俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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ここは本当にゲームの世界?

翌朝、豪華な宿にも少し慣れてきた頃、ルークとミリアは朝から王都の市場へ出かけていった。

私はアレックスの部屋で、机へ肘をついて昨日から頭を離れないことを考えていた。

 

「なあ、アレックス」

 

向かいで本を読んでいた彼が顔を上げる。

 

「レオンさんの《ジャッジメント・ブレード》なんだけど」

 

「ああ」

 

その名前を口にしただけで、二人とも自然と真面目な表情になる。

ゲームでは未実装。それは間違いない。

 

「威力が強すぎて、後で調整しようって話になって、そのまま実装しなかった」

 

「モーションだけ作って、データも途中だったな」

 

私は頷いた。

ゲームデータには残っていた。

スキル名、演出、ダメージ倍率。

だが、プレイヤーは絶対に使えない。

実装していなかったからだ。

 

「なのにレオンさんは使えた」

 

「ああ」

 

短い返事。

その一言だけで十分だった。

しばらく沈黙が続く。

私は以前から抱いていた疑問を口にした。

 

「そういえば、前に試したことがある」

 

「何を」

 

《レイズ・デッド》

 

アレックスが少し笑う。

 

「ああ、あの時か」

 

EEのイベントシーンを再現していたら、ルークとミリアに見つかったあの時。

しばらくの間、二人からの生暖かい目線に耐える羽目になった。

 

「もう笑うな。で、実はあのとき《レイズ・デッド》のモーションも再現できないか試してたんだよ」

 

だけど。

 

「再現できなかった?」

 

「ほかの魔法はまるで知ってるダンスの振り付けみたいに再現できた。だけどあの魔法だけ、そういうのが無かったんだ」

 

その事実から、私は《レイズ・デッド》は存在しないものと結論付けていた。

現実ならば、死者蘇生魔法なんてものは無くて当たり前でもある。

 

「ゲームでは存在する。でもこの世界には存在しない」

 

私は指を一本立てる。

 

「逆に《ジャッジメント・ブレード》はゲームでは未実装。でもこの世界にはある」

 

アレックスも腕を組む。

 

「変だよな」

 

私は机へ視線を落とした。

最初はゲームが現実になったと思っていた。

だからゲームとの違いは、この世界が変化した結果だと、でも。

 

「逆なのかもしれない」

 

「逆?」

 

私はゆっくりと言葉を選ぶ。

 

「この世界が先にあって」

 

「私たちは、その一部だけを知らないままゲームにした」

 

自分で言っておきながら、奇妙な話だった。

ゲーム制作中、私たちは色々な資料を集めた。

そして世界観を考え、シナリオを書いた。

 

にも関わらず、この世界には。

知らない施設、知らない人物、未実装だった技がある。

まるで、完成していない資料を見ながらゲームを作っていたようにも思える。

 

「……もしそうなら」

 

「ゲームを作ってたつもりで、俺たちはこの世界の歴史を拾ってたことになる」

 

「信じられない話だけど」

 

「今さらだろ」

 

苦笑混じりの返事だった。

確かに、異世界へ飛ばされた時点で、常識なんてものはとっくに壊れている。

その時、アレックスが突然立ち上がった。

 

「一つ試してみる」

 

「え?」

 

「《ジャッジメント・ブレード》」

 

私は思わず目を見開いた。

 

「いやいや、未実装だぞ」

 

「でもモーションは覚えている。現実でも見た」

 

たしかに、威力調整前まで開発していた。

だから剣の振り方も、モーションも全て覚えている。

 

「何となくできそうな気がする」

 

 

私とアレックスは、冒険者ギルドの訓練場へやってきた。

アレックスが木剣を借りてきて、訓練用の案山子の前に立つ。

 

深く息を吸う。

右足を半歩引く。

肩を落とす。

 

その構えを知っている。

完成直前まで二人で何度も確認した。

レオンさんが実際に使うのも見た。

 

アレックスの身体が動く。

 

踏み込み。

木剣を振り抜く。

空気が裂けた。

白い軌跡が一直線に伸びる。

 

次の瞬間、案山子が音を立てて倒れた。

 

「……」

 

私はそれを見つめたまま動けなかった。

アレックスも自分の手を見つめている。

 

「できた」

 

小さく呟く。

ゲームでは存在しなかった……いや、完成しなかったはずの技。

それが今、確かに発動した。

 

「これ、本当に未実装だったんだよな」

 

「間違いない」

 

アレックスが苦く笑う。

 

「俺たちが知らなかっただけなのかもな」

 

 

その夜。

夕食の後、二人で宿の屋上にやってきていた。

 

王都の夜景が広がっていた。

遠くで鐘が鳴る。

今は異音も混ざらない静かな音。

 

「なあ」

 

アレックスが空を見たまま言う。

 

「今でも帰りたいか」

 

私は少し考える。

元の世界。

家族、仕事。

それに完成できなかったゲーム。

全部向こうにある。

 

「帰りたい」

 

それは本心だった。

 

「でも」

 

続く言葉は、自分でも意外だった。

 

「帰れなくても、後悔はしないかもしれない」

 

アレックスは何も言わない。

ただ静かに聞いている。

 

「ここで仲間ができた」

 

「この世界が嫌いじゃなくなった」

 

風が銀髪を揺らした。

 

「お前は」

 

そう聞き返す。

アレックスは少し笑う。

 

「俺も同じだ」

 

短い答えだった。

それだけで十分だった。

 

「帰る方法を探すのは続けよう」

 

「うん」

 

「でも、帰るにしても帰らないにしても」

 

彼は王城の方角を見る。

 

「今回みたいな事件を追えば、きっと何か分かる」

 

私も頷く。

地下施設、古代文明、そしてゲームとの違い。

全部どこかで繋がっている。

その先へ進むことが、帰る方法を探すことにも、この世界の真実を知ることにも繋がる。

そんな確信が、静かな夜風の中で少しずつ形になり始めていた。

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