俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
朝食を終え、宿の食堂で四人そろって紅茶を飲んでいた。
地下施設の事件が解決して数日。
王都調査局による解析が続いている間は自由行動となり、ようやく慌ただしさも落ち着いてきた。
ルークとミリアは今日も市場へ出かける相談をしている。
「昨日見つけた串焼き屋、今日も行こうぜ」
「朝から肉の話?」
「昼に食うんだよ」
二人のやり取りを聞きながら、私は紅茶を口へ運ぶ。
こういう時間も悪くない。
王都へ来てから事件続きだっただけに、ようやく肩の力を抜けるようになってきた。
そんな話をしていたその時、食堂の入口が勢いよく開いた。
調査局の制服を着た若い職員が、辺りを見回してから真っ直ぐこちらへ駆け寄ってきた。
「フィアナ様!皆様!」
職員は息を整える間も惜しむように口を開いた。
「レオン様より至急お越しいただきたいとのことです」
「何かあったのですか」
「詳しくは調査局で……ですが、一刻を争います」
私たちは互いに視線を交わし、すぐに支度を整えて宿を出た。
◇
「急な呼び出しで申し訳ない」
「事件ですか」
「ああ」
レオンさんは周囲を確認してから声を落とした。
「今朝未明、クラリス殿下がお倒れになられた」
その一言に、私の動きが止まる。
王族、しかもまたゲームに設定していない姫君だ。
最早ゲームとの差異は当たり前に感じてきたけど、こうも似たような状況が発生するなんて。
「現在も意識は戻っていない」
「病気……それとも、もしや呪いですか」
「宮廷医師団でも原因が分からないそうだ」
私は思わずアレックスを見る。
彼も状況を整理しようとしているようだった。
レオンさんは続ける。
「地下施設事件を解決した功績、そしてアレドで領主令嬢エリシア様を救われた実績を受け、陛下よりフィアナへ診察の要請があった」
エリシア。その名前が出た瞬間、胸の奥に少し前の記憶がよみがえる。
偶然とも思えなかった。
「すぐ向かいます」
私は迷わず答えた。
◇
私とレオンさんだけで王城へ向かう。馬車の中は静かだった。
窓の外では、多くの人々が普段通りの生活を送っている。
城門を抜け、案内された先は王族専用の居住区だった。
豪奢な装飾が施された廊下にも、重苦しい空気が漂っている。
侍女たちは小声で言葉を交わし、近衛兵は普段以上に警戒していた。
やがて一つの部屋に案内された。
部屋の中央、天蓋付きの寝台で一人の女性が眠っている。
年齢は20代後半くらいだろうか。白い肌に長い金髪。
これが眠っているだけなら穏やかな寝顔。
寝台の脇では初老の男性と女性が不安そうな表情で立っている。
王と王妃なのだろう。
レオンさんが深く頭を下げた。私も一緒に頭を下げる。
「お連れしました」
王は小さく頷く。
「頼む」
その一言に込められた重さが胸へ響く。
私は寝台の傍らへ歩み寄った。
「失礼します」
手袋を外し、クラリス姫の額へそっと手を当てる。
熱はない。
呼吸も安定しているように見える。まるで自然な眠りだ。
私は《ディバイン・サイト》を発動した。
……見える。
身体へ絡みつく黒い流れ。
エリシア様の時と似ている。
生命力を奪い、意識を閉ざす構造。
確かに酷似していた。だけど。
「……違う」
私は眉を寄せる。
確かにエリシア様にかけられていた魔法と似ているが細部が違う。
絡み方……魔力の流れ……そして中心部の歪み。
何よりあの時と違い、黒い糸のような流れが見えなかった。
私は一度魔法を解除し、静かに立ち上がった。
「エリシア様の時と似ています。ですが同じではありません」
レオンさんが問いかける。
「何が違う」
私は慎重に言葉を選ぶ。
「例えるなら……同じ流派の魔法です。しかし術式の組み方に違和感があります」
頭の中で、アレドで見た呪いを何度も思い返す。
「あの時の呪いは、もっと単純でした」
「今回は?」
「複雑です。あとから手が加えられたような印象があります」
もちろん確証はないが、何故かそれが正しいと直感する。
「つまり、エリシア様へ呪いをかけた人物と、クラリス様へ呪いをかけた人物は、同一ではない可能性があります」
「今回も追えるか」
レオンさんが問う。
「いえ……残念ながらエリシア様の時のような『糸』が見えないのです。ですが術者を特定すれば、あるいは」