俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
淡い光の漏れる区画へ足を踏み入れる。
壁に埋め込まれた結晶灯だけが、数千年の時を超えて静かに周囲を照らしていた。
「……誰かいる」
アレックスが剣を構える。
広間の中央。
長い机のような古代装置の前に、一人の男が立っている。
アレドで見た黒ローブの男に間違いない。彼がマグナス・ヴェインなのか。
マグナスはアレドで会った時と違い、顔を出している。
丸眼鏡、穏やかな表情。
とても黒い魔物を操り人々をさらったり、エリシアさんやクラリス姫に呪いをかけるような人物には見えない。
その周囲には、今まで遭遇したものより一回り大きな影の魔物が四体。
黒い身体からは濃密な魔力が滲み出ている。
マグナスはこちらを見ると、小さく笑った。
「ここまで来たか」
その視線が私へ向く。
「勇者と聖女」
穏やかな声だった。
敵意より、確認するような口調。
「古い文献には、聖女は世界の流れを見る者と記されている」
私の胸が小さくざわつく。
「……そうだが、その通りのようだ」
私を知っている。
いや、私の能力を知っている。
レオンさんが一歩前へ出る。
「マグナス・ヴェイン博士」
「王都調査局だ。大人しく投降しろ」
「断る」
即答。
マグナスはゆっくりと横へ歩く。
その背後には巨大な装置があった。
旧鐘楼区画地下で見た管理端末より遥かに大きい。
半透明の光が空間へ浮かび上がっている。
そこには世界地図が映っていた。
無数の光点、細い線、世界中へ網の目。
「まるで《ネットワーク》だな」
アレックスが小さく呟き、私も頷く。
その時ドルガンさんが前へ出た。
「師よ」
低い声が広間へ響く。
「私がクラリス殿下へかけた術」
「変質させたのは師か」
マグナスは否定もしない。
肯定もしない。
ただ静かにドルガンさんを見る。
「答えてくれ!」
ドルガンさんの声に怒りが混じる。
「あれは私の復讐だった!」
「師といえど勝手に手を加えることは許さん!」
しばらく沈黙が流れ、やがてマグナスは静かに目を閉じる。
「世界を救うためだ」
返答はその一言だけ。ドルガンさんの顔が強張る。
「何を言って……」
「私は滅びを見た。古代文明の管理機構『カルディア』が私に示したのだ」
◇
マグナスが装置へ手を伸ばす。
淡い光が広間いっぱいへ広がった。
景色が変わり、部屋いっぱいに大規模な立体映像が投影される。
記録映像だろうか。燃え落ちる街、崩れた城壁、黒い空。
無数の人々が倒れている。
世界そのものが終わろうとしていた。
さらに映像は変わる。
光る存在、それに挑む二人の男女。どこか私とアレックスに似ている。
直後。
世界が光へ飲み込まれた。
映像は静かに消える。
誰も言葉を発しない。
あまりにも現実味があった。
作り物には見えない。
「カルディアは言った。この未来は必ず訪れる……だから世界を救うのに協力してほしいと」
マグナスの声は落ち着いていた。。
狂気ではなく使命感に見える。
「だから私は協力している。その過程で犠牲が生じることも承知している……だが必要な犠牲だ」
マグナスは私とアレックスに目を向けて、どこか悲しそうな顔で答えた。
レオンさんは剣を下ろさない。
アレックスも険しい表情のまま映像を見つめていた。
そんな中、私は、私だけは。
胸の奥に小さな引っ掛かりを覚えていた。
映像そのものは自然。どこにも不自然さはない。
なのに何かがおかしいと感じる。
《ディバイン・サイト》を使った時に感じることがある違和感のような。
それと同じ種類の感覚が、映像の奥から微かに伝わってくる。
「……違う」
思わず声が漏れた。マグナスが私を見る。
「何が違う」
答えられない……言葉では説明できない。
「何か……欠けている気がする」
マグナスは静かに目を細める。
「やはり聖女か。世界の流れを感じ取れるのだな」
その時、マグナスの背後にある装置に映し出されている光が
何かを警告するように赤く輝き、合成音声のような声が響いた。
『想定外の因子を検知』
『計画進行を22.71%加速する必要があると推測。プランを策定します』
マグナスはその様子を静かに見つめていた。
驚いているようにも見える。
だが次の瞬間、彼は小さく目を閉じた。
「そうか……」
誰へ向けた言葉でもない。
「予定を早めたのか」
独り言のような呟き。
予定を早めた?誰が?何を?
問い質そうとした時、装置の光がさらに強くなる。
マグナスはこちらへ視線を向けた。
「君たちをここで倒す必要はない」
その口調はどこまでも落ち着いていた。
「私の役目は、時間を稼ぐことだけだ」
「博士を捕らえるぞ!」
私たちと一緒にレオンさんが駆け出す。
しかし四体の影の魔物が一斉に前へ出る。
まるで命令を受けた兵士のように、一直線に私たちとの間へ割り込んだ。