俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
朝からそわそわしていた。
いや、正確には昨日から。
フィアナが目を覚まして、クラリス様も無事だと分かって、ようやく全部終わった。
だから今度こそ。
今度こそルークに言おうと思ったのだ。
「よし」
私は鏡の前で小さく拳を握った。
宿屋の部屋。
いつもより少しだけ髪を整える。
別に特別な意味なんてない。
ないんだけど。
ほんの少しだけ、可愛く見えたらいいなと思っただけ。
「ミリア?」
部屋の外からルークの声が聞こえた。
心臓が跳ねる。
「い、今行く!」
慌てて返事をして部屋を出た。
◇
王都の通りは今日も賑やかだった。
事件が解決したことで、街全体の空気も少し明るい。
私とルークは市場を歩いていた。
フィアナとアレックスは別行動だ。
フィアナはまだ本調子じゃないし、二人で買い物に行くと言っていた。
最近の二人を見ていると、なんだか眩しい。
もちろん昔から仲は良かった。
でも今は少し違う。
お互いを見ている目が。
たぶん本人たちは気付いてないけど。
「なあミリア」
「なに?」
「これどう思う?」
ルークが差し出したのは小さな革袋だった。
「道具入れ?」
「そう。便利そうだろ」
「うん」
返事をしながら横顔を見る。
今だろうか。
言うなら。
今だろうか。
「あのね、ルーク」
「おう」
言葉が喉まで出かかった。
その瞬間だった。
「そうだ。アレックスたちが結婚したらさ」
「……え?」
「俺たちだけ置いていかれそうだよな」
私は固まった。
結婚。
今。
その話する?
「まあフィアナ綺麗だしな」
「……」
「アレックスも顔いいし」
「……」
「お似合いだよな」
何かがぷつりと切れた。
「へえ」
「ん?」
「そういうこと考えてたんだ」
「いや?」
「じゃあ何でそんな話するの?」
「何でって」
「知らない!」
私は勢いよく歩き出した。
後ろから慌てた声が聞こえる。
「え!?何で怒ってんだ!?」
「怒ってない!」
怒っている。
すごく怒っている。
何が悲しいって。
私がこんなに勇気を出そうとしていたのに。
この人は全然そんなこと考えていない。
それが分かってしまったことだった。
◇
気付けば一人で王都を歩いていた。
別に行く当てもない。
ただ歩く。
歩いて。
歩いて。
そして。
「……あ」
思わず足が止まった。
通りの向こう。
そこにいたのはフィアナとアレックスだった。
二人とも変装もしていない。
普通に買い物をしている。
フィアナが何かを手に取る。
アレックスがそれを見て笑う。
フィアナも笑う。
自然だった。
まるで恋人同士みたいに。
胸が少し痛んだ。
羨ましかった。
あんな風になりたかった。
私はそっと踵を返した。
見ていたら泣きそうだった。
◇
気付くと王都の高台まで来ていた。
街が一望できる場所。
風が気持ちいい。
夕日が街を赤く染めている。
私はベンチに座った。
「馬鹿だなあ」
自分でも分かっている。
ルークは悪くない。
勝手に期待したのは私だ。
勝手に傷付いたのも私だ。
けど、好きなのは仕方ないじゃない。
「はあ……」
大きくため息を吐いた。
その時だった。
「いた」
聞き慣れた声がした。
顔を上げる。
ルークだった。
息を切らしている。
どうやらかなり探し回ったらしい。
「何でいるの」
「探した」
即答だった。
「何時間探したと思ってる」
「知らない」
「鐘三つ分」
思わず目を丸くした。
鐘三つ?
本当に?
ルークは私の隣に腰を下ろした。
しばらく沈黙が続く。
やがて。
「悪かった」
小さくそう言った。
私は驚いた。
ルークが素直に謝るのは珍しい。
「何が?」
「ミリアを怒らせた」
「理由分かってる?」
「分からない」
即答だった。
本当にこの人は。
私は思わず笑ってしまった。
「笑うなよ」
「だって」
さっきまで怒っていたはずなのに。
顔を見ると駄目。許してしまう。
昔からそうだ。
転んで泣いていた時も。
魔物に襲われて怖かった時も。
いつも隣にいてくれた。
「ミリア」
「なに?」
「俺、変なこと言ったなら謝る」
真っ直ぐな目だった。
嘘もごまかしもない。
だから余計に困る。
私は少しだけ考えて。
そして笑った。
「今回は許してあげる」
「助かった」
ルークは心底安心した顔をした。
その顔を見ていると、また胸が温かくなる。
本当にずるい。
「でも次はちゃんと考えて喋ってよね」
「努力する」
「絶対しないでしょ」
「ばれたか」
二人で笑った。
夕日が沈んでいく。
王都での冒険は終わった。
次はアレドだ。
きっと、まだ大きな戦いが待っている。
だけど今だけは。
この時間を大事にしたいと思った。
ルークの隣は、不思議と居心地が良かったから。