俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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本編はここで完結となります


この世界で

アレドへ帰還してから、一か月ほどが過ぎた。

事件の余韻も少しずつ薄れ、街は以前の日常を取り戻している。

 

私たちも久しぶりに冒険者らしい生活を送っていた。

依頼を受けて、報酬をもらって、宿へ帰る。

そんな毎日。

だけど、一つだけ以前と違うことがあった。

 

「フィアナ、どうした?」

 

隣を歩くアレックスが不思議そうに私を見る。

 

「ううん……」

 

私は視線を逸らした。

以前なら何でもない距離、何でもない会話。

 

だけど今は違う。

意識してしまう。自分でも困るくらいに。

アレックスも同じらしかった。

時々、何か言いかけてやめる。そんなことが増えた。

 

 

その日の夕方。

依頼達成のお祝いのため酒場へ行くと、ルークとミリアが先に席を取っていた。

 

「遅かったな」

 

「そっちこそ」

 

私は向かいへ座る。

するとミリアが妙な笑みを浮かべた。

なんとなく嫌な予感。

 

「ねえ」

 

「何」

 

「いつまでやるの?」

 

「何を?」

 

「だから」

 

ミリアは呆れたようにため息を吐いた。

 

「お互い好きなのに気付いてないふり」

 

私は固まった。

隣でアレックスも固まった。

ルークが顔を背ける。

 

「お前ら見てると分かるんだよ」

 

「なっ……」

 

声が裏返った。

ミリアが額を押さえる。

 

「もう隠せてないから」

 

「隠してるつもりは……」

 

言いながら気付く。説得力が全くない。

私は意趣返しとばかりに、ミリアに言い返した。

 

「そういうミリアだってどうなの」

 

今度はミリアが言葉に詰まる。

 

「お、俺たちのことはいいだろ!」

 

隣でルークが慌てたような声を上げる。

ミリアを見ると、顔を赤くして俯いている。

ややあって、四人で顔を見合わせて笑った。

 

 

酒場からの帰り道。

人通りの少ない道を二人で歩く。

沈黙が続くけれど、不思議と嫌ではなかった。

だけど緊張する。なんだか心臓がうるさい。

 

「フィアナ」

 

先に口を開いたのはアレックスだった。

 

「ん?」

 

「俺は」

 

そこで一度言葉を切る。

珍しく迷っている。

それだけで少し嬉しかった。

 

「お前を失うのが怖い」

 

静かなで、真っ直ぐな声。

 

「これまで何度も思った」

 

私は黙って聞く。

 

「元の世界では親友だったよな、俺たち」

 

アレックスが苦笑する。

 

「今でもそうでしょ」

 

「勿論だ。だがもう俺たちは、それだけじゃないだろう」

 

私は足を止めてアレックスの方を見た。

 

「私も」

 

自然と言葉が出た。

 

「アレックスとこうしてるのが当たり前になっていて」

 

「いなくなるのが怖くて」

 

「気付いたら、ずっと見てた」

 

少し恥ずかしい。

元の世界では男だったのに……だけど後悔はなかった。

アレックスが小さく笑う。

 

「じゃあ」

 

「はい」

 

「これからも一緒にいてくれるか」

 

「それって……」

 

アレックスは少し照れくさそうに笑ってから、真っ直ぐ私を見つめた。

 

「お前のことが好きだ。フィアナ」

 

その一言で、胸いっぱいに何かが込み上げてきた。

視界が滲む。

返事をしようとしても声にならない。

私は何度も頷く。それだけで精一杯だった。

 

「……それで十分だ」

 

アレックスが優しく笑う。

 

「私も」

 

ようやく声が出た。

 

「私も好き」

 

そう伝えた瞬間、胸のつかえが一気にほどけた。

アレックスが一歩だけ近づく。

 

「……キス、してもいいか」

 

その問いに、私は少しだけ笑ってしまう。

こんな時まで律儀なんだから。

 

「うん」

 

小さく頷く。

アレックスは私の頬へそっと手を添えた。

 

鼓動が耳まで響いている。

逃げたいわけじゃない。

むしろ、この時間が終わってほしくなかった。

 

私はゆっくりと目を閉じる。

唇へ触れたのは、本当に一瞬だけの優しい温もりだった。

離れたあと、お互いに照れくさくなって笑ってしまう。

 

「……これで恋人、だな」

 

「うん」

 

自然と手が重なる。

指先を絡めると、それだけで心が満たされていく。

 

夜空を見上げる。

この世界へ来た日には想像もできなかった未来。

元の世界では親友だった私たちは、この世界で恋人になった。

 

帰る場所も、隣を歩く人も、もう迷わない。

私はアレックスの手を少しだけ握り返した。

二人並んで、静かな夜のアレドへ歩き出した。

 

 

数日後。

私たちは新しい家を見ていた。

 

「広くないか?」

 

ルークが言う。

 

「四人で住むならこれくらい必要よ」

 

ミリアが答える。

 

「そうね。それに人数はきっと増えるでしょうし」

 

言ってから気づいた。顔が赤くなっていくのが自分で分かる。

ミリアも私と一緒に顔を赤くしている。

 

「ま、そういうことだな」

 

アレックスが苦笑しつつ、そう言った。

 

私たちがこれまで受け取った報酬は、かなり大きな額になった。

それこそ、無理しなければ一生暮らしていけるくらいに。

 

けれど、私たちは冒険者を続けていた。

元の世界ではサラリーマンだったし、私もアレックスも働かないなんて不健康だとも思っていた。

この世界にニートなんて言葉は無いけれど。

 

だから思い切って家を買うことにしたのだ。

冒険者としてはかなり贅沢だと思う。

だけど。帰る場所が欲しかった。

私たちの家が。

 

「ここが私の部屋ね!」

 

「まだ決まってねえだろ」

 

ミリアとルークが言い合う。

私は笑った。

アレックスも笑っていた。

 

なんとなく不思議に思った。

少し前まで、元の世界へ帰る方法ばかり考えていたのに今は違う。

この家が嬉しい。この街が好きだ。

この世界で生きたいと思っている。

 

 

ある日のことだった。

私はレオンさんから送ってもらった、古代文明について書かれた資料を読んでいた。

中央塔、研究施設。無数の機械。

ネットワーク、認証、分散システム。

ふと手が止まる。

 

「あ」

 

「どうした?」

 

アレックスが顔を上げる。

私は勢いよく立ち上がった。

 

「もしかして」

 

「この世界でも作れるかも」

 

「何を?」

 

「ゲーム」

 

アレックスが瞬きをした。

私は続ける。

 

「古代文明の技術を調べれば、コンピューターに近いものを再現できるかも」

「もしそうなら、私たちが完成できなかったものを作れる」

 

部屋が静かになる。

アレックスはしばらく無言で考えていた。

そして不意に、大声で笑った。

久しぶりに見る、ゲーム制作を語る時の表情だった。

 

「面白そうだな」

 

「でしょ!」

 

「やるか」

 

私は大きく頷いた。

 

「うん!」

 

元の世界で完成できなかった作品『エターナル・エコー』。

道のりはとんでもなく長いけれど、今度こそ完成させたいと思った。

この世界で。

アレックスと一緒に。

 

 

門の前にはアレックスとルークが立っていた。

 

「遅い」

 

ルークが言う。

 

「女の子は準備に時間がかかるものなのよ!」

 

ミリアがいつもの調子でルークに言い返す。

 

「それに、アレックスはフィアナに何も言わないじゃない!少しは見習いなさい」

 

「見習えって、何をだよ」

 

「そりゃあ、女の子の扱いよ」

 

二人のやりとりを聞きながら、わたしはふと思った。

女の子、か。

最近はもう元の世界で男だったことは意識しなくなったけれど

珠玖直人の記憶はちゃんと残っている。

そして同時に、フィアナとしてこの世界で生きてきた記憶もある。

 

今の私はフィアナだ。そして珠玖直人でもある。

アレックスも同じだと思う。

だからこれからも進んでいける。

 

「そろそろ行こうよ」

 

私が言うと、ルークとミリアも喧嘩をやめて頷いた。

四人の声が重なる。

 

「出発!」

 

そして私たちは、新しい冒険へ踏み出した。

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