俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
翌朝、宿で朝食を終えた頃。
食後のお茶を飲みながら今日の予定を考えていると、食堂へ調査局の職員が慌ただしく入ってきた。
「皆様、レオン様がお呼びです」
その声だけで、のんびりした朝が終わったことを察する。
私たちは荷物をまとめ、すぐ調査局へ向かった。
◇
「来てくれたか」
執務室ではレオンさんとコーデリアさんが大きな地図を広げて待っていた。
山岳地帯の地図だった。
王都の北側へ印が付けられている。
「何か分かったんですか」
私が尋ねると、コーデリアさんが一枚の報告書を差し出した。
「昨夜、地方警備隊から連絡が入りました」
「旧観測所周辺で、不審な人影が何度か目撃されています」
「旧観測所……」
聞き覚えはない。
コーデリアさんが説明を続ける。
「王立研究所が古代遺跡調査を行っていた頃の前線基地です。現在は閉鎖されています」
レオンさんが地図のさらに奥を指した。
「そして、この先には古代遺跡が存在するらしい」
「ドルガンさんと関係が?」
「断定はできない」
レオンさんは腕を組む。
「だが、王立研究所の資料を洗い直した結果、ドルガン博士は左遷後もしばらくあの地域で調査を続けていた形跡があった」
アレックスが地図を見つめる。
「偶然とは思えないな」
「私もそう思う」
点だった情報が少しずつ線になり始めている気がする。
「準備が整い次第出発する」
◇
王都を出る頃には、太陽はまだ高く昇り切っていなかった。
街道を北へ進むにつれ、人通りは少なくなっていく。
石畳は土の道へ変わり、やがて緩やかな上り坂になった。
遠くには山並みが見える。
「結構登るね」
私が見上げると、ルークが笑った。
「これくらいなら余裕だろ」
「元気なのルークだけ」
ミリアが呆れたように返す。
「もう、朝から飛ばしすぎると後でバテるよ」
「大丈夫だって」
そんなやり取りを聞きながら歩いていると、少しずつ傾斜がきつくなってきた。
王都周辺を歩く機会は何度かあったけれど、ここまで山へ入るのは初めてだ。
足元には大小の岩が転がり、呼吸も少しずつ深くなる。
その時だった。
「フィアナ」
アレックスが立ち止まった。
「少し休むか」
「え?」
「昨日から調べ物続きだっただろ」
私は首を振る。
「まだ大丈夫」
「無理はするな」
そう言って、私が背負っていた荷物へ手を伸ばした。
「少し持つ」
「いや、自分で持てるよ」
「分かってる。でも山道は歩きにくいだろ」
返事をする前に、荷物はアレックスの肩へ移っていた。
「ちょっと……」
「すぐ返す」
いつもの調子だった。
昔から、プログラムが煮詰まると缶コーヒーを机へ置いてくれたり、徹夜が続くと勝手に夜食を買ってきたり。特別なことではない。
だから私も、いつの間にか受け入れてしまう。
「ありがとう」
それだけ答えて歩き出す。
少し前から視線を感じていた。
横を見ると、ルークとミリアが数歩後ろを歩いている。
二人とも妙に口元が緩んでいた。
「……何?」
「いや?」
ルークが目を逸らす。
ミリアは耐えきれず吹き出した。
「ふふっ」
「だから何なの」
「別にー」
「絶対何かある」
「ないない」
そう言いながら、ミリアはルークの肩を軽く叩いた。
「ね?」
「ああ」
二人とも、どう見ても面白がっている。
アレックスだけが事情を理解していない。
「どうした?」
「いや……」
説明しようとして何故か口ごもってしまって、結局そのまま歩き続けるしかなかった。
少し進んだところで、ミリアが小声でルークへ話しかける。
「ほんと仲良いよね」
「本人たち全然気付いてないけどな」
「言ったら照れそう」
「それは見てみたい」
後ろから笑いをこらえる気配が聞こえる。
私は聞こえないふりをした。
◇
結局、昼過ぎまで登った。
山道はさらに細くなり、周囲の木々も深くなっていく。
鳥の鳴き声だけが響く静かな森だった。
レオンさんが立ち止まり、前方を見上げる。
「あれだ」
木々の隙間から、灰色の建物が姿を現した。
円形の石造建築。
崩れた塔と半分以上落ちた屋根。
長い年月、誰にも使われていないことが一目で分かる。
それでも建物全体にはどこか威厳が残っていた。
「……ここが観測所」
古代施設とは造りが違う。
けれど、人が知を集める場所特有の空気はどこか似ている気がした。
入口へ続く石段には苔が生え、木の根が壁を覆っている。
誰も住んでいるようには見えない。
なのに胸の奥が微かにざわついた。
呪いを追った時とも、地下施設で感じたものとも少し違う。
何かが、この場所のさらに奥へ続いている。
私は無意識に建物の先を見つめていた。
レオンさんが剣へ手を添える。
「ここから先は警戒して進む」