俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
山道は、道と呼ぶにはあまりにも細かった。
ドルガンさんが先頭に立ち、木々の隙間を迷いなく進んでいく。岩肌に沿うように続く獣道は、人ひとりがやっと通れるほどの幅しかない。
「こんな場所……普通は見つからないな」
アレックスが周囲を見回しながら呟く。
「現役当時でも知る者は限られていた」
ドルガンさんは振り返らず答えた。
「王立研究所の関係者、それも第一研究所へ配属された者だけだ。この道は調査用に整備された隠し通路だ」
木々が急に途切れた。
眼前に広がっていたのは、山岳地帯の奥深くに眠る巨大な都市。
石造りの建物が幾重にも並び、その間を幅広い道路が真っ直ぐ貫いている。
煙突のように天へ伸びる円柱。
何本もの太い管が建物同士を繋いでいた。
崩落した建物も少なくないが、それでも規模だけは圧倒されるほど大きい。
「これ全部……研究施設なのか」
ルークが声を漏らす。
ドルガンさんは静かに首を振った。
「研究だけではない」
「ここは古代工廠。当時は第一研究所と呼ばれていたらしい。――研究、設計、製造。その全てを担っていたと推測されている」
私は街並みを見つめた。
石造りなのに、どこか見覚えがある。
巨大な建物が区画ごとに整然と並び、配管が張り巡らされている光景。
元の世界で見た工業地帯の写真を思い出す。
「……《工場》みたい」
思わず漏らすと、アレックスが頷いた。
「俺も同じこと考えてた」
「素材は全然違う。でも配置の考え方が似てる」
私たちは互いに顔を見た。
この感覚を共有できるのは、この世界で私たち二人だけだと思う。
レオンさんが周囲を確認する。
「警戒を続ける」
「マグナスがいるなら、この近くだ」
全員が武器を構え、静かな街へ踏み込んだ。
風だけが建物の隙間を吹き抜けている。
足音だけが石畳へ響く。
建物の壁には古代文字が刻まれ、所々に壊れた機械のようなものが転がっていた。
私たちは警戒しつつ街並みを進む。呪いの糸はさらに都市の奥へ続いていた。
「まだ先みたい」
「分かった」
アレックスが短く返す。
その時、建物の影が揺れた。十体以上の黒い人影が音もなく現れる。
さらに奥から次々と姿を現す。
「来るぞ!」
レオンさんの声と同時に、黒い魔物が一斉に駆け出した。
私はすぐに魔法を詠唱する。
《ホーリー・エンチャント》
全員の武器へ聖なる光が宿る。
「ルーク!」
「任せろ!」
剣が閃く。
最初の一体を真っ二つに切り裂いた。
聖属性を帯びた刃は、黒い身体を容易く断ち切る。
反対側ではミリアが弓を引く。
《ダブル・ショット》
聖なる光をまとった矢が飛び、二体まとめて貫いた。
そこへアレックスが飛び込んだ。
《ジャッジメント・ブレード》
剣圧がまとめて数体を吹き飛ばす。
最後の一体が光に飲まれ、静寂が戻る。
私は周囲を見回したが、新たな敵は現れない。
「おいおい、レオンさんの技覚えたのかよ」
ルークが呆れたように言い、アレックスは肩をすくめた。
「やってみたらできた」
「いい剣筋だ」
レオンさんがアレックスを褒めている。
その時、ドルガンさんが倒れた魔物の消えた場所を見つめたまま口を開いた。
「昔と同じだ」
私たちは振り向く。
「あの魔物は」
ドルガンさんは静かに続けた。
「十年以上前、古代工廠の調査隊と研究員を襲っていた」
「十年以上前?」
ルークが聞き返す。
「ああ」
「当時も正体は分からなかった」
「研究員は何人も命を落とした」
私は思わず息を止める。
「つまり……」
「研究が中止になった原因の一つが、あの魔物だ」
ドルガンさんは崩れた街並みへ目を向けた。
「当時は名前も無かった」
「黒い人型の魔物、とだけ報告書に残っている」
私たちがアレドで初めて遭遇した影の魔物。
私たちは新種の魔物だと思っていたけど、違う。
少なくとも十年以上前から、この世界には存在していた。
誰かが作り続けていたのか。
それとも、もっと昔から――。
考えがまとまる前に、アレックスが前方を指差した。
「見ろ」
建物の奥。
崩れた壁の向こうから淡い光が漏れている。
黒い糸はその中に続いているようだ。
「数千年前の設備が……まだ動いてる……?」