俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
中央塔の前へ立つと、その巨大さを改めて思い知らされた。
街中から見上げていた時以上に圧倒的だ。
白銀の外壁は継ぎ目がほとんど見当たらず、一つの巨大な建造物を削り出したようにも見える。
入口へ続く長い階段を上り切ると、目の前には巨大な扉が現れた。
「……閉まってるな」
ルークが扉を見上げる。
高さは城門ほどではないものの、それでも十メートル近い。
左右へ開く構造らしいが、隙間はまったく見えなかった。
アレックスが軽く押してみる。
「やっぱり駄目か」
微動だにしない。
レオンさんも周囲を確認しながら口を開く。
「別の入口はなさそうだ」
コーデリアさんが塔の壁面へ視線を走らせる。
「窓らしいものもありません。完全に閉鎖されていますね」
私は扉の中央へ近づいた。
城門と同じ紋様。
同じ金属。
そして──。
「これもあります」
扉の脇には、以前見つけたものと同じ円形の装置が埋め込まれていた。
「認証装置……」
昨日と同じ結論へ辿り着く。
城門だけではない。
中央塔もまた、誰でも入れる施設ではないらしい。
私はエリシアさんへ振り返る。
「お願いできますか」
「はい」
エリシア様がゆっくりと右手を伸ばす。
指先が金属へ触れた瞬間、円形の装置が淡い青白い光を放った。
低い音が塔の奥から響く。塔全体が、応答しているようだ。
「また反応した!」
ミリアが思わず声を上げる。
扉へ刻まれた紋様が次々と発光し、白銀の壁面へ光が駆け巡る。
一本だった光は幾重にも枝分かれし、塔全体を包み込んでいく。
《ディバイン・サイト》。
私は魔法を発動してみた。
視界の奥で、無数の光が目覚めていく。
昨日まで静かだった流れが、都市全体から中央塔へ集まり始めている。
「フィアナ」
アレックスが小さく呼ぶ。
「何か見えたか」
「うん。街中の『流れ』が全部ここへ集まってる」
重厚な駆動音が鳴り響き、ゆっくりと扉が左右へ開いていく。
長い年月閉ざされていたはずなのに、軋む音はほとんどしない。
内部から流れ出てきた空気は冷たく澄み、埃っぽさも感じられなかった。
「中へ入れそうですね」
コーデリアさんが慎重に一歩踏み出す。
私たちも続いて塔の内部へ入った。
そこは想像していた研究施設とはまるで違った。
吹き抜けになった広い空間に白い壁と床。
柱の一本もなく、天井近くまで伸びる円筒状の空間が静かに広がっている。
中央には黒い石で作られた台座があり、その周囲を細い光の線が幾重にも巡っていた。
「……綺麗」
ミリアが思わず呟く。
壁際には第七研究所でも見た古代文字が刻まれた装置が並んでいる。
その一つだけが、私たちの侵入に合わせるように淡く発光した。
低く澄んだ起動音が響く。
文字が流れるように並び替わり、やがて現在使われている文字へ変換されていく。
『中央研究所』
さらに文字が切り替わる。
『エーテリア中央研究所』
『管理機構カルディア運用施設』
「運用施設……」
アレックスが静かに読み上げた。
私はその最後の一文から目を離せなかった。
【管理機構カルディア】
マグナスさんが最後に残した名前。
私たちが探し続けてきた存在。
その名が、今こうして目の前へ示されている。
次の瞬間、黒い台座の中央から淡い光が立ち上った。
機械的でありながら、不思議と温かみを感じさせる声が、静かな空間へ響く。
『管理機構カルディア、対人インターフェースを起動します』
台座から立ち上った光は、天井近くまで真っ直ぐ伸びると、その場で静かに広がった。
無数の光粒が舞い、やがて人の輪郭を描き始める。
「……人?」
ルークが思わず身構える。
アレックスも一歩前へ出て私たちを庇うように立った。
光はゆっくりと形を整え、一人の人物へと変わっていく。
年齢も性別も判然としない。
長い髪の女性のようにも見えれば、短髪の青年にも見える。
見る角度によって印象が揺らぎ、輪郭そのものが曖昧だった。
その人物はゆっくりと目を開く。
澄んだ瞳が私たちを見渡した。
敵意も驚きもない。
まるで決められた手順を確認するかのような静かな視線だった。
『認証を確認しました』
穏やかな声が響く。
『王家正統血統保有者の入域を確認』
その言葉に、全員の視線がエリシアさんへ集まる。
エリシアさん自身も戸惑ったように胸へ手を当てていた。
「私は……」
『認証は正常に完了しています』
光の人物は淡々と続ける。
『都市機能の一部を再起動します』
その瞬間、塔の壁面を走る光がさらに明るさを増した。
静かだった空間へ、次々と起動音が重なる。
壁際の装置、天井近くの紋様、床を巡る光の線……停止していた設備が、一つずつ目を覚ましていく。
コーデリアさんは慌てて手帳へ書き込み始めた。
エリシア様が目の前の光景を見据えたまま問いかける。
「あなたが、カルディアなのですか」
光の人物は小さく頷く。
『はい』
『私は管理機構カルディア』
『エーテリア中央研究所統括管理個体です』
その返答はあまりにも自然だった。
まるで、自分の名前を名乗るのと何も変わらない。
私は胸の鼓動が少しだけ速くなるのを感じた。
「質問がある」
レオンさんが一歩前へ出る。
「この都市で何が起きたのだ」
カルディアはわずかに沈黙した。
まるで膨大な記録の中から必要な情報を探しているようだった。
『回答します』
静かな声が塔へ反響する。
『情報開示権限を確認』
『開示可能範囲を選定』
カルディアはゆっくりと私たちを見回した。そこに敵意は感じられない。
その視線が私とアレックスの上で一瞬だけ止まる
ほんのわずかな間。
初めて、その表情に変化が生まれたように見えた
『……確認しました』
穏やかな声色は変わらない。
それでも、その一言だけはどこか意味を含んでいるように聞こえた。
『想定外要素を検出』
私たちは思わず息を潜める。
カルディアは静かに続けた。
『管理記録との照合を開始します』