俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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途中からアレックス視点です。


崩落

赤黒い光を放っていた結晶は、細かな亀裂を全身へ広げながら崩れていく。

脈打つような輝きは急速に弱まり、やがて砕け散った。

 

「フィアナ?」

 

アレックスが隣へ来る。

 

私は小さく頷いた。

 

「呪いは解けたと思う」

 

その言葉を聞いたドルガンさんが、その場へ膝をついた。

 

「そうか……」

 

安堵とも後悔ともつかない声だった。

 

その直後、施設全体へ再び無機質な音声が響く。

 

『権限喪失を確認』

 

『修正計画を開始』

 

『第一研究所は臨界稼働へ移行します』

 

低い唸りが建物の奥から響き始める。

床の継ぎ目を赤い光が走り、壁へ埋め込まれた結晶灯が一斉に明滅した。

次の瞬間、大きな揺れが足元を突き上げる。

轟音とともに天井から砂と小石が降り注いだ。

 

「崩落が始まるぞ!」

 

レオンさんが周囲を見回す。

 

「全員、脱出する!」

 

マグナスは拘束されたままレオンさんに引き立てられていた。

彼は抵抗しない。ただ赤く染まった施設を静かに見つめている。

 

「……そこまでやるのか」

 

誰へ向けた言葉でもなかった。

さらに揺れが襲う。

壁の一部が崩れ、通路へ瓦礫が散乱する。

ルークが先頭へ飛び出し、落ちてきた石を剣で弾き飛ばした。

 

「道はまだ通れる!」

 

「急げ!」

 

 

私たちは崩れ始めた第一研究所を進む。

さっきまで静かだった古代施設は、別の場所のようだ。

赤い警告灯が点滅し、あちこちから金属が軋む音が響いている。

 

床も一定ではない。

数歩進むたびに小さく震え、時折、大きく揺さぶられる。

神聖魔法を連続で使ったせいで魔力はほとんど残っていない。

足にも思うように力が入らなかった。

 

「無理するな」

 

アレックスが歩幅を合わせる。

 

「まだ歩けるよ」

 

「その顔色で説得力はない」

 

少しだけ笑ってしまう。

心配を掛けているのは分かっていた。

それでも今は立ち止まれない。

後方から鈍い破砕音が響く。

振り返ると、さっきまでいた広間の入口が崩れ落ち、土煙が通路へ流れ込んできた。

 

「完全に潰れるぞ!」

 

レオンさんの声が飛ぶ。

その時、これまでで最も激しい衝撃が施設全体を貫いた。

床が波打つように持ち上がる。

壁へ亀裂が走り、天井の岩盤が音を立てて崩れ始める。

 

「急げ!」

 

誰も足を止めない。

私たちは崩れゆく通路を一気に駆け抜けた。

 

その時。

床の下から乾いた破断音が響く。

私の足元に細い亀裂が走った。

一瞬遅れて、その亀裂は大きく広がっていく――。

 

「あ――」

 

床が消え身体が宙へ投げ出された。

反応できない。

魔力も体力も残っていなかった。

落ちる。

そう思った瞬間。

 

「フィアナ!」

 

アレックスが飛んだ。

迷いは一切なかった。

私へ向かって。

真っ直ぐ。

 

◇◇◇

 

床が消えた。

 

フィアナの身体が宙へ投げ出される。

 

「フィアナ!」

 

気付けば身体が動いていた。

 

考えるより先だった。

 

魔力切れ寸前のフィアナに、あの高さから落下を耐えられるとは思えない。

 

助けなければ。

 

それだけだった。

 

俺は崩れた床を蹴った。

 

視界の端でルークたちが何か叫んでいる。

 

聞こえない。

 

フィアナしか見えていなかった。

 

伸ばした手が細い腕を掴む。

 

間に合った。

 

そう思った瞬間、今度は自分たちが落下した。

 

「っ!」

 

衝撃に備える。

身体を捻りフィアナを強く抱き込む。

瓦礫の上へ叩き付けられた。

全身に激痛が走るがそんなことはどうだっていい。

 

腕の中の重みを確認する。

生きている……よかった。

俺はすぐに顔を上げた。

 

「大丈夫か!」

 

フィアナが薄く目を開く。

 

「アレックス……」

 

掠れた声だった。

意識はある。

それだけで少し安心する。

 

「怪我は?」

 

「……たぶん」

 

まともに受け答えもできていない。

そのまま気を失ってしまった。

だが命に別状はなさそうだった。

俺は大きく息を吐いた。

助かった。

本当に。

 

その時だった。

再び大きな揺れが襲う。

上層から瓦礫が降り注ぐ。

感傷に浸る暇はなかった。

 

 

「フィアナ!」

 

「アレックス!」

 

上からルークとミリアの声が聞こえた。

無事らしい。

レオンの姿も見える。

 

だが次の瞬間。

轟音と共に床がさらに崩れた。

拘束されていたマグナスの足元が砕ける。

 

「!」

 

レオンが咄嗟に手を伸ばす。

しかし届かない。

マグナスの身体が落下した。

鈍い音が響く。

そしてマグナスは俺たちよりさらに下層へ叩き付けられた。

 

誰の目にも明らかな致命傷。もう立ち上がれそうには見えなかった。

それでも男はまだ生きていた。

血を吐きながらこちらを見る。

 

「……そうですか」

 

掠れた声だった。

 

「クラリス姫にかけた術は……解除されましたか」

 

俺は答えない。

マグナスは目を閉じる。

その表情には、敗北よりも疲労の色が濃いように見えた。

 

 

崩落はさらに激しくなる。

もう時間はない。

だがマグナスは再び目を開き、そして俺を見た。

 

「勇者……」

 

「何だ」

 

マグナスは力なく笑った。

 

「一つだけ……伝えておきます」

 

血が口元から流れる。

呼吸も浅い。

もう長くない。

 

「カルディアは……ここにはいない」

 

「ならどこにいる」

 

短い沈黙。

そして最後の力を振り絞るように言った。

 

「王都です……古代の王都……」

 

「カルディアは……そこで……」

 

もう殆ど聞こえない声でマグナスが呟く。

 

「古代王都中央……」

 

そこまでだった。

巨大な崩落。

轟音。

砂煙。

瓦礫がマグナスを飲み込んだ。

もう声は聞こえなかった。

 

 

「行くぞ!」

 

レオンの怒声が響く。

 

「施設が潰れる!」

 

全員が動き出す。

俺はフィアナへ視線を向けた。

顔色が悪い。

 

俺はフィアナを抱えたまま走り出した。

腕の中の身体は驚くほど軽かった。

俺は抱える腕に力を込めた。

絶対に死なせない。もう二度と失いたくない。そう思いながら崩れゆく施設を駆け抜けた。

一刻も早く外へ出なければ。

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