俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
研究施設のさらに奥へ進むにつれ、周囲の空気が少しずつ変わっていった。
壁に埋め込まれた結晶が、淡い青白い光を放っている。
ここまで歩いてきた区画はほとんどが崩れ、機械も沈黙していた。
だが、この先は違う。
足元を流れる細い溝には微かな光が走り、どこかで低い駆動音のような響きが続いていた。
私は無意識に歩みを緩める。
胸の奥で何かが引っ掛かった。
呪いを追った時とも違う。
見えない糸が、さらに奥へ伸びているように感じる。
「フィアナ?」
アレックスが振り返る。
「……何かがある……たぶん」
私は前方を見つめた。
「この先か」
レオンが剣を抜く。
「全員、警戒」
誰も軽口を叩かなかった。
◇
通路の先には巨大な扉があった。
半ば開いたまま止まっている。
全員で押し広げると、重い音が地下へ響いた。
その先には広大な空間が広がっていた。
部屋の中央には、人の背丈を遥かに超える巨大な透明結晶。
床から伸びた幾本もの金属柱が結晶を支え、周囲では古代装置が今なお稼働している。
青い光が結晶から装置へ流れ、装置から天井へ。
まるで施設全体へ命を送り込んでいるようだった。
「動いてる……」
ミリアが小さく呟く。
何千年も前の施設。それが今も動き続けている。
その時。
『重要区画への侵入者を検知しました』
無機質な声が部屋全体へ響く。
ルークが周囲を見回す。
「誰だ!」
『速やかに当該区域より退去してください』
声は感情を全く含まない。
『侵入者の残留を確認』
『防衛機構を起動します』
中央の結晶が強く輝いた。
結晶の表面から光が剥がれ落ちるように集まり、一体の人影を形作る。
透明な結晶でできた騎士。
右腕は長い刃。
左腕には筒状の結晶器官が備わっている。
「来るぞ!」
アレックスが叫んだ。
結晶の騎士が床を蹴る。
想像以上の速さだった。
「速っ!」
ルークが迎え撃つ。
《トライ・エッジ》
三連撃。
火花を散らしながら刃が結晶を斬る。
だが騎士は止まらない。
右腕の刃が振り下ろされる。
アレックスが割って入り剣で受け止めた。
金属同士とは違う高い音が地下へ響く。
次の瞬間。
キィィィン――
耳を貫く甲高い音。
頭の奥まで震える。
「ぐっ……!」
身体が一瞬だけ硬直した。
これは魔法だ。
音そのものが術式になっている。
「動きが鈍る!」
レオンが叫ぶ。
騎士の左腕がこちらを向く。
光線が一直線に走った。
「散れ!」
床が爆ぜる。
石片が飛び散り、私は横へ転がった。
《ファイア・ストライク》
ミリアの炎が騎士を包む。
続けて矢が放たれる。
《ピアシング・ショット》
高速で放たれた矢が結晶の胸を貫く。
「ルーク!」
「ああ!」
二人が左右から同時に斬り込む。
騎士は後退した。
その瞬間。
部屋の隅々から黒い影が湧き上がる。
「影の魔物まで!」
十体。
いや、それ以上。
「数が多い!」
私は杖を掲げた。
《ディバイン・レイ》
光が炸裂する。
数体が一瞬で消滅する。
だが残りは止まらない。
「フィアナの援護を通す!」
アレックスが前へ出る。
ルークも背中を預けた。
「こっちは任せろ!」
「ミリア!」
「了解!」
《ダブル・ショット》
放たれた四本の矢が影を貫く。
レオンも神聖属性を宿した剣で敵を切り裂いていく。
連携は崩れない。
それでも敵は多かった。
◇
「倒したか」
ルークが息を整える。
結晶の騎士は床へ崩れ落ちていた。
砕けた身体が光となって散っていく。
その直後。
中央の巨大結晶が脈打つ。
散った光が吸い寄せられる。
「まさか」
再び結晶が人型を形作る。
数秒もしないうちに騎士が立ち上がった。
「復活した!?」
「本体はあの結晶か!」
アレックスが中央を見る。
私は巨大結晶へ視線を向けた。
直感した。この部屋で最も歪んだ「流れ」はあの結晶だ。
「アレックス!」
「分かってる!」
「結晶を壊せば止まる!」
レオンが頷く。
「全員、守護機構を押さえ込む!」
騎士が突撃してくる。
アレックスが正面から受け止める。
ルークが右腕へ斬りかかる。
レオンが左腕の光線を剣で逸らす。
「今だ!」
私は結晶へ向かって駆けた。
影の魔物が立ちはだかる。
ミリアの矢がその肩を射抜く。
「行って!」
あと数歩。
巨大結晶の前へ飛び出す。
杖を両手で握り、高位魔法を紡ぐべく意識を集中する。
《セイント・アロー》!
最初は乾いた衝撃音。
そして、亀裂が蜘蛛の巣のように広がる。
結晶全体が激しく明滅した。
そして――。
轟音と共に、巨大結晶は無数の光片となって砕け散った。