俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
再びアレドへ
アレドの城門が見えた頃には、夕陽が城壁を赤く染め始めていた。
「帰ってきたなぁ……」
ルークが大きく伸びをすると、ミリアもどこかほっとしたように笑う。
「やっぱり落ち着くね。アレドは」
私も自然と口元が緩んだ。
王都で起きた一連の事件は終わった。旧鐘楼区画地下の遺跡探索、古代工廠の探索、そしてマグナスとの戦い。
そんなことを考えながら、アレックスと小声で話す。
「今思うと、私たちがゲーム開始地点をアレドの街にしたのも、何か意味があったのかも」
「EEか。今さらゲームの設定がどうこうで騒ぎはしないが、そうかもな」
◇
「おお!本当に戻ってきたじゃねえか!」
聞き覚えのある声が響いた。
振り向くと、そこにいたのは果物商のバルドさんだった。
「バルドさん!」
「元気そうだな嬢ちゃん!」
以前と変わらない豪快な笑顔に少しだけ胸が温かくなる。
「聞いたぞ。王都で大活躍だったらしいじゃねえか」
「どこからそんな話が……」
「噂は流れてくるもんだ」
豪快に笑うバルドさん。
こうして町の人たちに迎えられると、自分たちの居場所へ帰ってきたのだと実感する。
◇
私たちはそのまま領主館へ向かった。
領主館を訪れると、案内役の使用人がそのまま応接室へ通してくれた。
扉が開くと、ローレンスさんが穏やかな表情で立ち上がる。
「よく戻ってきてくれた」
「ただいま戻りました」
その隣にはエリシアさんも座っていた。
「フィアナさん!」
弾むような声とともに立ち上がった彼女を見て、私は胸をなで下ろした。
以前より頬に血色が戻り、歩く姿にも危うさはない。半年ものあいだ眠り続けていた頃とは別人のようだった。
「お元気そうで安心しました」
「はい。毎日庭を歩くようにしているんです。まだ体力は戻りきっていませんけど」
少し照れたように笑う姿を見て、自然と頬が緩む。
あの時、この人を助けることができて本当に良かった。
互いに席へ着くと、レオンさんが革袋から数枚の書類を取り出した。
「今日は確認していただきたいことがあります」
机へ広げられたのは、クラリス王女から預かった古代王国末期の記録だった。
記録には、古代王家の主流がアレド領主家であることも記されている。
「クラリス殿下は昏睡中、繰り返し同じ夢を見ていたとのことです」
レオンさんの説明を受け、私は王都で起きた出来事を順を追って話していく。
呪いのこと、王都の地下施設のこと、そして古代工廠のこと。
クラリス様の夢、そして夢の中で聞いたという言葉。
「……その夢」
小さく口を開いた。
「私の夢と同じです……『扉を開け』……その言葉は何度も」
「偶然とは考えにくいですね」
アレックスが腕を組む。
「夢を見た二人とも、古代王家の血を引いている」
レオンさんも頷いた。
「何者かが意図して二人へ同じ内容を伝えようとした可能性が高い」
「でも」
ミリアが資料へ目を落とす。
「夢が同じだって分かっても、それだけじゃどこへ行けばいいか分からないよね」
その言葉に誰も返事ができなかった。
手掛かりは増えた。
けれど目的地へ繋がる決定的な情報はない。
考え込んでいたエリシアさんが、不意に顔を上げた。
「一つ、気になることがあります」
「何でしょう」
「皆さんが私に繋がる「糸」を絶ってくれたという遺跡です」
私の脳裏に地下遺跡の光景が浮かぶ。
黒い結晶……影の魔物……そして未実装アセットだと思っていた紋様。
――古代文明の設備。
「そこも古代文明の遺跡だったんですよね」
「ええ」
「確かにあの遺跡自体は詳しく調べていなかったような気がします」
王都地下の施設も古代文明。
エリシア様が囚われていた遺跡も古代文明。
どちらも今回の事件に深く関わっている。
「確かに」
私はゆっくり頷いた。
「王都では新しい記録が見つかりました。同じように、あの遺跡にも何か残されているかもしれません」
「俺も賛成だ」
アレックスがすぐに続ける。
「事件を止めるのが先だったから、施設そのものはほとんど見て回れてない」
ルークも身を乗り出した。
「今なら落ち着いて調べられるな」
「悪くない案だ。」
レオンが真っ先に賛同した。
「調査局でも人員を出そう。施設の測量や記録なら我々の方が得意だ。」
◇
領主館を出ると、夕暮れの空が街を茜色に染めていた。
レオンさんは調査局の面々を振り返る。
「明日は我々も同行する。君たちも今日はゆっくりと休んでくれ」
「ありがとうございます」
私が頭を下げると、コーデリアさんも小さく会釈した。
王都調査局の人たちは領主館を後にし、通りの向こうへ歩いていく。
その背中を見送り、私たち四人も宿へ向かって歩き始めた。
街には夕食の支度をする香りが漂っている。
行き交う人々の話し声もどこか穏やかで、王都にいた時とは空気そのものが違って感じられた。
「やっぱり落ち着くな」
アレックスが周囲を見回す。
「王都は人が多かったからね」
「俺は賑やかなのも嫌いじゃないけどさ」
ルークが笑いながら続ける。
「帰ってきたって感じがするのは、やっぱアレドなんだよな」
「私もそう思う」
ミリアも嬉しそうに頷いた。
「半年も暮らしたもんね」
その言葉に私も自然と笑みがこぼれる。
最初は入城税すら払えなかった。
それが今では、帰ってきたと思える場所になっている。
「そういえば」
ルークがアレックスを見る。
「明日からまた遺跡か」
「たぶんな」
「休みが一日くらいあっても良かったんだけどな」
「誰かが昼まで寝てる未来しか見えないけど」
ミリアがすぐに返す。
「ひどいな。それくらい寝かせろよ」
「朝ご飯が冷める前には起こすから安心して」
「安心できる要素が一つもないぞ」
軽口を交わす二人を見ていると、自然と足取りまで軽くなった。
王都では緊張の続く日々だった。
こうして他愛のない話で笑える時間が、思っていた以上に心地いい。
歩幅を合わせて歩いていると、不意にアレックスの肩が私の肩へ軽く触れた。
避けようとした私より先に、アレックスが少しだけ身体をずらす。
「悪い」
「ううん。私も前を見てなかった」
それだけのやり取りなのに、胸の奥が少しだけ温かくなる。
以前なら何とも思わなかった距離なのに。
そんな自分の変化を意識してしまい、私は視線を前へ戻した。
やがて見慣れた宿の看板が見えてくる。
「着いたー!」
ルークが大きく伸びをした。
「今日はちゃんと柔らかいベッドで寝られるね」
ミリアも嬉しそうに笑う。
王都から戻り、またここへ帰ってきた。
明日からは遺跡の調査が始まる。
古代王都の手掛かりが、あの遺跡に残されているかもしれない。
新しい謎は増えるばかりだけど、今夜くらいは何も考えずに休もう。
私は宿の扉を開け、仲間たちと一緒に中へ入った。