俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
そうこうしているうちに、やがて列の先頭が見えてきた。
巨大な城門の下では、門番たちが一人一人を確認している。
商人は荷物を調べられ、旅人は身分を聞かれ。
問題がなければ街へ通される。
思った以上にしっかりしていた。
「意外と厳しいな」
明弘が呟く。
「治安維持のためだろ」
そう返した直後。
俺はあることを思い出し、そして固まった。
「……あ」
「どうした?」
「明弘」
嫌な汗が流れる。
「入城税」
数秒の沈黙。
そして。
「あ」
今度は明弘が固まった。
完全に忘れていた。
EEのアレドには入城税が存在する。
設定資料にも書いてある。というか俺が書いた。
外部から来た旅人は銀貨三枚。
商人は荷物に応じて追加徴収。
街の財源の一つ。
当然、俺たちが考えた設定だ。
「この世界の金、持ってるか?」
「持ってるわけないだろ」
俺たちは同時に頭を抱えた。
ゲームなら最初から所持金がある。
アレックスもフィアナも初期資金を持っている。
だが今の俺たちは違う。
ポケットを探る。
ない。
腰のポーチを探る。
ない。
出てきたのは先ほど貰った果物だけだった。
「詰んだ」
「詰んだな」
街を目の前にして入れない。
あまりにも情けない。
列は少しずつ進む。
門は近付く。
焦りだけが募る。
「どうする?」
「分からん」
ゲーム知識なら山ほどある。
だが銀貨は一枚もない。
その時だった。
「おや?」
聞き覚えのある声がした。
振り返る。
先ほど果物をくれた商人だった。
「まだ入っていなかったんですか?」
まずい。
説明できない。
すると門の方から声が飛んだ。
「次!」
旅人が門番へ銀貨を渡す。
確認。
通過。
そして。
「次!」
俺たちの番だった。
門番は壮年の男だった。
鋭い目で俺たちを見る。
「旅人か」
「ああ」
明弘が答える。
門番は慣れた手付きで言った。
「二人で銀貨六枚だ」
終了である。
俺たちは顔を見合わせた。
門番が眉をひそめる。
「どうした?」
「いや、その……」
言い訳が思いつかない。
無一文です。
なんて言ったら怪しすぎる。
周囲の視線も集まり始める。
まずい。
非常にまずい。
すると。
「あの」
後ろから声がした。
先ほどの商人だった。
「この人たち、私を助けてくれたんです」
門番が商人を見る。
商人は事情を説明した。
果物を回収してくれたこと。
荷物を守ってくれたこと。
門番は腕を組む。
「だから税を免除しろと?」
「いえ」
商人は首を振って苦笑した。
「私が払います」
「は?」
俺と明弘の声が重なった。
商人は照れくさそうに頭を掻く。
「商品を駄目にしていたら、それ以上の損でしたから」
「いやいやいや」
慌てて止める。
さすがにそこまで世話になるわけにはいかない。
しかし商人は頑として譲らなかった。
「恩人に恥をかかせる方が嫌ですよ」
その言葉に俺は言葉を失う。
ゲームのNPCなら言わない。
損得だけなら払う理由もない。
だが目の前の男は本気だった。
そんなやり取りの後、門番は俺たちと商人を一瞥すると
「まあいい。入城税が払えるのなら問題はない」
商人が銀貨を六枚差し出す。
銀貨を受け取った後、門番は少しだけ表情を緩めた。
「街の中で問題を起こすなよ」
「……ああ」
気付けば俺は真面目に頷いていた。
そうして城門をくぐった俺たちは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
広い石畳の大通り。
道の両側には商店が並び、人々が忙しなく行き交っている。
焼きたてのパンの香り。
露店から漂う香辛料の匂い。
遠くでは楽器を演奏する吟遊詩人の姿も見えた。
知っている。
俺たちはこの街を知っている。
何度も作り直した。何度もテストプレイした。
だが実際に立ってみると、知識と現実はまるで別物だった。
「本当にアレドだな……」
その何気ない言葉に、俺は強く実感した。
この世界では、人との縁が金より大切になることもあるのだと。
そして同時に理解する。
まず最優先でやるべきことは。
世界の謎を解くことでも、ラスボスを倒すことでもない。
――金を稼ぐことだ。
俺の腹が、ぐううううと情けなく鳴った。