俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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決着

鏡の海へ無数の光が走る。

アレックスが斬り込み、ルークが追撃し、ミリアの矢が黒い軌跡を描く。

私は後方で魔法を放ちながら、戦場全体を見渡していた。

 

《ディバイン・レイ》!

 

白銀の光が偽邪神を包み込み、轟音とともに爆ぜる。

爆煙の向こうで黒い結晶が砕け散る。

 

けれど、それだけだった。

砕けた結晶は周囲から伸びた黒い光に絡め取られ、何事もなかったかのように元の形へ戻っていく。

 

「また再生した!」

 

ルークが舌打ちする。

 

「キリがねぇぞ!」

 

「焦るな!」

 

アレックスが剣を構え直す。

 

「必ず攻略法はある!」

 

その言葉に頷きながらも、私は偽邪神から視線を離さなかった。

ゲームで私たちが作った邪神とは構造が違う。

だから同じ攻略法は通じない。

 

でも、まったく法則がない相手とも思えなかった。

カルディアは合理性を最優先する管理機構だ。

そんな存在が、無意味に複雑な設計を採用するとは考えにくい。

 

《ディバイン・サイト》

 

私はもう一度魔法を唱える。視界が静かに変わる。

世界を流れる魔力が淡く色づき、黒い因果の糸が偽邪神へ集まっていく。

私は息を潜めた。

 

……違う。

今まで見えていたものと。

偽邪神全体へ魔力が流れているんじゃない。

腕、脚、頭部、そして胴体。

砕けた結晶の一つ一つへ、それぞれ独立した流れが伸びている。

それらが途中で幾度も交差し、巨大な網のような構造を作っていた。

 

「フィアナ!」

 

アレックスの声で意識が戻る。偽邪神が目前まで迫っている。

 

《プロテクション》!

 

光の障壁が展開される。

黒い拳が結界へ叩きつけられ、衝撃が全身へ伝わる。

結界が軋む。

その隙にアレックスとルークが左右から斬り込んだ。

 

《トライ・エッジ》

 

《ブレードラッシュ》

 

連続する斬撃が右肩を砕く。

同時にミリアの《ピアシング・ショット》が胸部を貫いた。

偽邪神は数歩後退する。

 

「今だ!」

 

私も魔法陣を展開した。

 

《ホーリー・アロー》

 

白銀の光が頭部を撃ち抜く。

黒い結晶が大きく砕け散った。

 

破片同士を黒い光が結び始める。

私はその様子を凝視した。

また再生している……だけど。

 

「……違う」

 

思わず呟く。

 

「フィアナ?」

 

「全部が一つじゃない」

 

視線を外さないまま答える。

 

「あれ、一つの身体を再生してるんじゃない」

 

黒い糸が何本も絡み合い、各部位を結んでいく。

それは生物の血管にも神経にも見えない。

もっと人工的だった。

まるで。

 

「ネットワーク……」

 

「え?」

 

ルークが首を傾げる。

私は小さく首を振る。

説明している時間はない。

 

「アレックス!」

 

「何か分かったか!」

 

「偽邪神は、一つの生命体じゃない!」

 

アレックスの表情が引き締まる。

私は言葉を続けた。

 

「部位ごとに独立して動いてる。黒い結晶同士が繋がって、一つの存在として振る舞ってるみたい」

 

「……つまり?」

 

「現代でいう分散システムみたいな構造」

 

ゲーム開発者である私たちには、その言葉だけで十分だった。

アレックスの目が見開かれる。

 

「ああ、そういうことか」

 

彼は偽邪神を見据えたまま口を開く。

 

「サーバーを一台壊してもサービスは止まらない」

 

「複数台で処理を分散してるなら、一部が壊れても残りが補う」

 

「そう」

 

私は頷く。

 

「だから腕だけ切っても意味がなかった」

 

ルークとミリアは事情が分からない様子だったが、二人とも真剣に耳を傾けている。

アレックスが短く説明する。

 

「身体全部が別々の機械だと思えばいい」

 

「一個壊しても、残りが動いてれば全部復旧する」

 

「なるほど……!」

 

ルークが剣を握り直す。

 

「じゃあ全部まとめて壊せばいいんだな!」

 

「全部は無理」

 

私は首を振る。

 

「でも、過半数なら」

 

その瞬間、大学時代に読んだ技術書の一節が頭をよぎった。

多数決、障害耐性、合意形成。

完全に同じとは限らないけど、もしこの構造なら。

 

「過半数のノードが同時に停止すれば、全体が維持できなくなる可能性がある」

 

アレックスも頷いた。

 

「試す価値は十分あるな」

 

偽邪神が再び黒い魔力をまとい始める。

 

『戦闘継続』

 

『再最適化を実施』

 

カルディアの声が静かに響いた。

 

「行くぞ!」

 

アレックスが飛び出す。

 

「ルークは右!」

 

「了解!」

 

「ミリアは左腕!」

 

「任せて!」

 

私は魔法陣を展開する。

 

「頭部は私が狙う!」

 

四人が同時に動いた。

アレックスとルークの剣、ミリアの矢、そして私の神聖魔法。

 

ほぼ同時に四方向から攻撃が炸裂する。

右腕が飛び、左腕が砕ける。

胸部の結晶が弾け、頭部へ白銀の光が貫いた。

偽邪神の動きが止まる。

 

「どうだ……!」

 

ルークが叫ぶ。

その瞬間だった。

砕け散った結晶の一つ一つが、一斉に赤黒く明滅する。

 

『ノード損傷率、六三・二%』

 

カルディアの声が響く。

 

『同期処理を開始』

 

黒い光が網のように広がり、離れていた結晶同士を再び結び始めた。

 

「そんな……!」

 

ミリアの声が震える。

失われた部位が、再び形を取り戻していく。

私は《ディバイン・サイト》を維持したまま、その光景を見つめ続けた。

過半数は壊した。

理屈は間違っていない。

それなのに復旧した。

 

「……まだ何かある」

 

因果の糸は、私へそう告げていた。

 

 

「理屈は合ってるはずなのに……」

 

黒い結晶が次々と繋がり直していく。

切断された腕。

砕けた胸部。

吹き飛んだ頭部。

すべてが再び一つの身体を形作っていく。

 

私は《ディバイン・サイト》を維持したまま、その流れだけを追い続けた。

どこかにある。

理屈を崩す、たった一つの違いが。

 

『ノード同期、完了』

 

カルディアの声と同時に、偽邪神が再び動き出す。

 

「くっ……!」

 

アレックスが剣で受け止める。

ルークとミリアもすぐに立て直し、左右へ散開する。

 

私は攻撃に加わらず、偽邪神だけを見つめていた。

黒い因果の糸。

その一本一本が結晶を結び、巨大な網を作っている。

 

今までなら、それしか見えなかった。

けれど今は違う。

視界の奥で、因果がさらに細かく枝分かれしていく。

一本の流れが十本に……十本が百本に。

世界そのものが、無数の線で織り上げられた一枚の布のように広がっていく。

 

「これが……」

 

頭の奥が熱くなる。

私の『因果を感知する力』が、さらに深い領域へ踏み込んでいた。

そして、その光景を見た瞬間。

忘れていた記憶が、一気によみがえった。

 

 

「あー……またデバッグだなこりゃ」

 

私はモニターへ向かいながらぼやく。

画面には邪神AIのテストウィンドウ。

行動状態に遷移確率。

攻撃モーションと同期タイミング。

開発終盤、何度も見続けた画面。

 

「またデータ来てるぞ」

 

アレックスが後ろから声を掛ける。

 

「例のグラフィッカーか?」

 

「いや、もうこの量は異常だろ」

 

フォルダには大量のモーションファイル。

歩行、回避、攻撃、連撃。

今まで存在しなかったパターンまで追加されている。

 

「こんなの頼んでないよな」

 

「頼んでない」

 

アレックスも苦笑していた。

 

「でも完成度が高すぎるだろ……いけるところまで全部実装するか」

 

私は一つ一つ確認しながら思った。

まるで実際に邪神が戦った記録を、そのまま切り出してきたようだと。

 

 

「……そうだ」

 

記憶と現実が重なる。

私は偽邪神を見る。

動き……攻撃……そして回避。

そのすべてが、送られてきたモーションデータと一致している。

 

「違う」

 

私は小さく首を振った。

一致しているんじゃない。

あのデータそのものだ。

 

「アレックス!」

 

戦いながら彼が振り向く。

 

「思い出した!」

 

「あのグラフィッカー!」

 

「邪神のモーション!」

 

その一言だけで十分だった。

アレックスの目が大きく開く。

 

「まさか……!」

 

私は《ディバイン・サイト》を極限まで集中させる。

動きを知っている。

モーションも知っている。

なら、次に見るべきなのは動きではない。

 

動きと動きの間だ。

 

攻撃が終わり、次の攻撃へ移る。

そのほんの一瞬。

黒い因果の糸が、一斉に細くなった。

 

「見えた!」

 

思わず叫ぶ。

同期のために。

各ノードが情報を交換する、その刹那。

網が一度だけほどける。

 

「そこ!」

 

私は杖を掲げた。

 

「今なら同期が切れる!」

 

アレックスは迷わない。

 

「全員!」

 

「フィアナの合図に合わせろ!」

 

ルークが剣を握る。

 

「了解!」

 

ミリアが矢をつがえる。

私は因果だけを見つめる。

まだ。

まだ。

黒い糸が伸びる。

交わる。

ほどける。

 

「――今!」

 

四人が同時に動いた。

アレックスの《ジャッジメント・ブレード》。

ルークの《ブレードラッシュ》。

ミリアの《ピアシング・ショット》。

そして。

 

《セイント・アロー》!

 

白銀の光が鏡の海を貫いた。

四つの攻撃が、同期を失った結晶へ同時に突き刺さる。

一瞬。

世界から音が消えた。

黒い結晶は砕け散る。

けれど今度は。

一本たりとも、黒い糸が伸びてこない。

 

『……』

 

カルディアが初めて沈黙した。

砕けた結晶は光の粒となって崩れ落ちる。

偽邪神はゆっくりと膝をつき、その巨体へ無数の亀裂が走った。

 

「やった……?」

 

ルークが呟く。

返事の代わりに、偽邪神の身体が静かに崩壊を始める。

黒い粒子は鏡の海へ溶け、二度と集まることはなかった。

 

『偽邪神……停止』

 

カルディアの声は変わらず平静だった。

だが、わずかな間を置いて続ける。

 

『管理機構の演算に……未観測事象を確認』

 

その言葉を最後に、鏡の海を包んでいた黒い魔力が静かに薄れていく。

私は杖を下ろした。

胸の鼓動はまだ速い。

けれど確かな手応えがあった。

 

偽邪神は倒した。

しかし――カルディアとの決着は、まだ終わっていない。

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