俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
翌朝、まだ朝露の残る頃、私たちは再び領主館を訪れていた。
応接室には、すでにエリシアさんとローレンスさんの姿がある。
「お待たせしました」
私が声を掛けると、エリシアさんは静かに立ち上がった。
「準備はできています」
その表情には期待よりも緊張が浮かんでいる。
昨日突然、「古代王都へ来てほしい」と頼まれたばかりなのだ。
無理もない。
ローレンスさんが娘へ穏やかな眼差しを向ける。
「危険だと判断したら、すぐ戻るんだ」
「はい、お父様」
「皆さん」
ローレンスさんは私たちへ向き直った。
「娘をよろしくお願いします」
「必ず無事にお帰しします」
アレックスが真っ直ぐ答えると、ローレンスさんは安心したように頷いた。
こうして私たちは、再び山奥へ向かうことになった。
◇
昼前には、古代王都の外で待機していた調査局の拠点へ到着した。
木材で組まれた簡易の見張り台。
並べられた天幕。
調査員たちは朝から測量を続けていたらしく、地図や記録板が机いっぱいに広げられている。
「お帰りなさい」
コーデリアさんが歩み寄ってきた。
「新しい発見はあったか」
レオンさんが尋ねる。
「残念ながら」
コーデリアさんは首を横へ振る。
「門は依然として反応なしです。他の入口もすべて同じでした」
「そうか」
私たちはそのまま城門へ向かった。
巨大な外壁は今日も静かにそびえている。
何百年もの間、誰一人として中へ入ることがなかった。
そんな時間を感じさせる静けさだった。
「ここです」
私は門の脇にある円形の装置を指差す。
エリシアさんはゆっくり近づき、装置を見つめた。
「これが……」
エリシア様は静かに装置へ右手を伸ばした。
「夢で聞いた言葉は、ずっと意味が分かりませんでした」
「もし、本当に私が必要だったのなら……」
エリシア様の指先が金属へ触れる。
◇
円形の装置が淡く発光した。
刻まれていた紋様へ青白い光が流れ始める。
一本。
また一本。
細い光は装置から門へ広がり、巨大な扉いっぱいへ複雑な紋様を描いていく。
「反応しています!」
調査員の一人が叫ぶ。
城門だけではなく、左右へ伸びる外壁へも流れ込み、まるで血管のように都市全体へ駆け巡っていく。
低く澄んだ音が大地の奥から響いた。
何か巨大な装置が、長い眠りから目覚めようとしている。
「都市が……」
コーデリアさんが思わず見上げる。
城壁のあちこちで光が灯り始める。
今まで灰色だった都市へ、ゆっくりと命が通っていくようだった。
私は《ディバイン・サイト》を発動してみた。
視界が淡い光に包まれた。
前回訪れた時には見えなかった「何か」の流れ。
それが今、この都市全体を巡り始めている。
無数の光が街路を走り、建物を結び、中央の高い塔へ集まっていく。
「フィアナ」
隣でアレックスが小さく呼ぶ。
私は視線を逸らさず答えた。
「前に見た時とは違う……街全体が動いているみたい」
その時、巨大な城門の継ぎ目から重い音が響き始めた。
鈍く重い音を響かせながら、巨大な城門の中央へ細い隙間が生まれる。
長い年月、一度も開かれることのなかった扉が、ゆっくりと左右へ動き始めた。
「開いた……」
ルークが思わず呟く。
エリシアさん自身も信じられないという表情で、自分の手を見つめていた。
「私が……?」
「古代王都が、エリシア様を認めたみたいです」
その言葉を繰り返し、エリシアさんは静かに城門へ視線を戻した。
やがて重い駆動音が止まり、門は人が十分に通れる幅まで開き切る。
その先には一本の石畳が真っ直ぐ街の中心へ延びていた。
「内部の空気に異常なし」
調査員が魔道具を確認しながら報告する。
「魔力濃度も周辺と大きな差はありません」
レオンさんは慎重に門の向こうを見渡した。
「先行して確認する。前衛は一緒にきてくれ」
「では俺が」
アレックスが一歩前へ出る。
「頼む」
二人はゆっくりと門をくぐった。
数歩進み、周囲を確認する。
崩落の気配も、魔物の姿もない。
「問題無いようだ」
レオンさんが振り返る。
「全員、警戒しつつ前進」
その言葉を聞き、私は自然と門へ足を向けた。
古代王都。
ゲームには設定していない都市。
だけど確実に私たちのゲームと関係している都市。
その入口が、今、目の前にある。
門をくぐった瞬間、空気がわずかに変わった。
森で感じていた湿り気は消え、乾いた風が石畳の上を吹き抜ける。
長い年月、人の営みが絶えていたはずなのに、不思議と淀んだ空気ではなかった。
振り返ると、開いた城門の向こうに山の景色が見えている。
ほんの数歩で、まったく別の世界へ足を踏み入れたような感覚だった。
「すごい……」
ミリアが辺りを見回す。
街路は驚くほど広い。
石畳には雑草がほとんど生えておらず、建物も大きく崩れてはいない。
窓ガラスらしきものまで残っている建物もある。
「これだけ保存状態がいいなんて」
コーデリアさんは手帳へ次々と記録を書き込んでいく。
「数百年は経っているはずなのに……」
私も近くの建物へ視線を向けた。
王都地下や第七研究所で見た紋様が、建物の壁や柱にも刻まれている。
街全体が、同じ思想で設計されていることが一目で分かった。
《ディバイン・サイト》を使わなくても、この都市全体が古代文明そのものだと感じられる。
「フィアナ」
アレックスが少し前方を指差した。
「見ろ」
視線を向ける。
建物の隙間から、一際高い塔が姿を現していた。
城壁の外から見えていた塔だ。
ここから見ると、白銀にも見える外壁が朝日を受けて淡く輝いている。
「あそこが……」
長い間、歴史の裏側へ隠されてきた都市。
古代王国の中心。
古代王都の探索が、いよいよ始まろうとしている。