俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
「今回はお疲れ様でした。地下施設の調査は我々調査局が引き継ぎます」
王都調査局の執務室で、コーデリアが書類を閉じた。
「解析には一週間ほど必要になるでしょう。その間、皆さんには自由に過ごしていただいて構いません」
「自由行動か」
ルークが嬉しそうに笑う。
「はい。王都内であれば特に制限はありません。それから我々の方でみなさんの宿を手配しています」
「せっかくだし王都を見て回りたい!」
ミリアも目を輝かせた。
私もアレックスを見る。
地下施設のことは気になっていたが、今の自分たちにできることは少ない。
「俺たちも休ませてもらおう」
「賛成」
アレックスも頷いた。
◇
教えてもらった場所にある宿を見た瞬間、全員が足を止めた。
「……豪華すぎないか?」
思わず口から漏れる。
石造り三階建て。
入口には磨き上げられた真鍮の看板。
王都でも指折りらしい宿だった。
「王都調査局から皆さまにご利用頂くよう命じられております」
宿の主人が恭しく頭を下げる。
部屋へ通される。
「え」
しかも。
「個室?」
「全員分あるらしい」
アレックスも少し驚いている。
最近はアレックスと二人部屋か、ルークたちとも一緒の四人部屋が当たり前だった。
一人になれる空間があるだけで妙に落ち着かない。
「調査局って金持ちなんだな……」
ルークがやけに豪華な天井を見上げて感心していた。
◇
翌朝、四人で王都の中心街へ向かうことにした。
行方不明の人たちが、一部とはいえ見つかったことが広まっているのか、街には以前より活気が戻っているように感じる。
露店から漂う香辛料の匂い。
大道芸人を囲む子供たち。
噴水広場では楽師が演奏している。
「こっちこっち!」
ミリアが私の手を引いた。
「雑貨屋さん!」
店先には色とりどりの装飾品が並んでいる。
腕輪。
髪飾り。
耳飾り。
小さな宝石を埋め込んだ首飾りまであった。
「綺麗……」
口に出してから、自分で少し驚く。
昔の私なら、たぶん素通りしていた。
ミリアは楽しそうに棚を見て回る。
「フィアナ、この髪留め似合いそう!」
銀色の小さな花を模した髪飾りだった。
「いや、俺は別に……」
そう言いながら鏡へ映る自分を見る。
銀髪へ軽く添えてみる。
悪くない。
そんな感想が自然に浮かんでしまう。
「……」
慌てて戻した。
何を考えてるんだ、私。
ミリアはくすりと笑う。
「今、ちょっと欲しいって思った?」
「思ってない」
即答した。
「本当かなあ」
からかうような声に、耳が少し熱くなる。
◇
結局、髪飾りは買ってしまった。
早速身に着けていると、少しだけ気分が上向くような気がする。
「長かったな。」
「女の子の買い物は時間がかかるんですよーだ」
ミリアが胸を張る。
「ルークなんて途中で飽きちゃって」
「しょうがないだろ!」
二人のやり取りに笑いが漏れる。
「似合ってるな」
不意に声がした。
アレックスだった。
私は反射的に振り返る。
だが、なぜか彼は少しだけ気まずそうな顔をしていた。
「何だよ」
「いや……」
言いかけて口を閉じる。
珍しい反応だ。
アレックスは普段ならもっと遠慮がない。
「思ったことを言っただけだ」
「……そうか」
何となく居心地が悪くなる。
数秒だけ妙な沈黙が流れ、アレックスは視線を逸らしながら頭を掻いた。
その仕草を見て、私は少しだけ気付いた。
今の一瞬。
こいつは私を男友達の「珠玖直人」として見ていなかった。
「フィアナ」という少女として見たのだ。
その事実に、なぜだか胸の奥が少しだけ落ち着かなかった。
◇
昼過ぎ。
香ばしい匂いが風に乗ってくる。
「あっ!」
ルークが振り返った。
「王都名物だ!」
屋台では大きな串焼きが豪快に焼かれていた。
炭火が弾け、肉汁が落ちるたび煙が立つ。
「四本ください!」
ミリアが先に注文する。
焼きたてを受け取る。
一口かじると肉汁が口いっぱいに広がった。
「うまい。」
思わず声が漏れる。
「だろ?」
アレックスも笑う。
「この屋台、設定したの覚えてるか?」
「ああ。」
思い出した。
王都へ来たら食べ歩きできるようにしたい。
そんな雑談から始まった小さなイベント。
「料理担当のNPCが『秘伝の香辛料』を自慢するんだよな」
「その設定書いたのお前だ」
「俺じゃない、お前だ」
「いや、お前」
二人で言い合う。
「あはは。」
ルークたちは事情も分からず笑っていた。
「二人とも本当に昔からの付き合いなんだね」
「長い付き合いだからな」
アレックスが自然に答える。
その言葉が妙に心地よかった。
◇
食べ終わって広場を歩いていると、人混みの中小さな子供が転びそうになっていた。
私は反射的に支える。
「大丈夫?」
子供へ笑いかける。
「大丈夫だよ!ありがとうお姉ちゃん!」
そう言って子供は去っていった。
ふと隣を見ると、アレックスが私の方を見ていた。
「どうした?」
「……いや。」
答えながら隣を見る。
アレックスは何も変わらない。
昔と同じように隣を歩いている。
変わったのは私の方なのか。
それとも。
「アレックス。」
「ん?」
「いや、何でもない。ミリアたちから遅れてしまったな」
道の先を見ると、ルークとミリアが待っていてくれているようだ。少し小走りに合流する。
「今夜もあの豪華な宿だねー」
そんな話をしながら四人で歩く。
王都の賑やかな通りを、四人の笑い声がゆっくりと流れていった。