俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
巨大結晶が砕け散ると同時に、部屋全体を満たしていた青白い光が大きく揺らいだ。
天井や壁を走っていた光の筋が一本、また一本と消えていく。
復活しかけていた守護機構は動きを止め、その身体を構成していた結晶が砂のように崩れ落ちた。
「……終わったのか」
ルークが剣を構えたまま呟く。
レオンは周囲へ視線を巡らせる。
「まだ油断は禁物だ。施設が停止しただけかもしれん」
私も頷いた。この地下施設そのものから漂う異様さはまだ消えていない。
「部屋を調べよう」
アレックスの提案に全員が動き始めた。
◇
結晶のあった広間は思っていた以上に広かった。
装置が並ぶ区画のさらに奥へ進むと、厚い金属扉が半ば開いている。
レオンが慎重に押し開ける。
中を覗いた瞬間、私たちは息を止めた。
「……人だ」
部屋いっぱいに金属製の台座が並んでいる。
その一つ一つに、人が拘束されていた。
「生きてる!」
私は駆け寄る。
手首や足首を固定する金具。
身体へ伸びる細い管。
透明な結晶。
どこかで見た光景だった。
「これは……」
思わず言葉が漏れる。
「アレド西の森の地下施設だ」
アレックスも同じことを考えていたらしい。
「あの拘束設備と同じだ」
構造まで酷似している。
違うのは数だけだった。
ここには何十人もの人々が並べられている。
「フィアナ!」
ミリアが一人の女性を指さす。
「息がある!」
私は急いで神聖魔法を発動した。
《ハイ・ヒール》
柔らかな光が女性を包む。
青白かった頬に少しだけ血色が戻った。
「まだ助けられる」
「急ごう!」
全員が散って拘束具を外し始める。
レオンは力任せに金具を引きちぎり、ルークは意識のある者へ水を飲ませる。
ミリアは動ける人を順番に支えていた。
だが。
「……」
救えない人もいた。
身体はまだ温かい。
けれど鼓動は止まっている。
魔法でも届かない場所まで命が離れてしまっていた。
私は歯を食いしばる。
結局、生き残っていたのは全体の二割ほどだった。
あと少し早ければ。
そんな考えが頭をよぎる。
だけど今は立ち止まっていられない。
◇
「こっちにも部屋がある」
ルークの声に振り向く。
拘束室の隣。
小さな制御室らしい場所だった。
中央には円形の台座。
その上には、他の装置より一回り大きな古代機械が据えられている。
驚くほど保存状態が良い。
「まだ動いてる」
アレックスが小さく呟いた。
表面には淡い光。
複数の結晶板が浮かび、文字や図形が絶えず変化している。
コーデリアが古代文字へ目を向ける。
「制御……管理……施設接続……」
「読めるのか?」
「全部ではありません。でも管理装置のようです」
私は装置を眺めた。
壊れた古代機械とは違う。
どこか、現代で見た電子機器を思わせる整然とした構造だった。
結晶板の一つへ世界地図らしき図が映る。
各地を線が結び、無数の光点が脈動している。
「ネットワーク……?」
思わずそんな言葉が浮かぶ。
隣でアレックスも同じ画面を見つめていた。
「施設同士が繋がってるように見える」
「そんなことまで出来るのか」
レオンが驚きを隠せない。
さらに別の結晶板が切り替わる。
そこへ一人の女性が映し出された。
長い銀髪。
落ち着いた表情。
こちらを見ているわけではない。
ただ静かに正面を向いた肖像画のようだった。
その下では一本の横長の表示がゆっくり光っている。
■■■■■■■■■■
表示は既に端まで満たされていた。
100%
その数字だけは誰にでも理解できた。
「これは……」
(まるでPCのプログレスバー表示みたいだ)
私が呟いた、その時だった。
隣でレオンの呼吸が止まる。
彼は女性の姿を見つめたまま動かない。
「レオン?」
小さく肩が震える。
やがて、信じられないものを見るような声が漏れた。
「この方は……」
それだけ言って口を閉ざした。
「知っている人ですか?」
ミリアが尋ねても、レオンはすぐには答えられない。
視線は画面から離れなかった。
「……いや」
ようやく首を振る。
「気のせいかもしれん」
明らかに気のせいではない表情だった。
だけど今は、それ以上聞ける雰囲気ではなかった。
「後で調査局へ報告しよう」
アレックスが言う。
「この装置も、その女性も重要な手掛かりだ」
誰も異論はなかった。
◇
生存者を支えながら地上への階段を上る。
地下の冷たい空気が少しずつ外気へ変わっていく。
旧鐘楼区画へ出た時には、空は夕暮れに染まり始めていた。
街にはまだ静けさが残っている。
救助を待つ人々へ調査局員が駆け寄っていく。
その様子を見届けていたアレックスが、不意に立ち止まった。
「……消えてる」
「何が?」
私が尋ねる。
彼は鐘楼を見上げていた。
風に揺られ、大きな鐘がゆっくり鳴る。
澄んだ音が旧市街へ広がった。
アレックスは耳を澄ませる。
しばらくして、小さく息をついた。
「あの重なっていた音がない」
「今は鐘だけが鳴ってる」
私は音そのものの違いは分からない。
だけどアレックスは確信していた。
「地下施設が止まったことで消えたんだ」
その言葉に、レオンも鐘を見上げる。
旧鐘楼区画を覆っていた異変は、確かに終わりを迎えた。
だが、地下で見た女性の姿。
世界中へ伸びるネットワーク……そして、100%を示した表示。
私たちは一つの事件を解決しただけなのだと、その静かな鐘の音が教えているようだった。