俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

42 / 44
隠された痕跡

朝靄の残る森を抜けると、見慣れた建物が姿を現した。

アレド西の森の古代遺跡。

以前、エリシアさんを救い出すために踏み込んだ場所だ。

 

今は王都調査局の調査員たちが入口周辺で測量を行っている。

崩れていた通路もある程度片付けられ、人が行き来できる程度には整備されていた。

 

「思ったより早く準備が終わったな」

 

アレックスが辺りを見回す。

 

「入口だけだがな」

 

レオンさんは苦笑しながら答えた。

 

「奥は崩落箇所も多く、慎重に進む必要があります」

 

私たちは頷き合い、地下へ続く石段を下り始めた。

以前訪れた時と違い、緊張感はそれほどない。

影の魔物はすでに姿を消し、あの黒い結晶も破壊されている。

それでも静まり返った通路には、人が長く立ち入っていなかった空気が残っていた。

石壁に刻まれた紋様を見上げながら、私は足を止める。

 

「やっぱり……」

 

「どうした?」

 

「王都の地下施設と同じです。」

 

壁をなぞる。

円と直線が幾重にも重なる模様。ゲームの未実装アセットだと思っていた意匠。

今では古代文明の施設を示す共通の意匠だと分かっている。

私とアレックスは小声で話す。

 

「ゲームにはなかった施設なのに、あのグラフィッカーさんはここまで描いていたんだよね」

 

「考えれば考えるほど不思議だよな」

 

アレックスも壁へ視線を向けた。

 

「あいつは何を知っていたんだろうな」

 

その答えは、まだ誰にも分からない。

私たちは奥へ進んでいく。

途中には以前戦った影の魔物の残骸も、黒い結晶の破片も残っていない。

調査局がすでに片付けたのだろう。

 

「こちらです」

 

先を歩いていたコーデリアさんが声を掛けた。

部屋の中央には、半ば埋もれた石製の台座がある。

その周囲には倒れた棚と、砕けた金属製の箱。

 

「この辺りから記録媒体らしきものが見つかりました」

 

調査員の一人が布に包まれた板を差し出す。

薄い金属板には細かな文字が刻まれていた。

完全な形では残っておらず、端の方は熱で溶けたように欠けている。

 

「読めそうですか?」

 

私が尋ねると、レオンさんは板を受け取り、文字を目で追った。

 

「……古代文字ではないな。」

 

「え?」

 

「少なくとも一部は現在の文字だ。」

 

アレックスも横から覗き込む。

 

「誰かが後から残した記録か。」

 

レオンさんはゆっくり頷いた。

 

「筆跡から見ても比較的新しい。」

 

その言葉に、私たち全員が同じ人物を思い浮かべた。

 

「マグナスさん……」

 

私が呟くと、レオンさんも肯定する。

 

「可能性は高い。」

 

調査員たちは周囲から次々と同じような金属板を運び出してきた。

どれも欠けていたり、焦げていたりして完全な状態ではない。

私たちは読める部分だけを拾い集めていく。

 

『第七研究所』

 

最初に見つかった一枚には、それだけがはっきり刻まれていた。

 

「第七研究所……」

 

ミリアが復唱する。

 

「この遺跡の名前?」

 

「おそらくな。」

 

レオンさんは石壁へ視線を移した。

 

「王都地下の施設も、古代文明では別の名称だった。ここも正式な研究施設だったと考えるのが自然だ。」

 

私はその文字を見つめた。

ゲームには存在しなかった地下遺跡。

けれど、この世界では確かに役割を持って存在していた。

名前まで残っていたということは、古代文明の中でも重要な施設だったのかもしれない。

さらに別の板へ目を移す。

 

『生体コア……』

 

そこから先は削れて読めない。

別の板には、

 

『生命力収集率……七一……』

 

という断片だけが残っていた。

 

「何のことだ?」

 

ルークが首を傾げる。

 

「生命力を集めるって……人間から?」

 

「断定はできません。」

 

私は慎重に答えた。

王都でも似たような結晶が人々から生命力を奪っていた。

けれど、この記録だけで同じ仕組みだったと決めつけることはできない。

 

「他に読めるものはありますか?」

 

コーデリアさんが調査員へ尋ねる。

返ってきたのは、小さな首振りだった。

 

「残念ですが、大半が破損しています。意味のある文章として読める箇所はほとんどありません」

 

部屋に静かな空気が流れる。

手掛かりは見つかった。

それでも、それぞれが断片的すぎる。

第七研究所という名前。生体コア。生命力収集率。

どれも答えへ繋がりそうで、その肝心な部分だけが失われていた。

 

「……これ以上は難しそうですね」

 

コーデリアさんが金属板を丁寧に布へ戻した。

レオンさんも周囲を見渡す。

 

「一通り調べたが、新しい部屋も見当たらない。記録もほぼ失われている」

 

「ここまで、か」

 

アレックスが静かに呟く。

期待していたほどの成果は得られなかった。

施設の名前が分かり、マグナスさんがここを拠点にしていた痕跡も見つかった。

けれど、それだけだ。

古代王都へ繋がる決定的な手掛かりは残されていない。

 

「……帰りますか」

 

私がそう言いかけた時、不意に視線が部屋の奥へ向いた。

黒い結晶が設置されていた場所。

今は砕け散った破片だけが床へ埋もれている。

 

「あの場所を、少しだけ見てもいいですか」

 

「何か気になるのか」

 

レオンさんが尋ねる。

 

「確信はありません。でも、一度だけ確かめたいことがあります」

 

許可をもらい、私は破片の前へしゃがみ込んだ。

指先を石片へ近づける。

 

《ディバイン・サイト》

 

淡い光が視界へ広がる。

見慣れた遺跡の景色が少しずつ薄れ、その向こうに魔力の痕跡が浮かび上がっていく。

結晶そのものは壊れている。

生命力を集める流れも残っていない。

けれど――。

 

「……これは」

 

一本だけ。

細い光の流れが残っていた。

以前なら見えなかった。

王都で地下施設、古代工廠と、似た痕跡を追い続けてきた今だからこそ捉えられる微かな痕跡。

光は結晶から伸び、岩盤を貫いてさらに先へ続いているように感じる。

 

「フィアナ?」

 

アレックスの声が聞こえる。

私は目を閉じずに答えた。

 

「まだ、繋がっています」

 

「何がだ」

 

「分かりません。でも、この結晶は完全に切り離されていません」

光の流れは途切れることなく、遙か遠くへ伸びている。

まるで巨大な一本の糸から枝分かれしていた一部だけを切り落としたようだった。

 

「追えそうか」

 

「やってみます」

 

私はゆっくり立ち上がった。

流れは地下のさらに奥ではない。

岩盤を斜め上へ抜け、その先へ向かっている。

 

「地上です」

 

私の言葉に全員が顔を上げる。

レオンさんは即座に判断した。

 

「案内してくれ」

 

私たちは遺跡を後にし、森へ戻った。

 

《ディバイン・サイト》を維持したまま歩くと、細い光は木々の間を縫うように続いている。

 

道なき斜面を登り、小川を渡り、さらに山の奥へ。

途中で何度か流れを見失いかけたが、集中すると再び細い筋が浮かび上がった。

 

「こんな場所まで……」

 

ルークが周囲を見回す。

人の手が入った形跡はない。

鳥の鳴き声だけが森へ響いている。

それでも私は迷わず歩き続けた。

やがて流れがぴたりと止まる。

 

「ここです」

 

私が立ち止まると、全員が周囲を見渡した。

そこには切り立った岩肌しかない。

 

「何もないぞ」

 

アレックスが岩へ触れる。

その時だった。

岩肌の一角が、水面のようにわずかに揺らいだ。

 

「今、動いたよね」

 

ミリアが息を潜める。

レオンさんも剣の柄へ手を添えた。

 

「……見間違いではない」

 

無意識に一歩だけ前へ進む。

私たちが探していた手掛かりは、まだ終わっていなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。