。
「古代語なので断定はできません」
コーデリアは苦笑した。
「ですが、この施設が音に関する魔法の研究施設だった可能性は高いと思います」
私は昨日聞いた鐘の音を思い出していた。
旧鐘楼区画だけ違っていた音。
あれと無関係とは思えない。
◇
研究室を抜けると、さらに広い空間へ出た。
天井は高く、柱が何本も並んでいる。
部屋の中央には巨大な装置が列を成していた。
「何だ……これ」
ルークが思わず声を上げる。
高さは人の背丈ほど。
金属と未知の材料で組み上げられた箱のような装置が何台も並んでいる。
多くは壊れていた。
外装が崩れ、内部が露出している。
私は壊れた一台へ近付いた。
中には薄い板が何枚も重なっている。
細い金属線が複雑に枝分かれし、透明な結晶へ繋がっていた。
「……」
思わず立ち止まる。
横からアレックスも覗き込んだ。
しばらく無言だった。
「フィアナ」
「ああ」
言葉にする前から分かっていた。
これは知らない装置だ。
なのに、全く知らないものには見えなかった。
「何となく……」
私は内部を指差す。
「基板っぽく見えないか」
アレックスは苦笑した。
「俺も今それ言おうとしてた」
もちろん本物の電子基板ではない。
半導体も電子部品も存在しない。
結晶と金属線で構成された、まるで別物の技術だ。
それでも。
線が枝分かれし、複数の部品が繋がり、中央へ情報が集まり、また別の場所へ流れていく。
そんな構造だけは妙に見覚えがあった。
さらに奥には、背の高い箱型の装置が整然と並んでいる。
「……あれ」
アレックスが小さく笑った。
「ラックサーバーみたいだな」
「似てるだけだけどな」
私も思わず笑ってしまう。
外見だけ。
雰囲気だけ。
それでも、元の世界を知る二人にはそう見えてしまう。
ルークが困った顔をした。
「何がそんなに似てるんだ?」
「説明は難しい」
私は首を振る。
「俺たちの世界にあった《コンピューター》を思い出しただけだ」
「こんぴ……?なんだそれ」
「いや……やっぱり説明は難しいな」
私自身も断言できなかった。
本当に似ているのは形ではなく設計思想なのかもしれない。
◇
「昨日の鐘だけど」
全員が耳を傾ける。
「普通の鐘は音を鳴らすだけだ」
「うん」
「でも旧鐘楼区画の鐘は違った」
アレックスは床へ指を伸ばした。
「鐘の音そのものじゃない」
「じゃあ何なんだ?」
ルークが聞く。
「音に何かを載せてる」
「載せる?」
元の世界なら理解できる。
音を媒体として情報を運ぶ技術。
現代にも似た発想は存在する。
「この施設が音響魔法を研究していたなら」
アレックスは続けた。
「鐘の音に、何か魔法を載せているのかもしれない」
レオンは腕を組んだ。
「つまり、誰かが今も古代設備を利用していると?」
アレックスは静かに言った。
「おそらく、鐘を利用して何かを送り続けている」