俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
城門をくぐってからしばらく、私たちは中央へ延びる石畳の道をゆっくり進んでいた。
街は驚くほど静かだった。
風が建物の間を抜ける音だけが耳に届く。
人の気配はない。
それなのに、廃墟を歩いているような荒れ果てた印象も受けなかった。
石造りの建物は整然と並び、広い街路には大きな亀裂一つ見当たらない。
「まるで昨日まで人が住んでいたみたいだな」
ルークが辺りを見回す。
「建物もほとんど崩れてないし」
ミリアも感心したように壁へ触れる。
私も同じ違和感を抱いていた。
数百年もの歳月が流れているはずなのに、この保存状態はあまりにも良すぎる。
古代文明そのものが、時間の流れから切り離されていたようだった。
「エリシアさん」
私は隣を歩く彼女へ声を掛けた。
「何か思い出すことはありますか」
エリシアさんはゆっくり周囲を見渡した。
建物。
街路。
遠くに見える中央塔。
その一つ一つを確かめるように視線を動かしていく。
やがて静かに頷いた。
「間違いありません」
その声には迷いがなかった。
「夢の中で歩いていた場所です」
エリシア様も実際に古代王都を歩くのは初めてだ。
それが夢と一致するのなら、やはりエリシア様の夢は偶然ではなかったということなのだろう。
「この先も覚えていますか」
レオンさんが尋ねる。
「はい」
エリシアさんは中央塔の方角を指差した。
「夢では、あちらへ歩いていました」
「では進みましょう」
私たちは再び歩き始めた。
しばらく進むと、街路の脇に円柱状の石碑のようなものが立っているのが見えた。
高さは私の肩ほど。
表面には古代文字と紋様が刻まれている。
「これも古代文明の設備でしょうか」
コーデリアさんが手帳を開く。
私は近づいて紋様を見つめた。
王都地下や第七研究所で見たものと同じ意匠。
ただ、それらとは違い、石碑の中央だけが淡く光っている。
「まだ動いてるぞ……」
ルークが目を丸くした。
エリシアさんが恐る恐る一歩近づく。
すると石碑の光が少しだけ強くなった。
低く澄んだ音が鳴り、刻まれた文字がゆっくりと並び替わっていく。
「文字が変わった!」
ミリアが驚いた声を上げる。
私たちは息を潜めて見守った。
やがて古代文字が消え、新しい文字が浮かび上がる。
『都市管理区画』
その下には、さらに大きな文字。
『王都エーテリア』
私は思わず読み上げた。
「エーテリア……」
誰もその名を口にしたことはなかった。
それでも、不思議なほど自然に胸へ落ちてくる響きだった。
「これが、この都市の名前……」
コーデリアさんは急いで記録を書き留める。
レオンさんも静かに頷いた。
「古代王都の正式名称が判明したな」
私はもう一度石碑へ目を向けた。
王都エーテリア。
私たちのゲームには登場しない名前。
それなのに、この都市は私たちが設定した――私たちの知る現在の世界と、確かに繋がっている。
石碑を後にし、私たちは中央塔へ向かって歩き始めた。
街路はどこまでも真っ直ぐ続いている。
左右に並ぶ建物は静まり返っているのに、不思議と寂しさは感じなかった。
都市そのものが、今も眠り続けているような印象だった。
ルークとミリアは少し先を歩き、珍しそうに建物を見回している。
レオンさんとコーデリアさんも調査員へ指示を出しながら進んでいた。
私は歩幅を少し緩め、隣を歩くアレックスへ小さな声で話しかける。
「ねえ、アレックス」
「どうした」
「カルディアって……何なんだろう」
アレックスは視線を前へ向けたまま答える。
「マグナスの話か」
「うん」
私は静かに頷いた。
「私たちがこの世界へ来たことと、やっぱり関係があるのかな」
しばらく返事はなかった。
石畳を踏む足音だけが静かに響く。
「偶然じゃないと思う」
ようやく返ってきた答えは短かった。
「ここまで来ると、全部繋がってる気がする」
「私もそう思う」
ゲームには実装しなかった研究施設。
ゲームには設定もなかった古代王都エーテリア。
そしてカルディア。
知らないものばかりなのに、どこか私たちを待っていたようにも感じられる。
私は中央塔へ視線を向けた。
「あのね」
「ん?」
「EEのラスボスって覚えてる?」
「ああ、邪神だろ」
アレックスはすぐに頷いた。
「世界を滅ぼす存在って設定だったな」
「あれ、この世界にもいるのかな」
私の問いに、アレックスは苦く笑う。
「俺たちが作った物語じゃ、最後に勇者と聖女が倒す相手だった」
「でも、この世界は私たちのシナリオ通りじゃない」
「そうなんだよな」
古代文明も、カルディアも、本来なら存在しない。
ここまで違うのなら、邪神という存在も私たちの想像とは別のものになっているのかもしれない。
あるいは、そもそも存在しない可能性だってある。
「結局、一番分からないのは」
アレックスが小さく笑った。
「あのグラフィッカーかもしれないな」
私も思わず笑ってしまう。
「確かに」
「古代文明なんて設定してないのに、あんな背景を描いてた」
「地下施設も、この街も同じデザイン」
私は静かに周囲を見渡す。
石造りの建物。
広い街路。
中央へ伸びる一直線の道。
「まるで全部知っていたみたい」
「あいつ、一度も顔を見せなかったよな」
「うん」
そんなやり取りをアレックスと交わしていると、気持ちが少しだけ軽くなっていた。
「フィアナ」
前方からルークの声が飛ぶ。
「広場みたいなのが見えてきた!」
私は意識を切り替え、足を速める。
建物が少しずつ減り、視界が一気に開けた。
広い石畳の広場。
その中心を貫く一本道。
そして、その先にそびえ立つ白銀の塔。
街のどこからでも見えていた塔は、近づくほど圧倒的な存在感を放っていた。
「……大きい」
ミリアが見上げる。
塔は空へ届きそうなほど高く、基部だけでも一つの城ほどの広さがある。
古代王都エーテリア。
その中心で、塔は何百年もの時を超えて、静かに私たちを待ち続けていた。