俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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古代王都

翌朝、まだ朝露の残る頃、私たちは再び領主館を訪れていた。

応接室には、すでにエリシアさんとローレンスさんの姿がある。

 

「お待たせしました」

 

私が声を掛けると、エリシアさんは静かに立ち上がった。

 

「準備はできています」

 

その表情には期待よりも緊張が浮かんでいる。

昨日突然、「古代王都へ来てほしい」と頼まれたばかりなのだ。

無理もない。

ローレンスさんが娘へ穏やかな眼差しを向ける。

 

「危険だと判断したら、すぐ戻るんだ」

 

「はい、お父様」

 

「皆さん」

 

ローレンスさんは私たちへ向き直った。

 

「娘をよろしくお願いします」

 

「必ず無事にお帰しします」

 

アレックスが真っ直ぐ答えると、ローレンスさんは安心したように頷いた。

こうして私たちは、再び山奥へ向かうことになった。

 

 

昼前には、古代王都の外で待機していた調査局の拠点へ到着した。

木材で組まれた簡易の見張り台。

並べられた天幕。

調査員たちは朝から測量を続けていたらしく、地図や記録板が机いっぱいに広げられている。

 

「お帰りなさい」

 

コーデリアさんが歩み寄ってきた。

 

「新しい発見はあったか」

 

レオンさんが尋ねる。

 

「残念ながら」

 

コーデリアさんは首を横へ振る。

 

「門は依然として反応なしです。他の入口もすべて同じでした」

 

「そうか」

 

私たちはそのまま城門へ向かった。

巨大な外壁は今日も静かにそびえている。

何百年もの間、誰一人として中へ入ることがなかった。

そんな時間を感じさせる静けさだった。

 

「ここです」

 

私は門の脇にある円形の装置を指差す。

エリシアさんはゆっくり近づき、装置を見つめた。

 

「これが……」

 

エリシア様は静かに装置へ右手を伸ばした。

 

「夢で聞いた言葉は、ずっと意味が分かりませんでした」

 

「もし、本当に私が必要だったのなら……」

 

エリシア様の指先が金属へ触れる。

 

 

円形の装置が淡く発光した。

刻まれていた紋様へ青白い光が流れ始める。

一本。

また一本。

細い光は装置から門へ広がり、巨大な扉いっぱいへ複雑な紋様を描いていく。

 

「反応しています!」

 

調査員の一人が叫ぶ。

城門だけではなく、左右へ伸びる外壁へも流れ込み、まるで血管のように都市全体へ駆け巡っていく。

低く澄んだ音が大地の奥から響いた。

何か巨大な装置が、長い眠りから目覚めようとしている。

 

「都市が……」

 

コーデリアさんが思わず見上げる。

城壁のあちこちで光が灯り始める。

今まで灰色だった都市へ、ゆっくりと命が通っていくようだった。

 

私は《ディバイン・サイト》を発動してみた。

視界が淡い光に包まれた。

前回訪れた時には見えなかった「何か」の流れ。

それが今、この都市全体を巡り始めている。

無数の光が街路を走り、建物を結び、中央の高い塔へ集まっていく。

 

「フィアナ」

 

隣でアレックスが小さく呼ぶ。

私は視線を逸らさず答えた。

 

「前に見た時とは違う……街全体が動いているみたい」

 

その時、巨大な城門の継ぎ目から重い音が響き始めた。

鈍く重い音を響かせながら、巨大な城門の中央へ細い隙間が生まれる。

長い年月、一度も開かれることのなかった扉が、ゆっくりと左右へ動き始めた。

 

「開いた……」

 

ルークが思わず呟く。

エリシアさん自身も信じられないという表情で、自分の手を見つめていた。

 

「私が……?」

 

「古代王都が、エリシア様を認めたみたいです」

 

その言葉を繰り返し、エリシアさんは静かに城門へ視線を戻した。

やがて重い駆動音が止まり、門は人が十分に通れる幅まで開き切る。

その先には一本の石畳が真っ直ぐ街の中心へ延びていた。

 

「内部の空気に異常なし」

 

調査員が魔道具を確認しながら報告する。

 

「魔力濃度も周辺と大きな差はありません」

 

レオンさんは慎重に門の向こうを見渡した。

 

「先行して確認する。前衛は一緒にきてくれ」

 

「では俺が」

 

アレックスが一歩前へ出る。

 

「頼む」

 

二人はゆっくりと門をくぐった。

数歩進み、周囲を確認する。

崩落の気配も、魔物の姿もない。

 

「問題無いようだ」

 

レオンさんが振り返る。

 

「全員、警戒しつつ前進」

 

その言葉を聞き、私は自然と門へ足を向けた。

古代王都。

ゲームには設定していない都市。

だけど確実に私たちのゲームと関係している都市。

その入口が、今、目の前にある。

 

門をくぐった瞬間、空気がわずかに変わった。

森で感じていた湿り気は消え、乾いた風が石畳の上を吹き抜ける。

長い年月、人の営みが絶えていたはずなのに、不思議と淀んだ空気ではなかった。

振り返ると、開いた城門の向こうに山の景色が見えている。

ほんの数歩で、まったく別の世界へ足を踏み入れたような感覚だった。

 

「すごい……」

 

ミリアが辺りを見回す。

街路は驚くほど広い。

石畳には雑草がほとんど生えておらず、建物も大きく崩れてはいない。

窓ガラスらしきものまで残っている建物もある。

 

「これだけ保存状態がいいなんて」

 

コーデリアさんは手帳へ次々と記録を書き込んでいく。

 

「数百年は経っているはずなのに……」

 

私も近くの建物へ視線を向けた。

王都地下や第七研究所で見た紋様が、建物の壁や柱にも刻まれている。

街全体が、同じ思想で設計されていることが一目で分かった。

《ディバイン・サイト》を使わなくても、この都市全体が古代文明そのものだと感じられる。

 

「フィアナ」

 

アレックスが少し前方を指差した。

 

「見ろ」

 

視線を向ける。

建物の隙間から、一際高い塔が姿を現していた。

城壁の外から見えていた塔だ。

ここから見ると、白銀にも見える外壁が朝日を受けて淡く輝いている。

 

「あそこが……」

 

長い間、歴史の裏側へ隠されてきた都市。

古代王国の中心。

古代王都の探索が、いよいよ始まろうとしている。

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