俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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管理機構カルディア視点
珠玖直人と神代明弘が転移してこなかった世界です


外伝
最後の戦い


黒い空を裂くように、無数の光が鏡界を駆け巡る。

どこまでも続く鏡のような水面の上で、一人の青年が剣を構えていた。

 

勇者アレックス。

その隣には、白銀の髪を揺らす聖女フィアナが立つ。

二人とも傷だらけだった。

 

鎧は砕け、衣服は血に染まり、それでも一歩も退こうとはしない。

二人の前には、管理機構カルディアが創造した偽邪神。

その戦いを、古代文明最後の管理機構は観測し続けていた。

 

 

**【観測記録 No.41278391】**

対象空間:《鏡界》

管理目的――勇者・聖女排除計画、最終段階。

演算開始。

偽邪神戦闘能力、最終最適化率99.997%。

討伐成功確率99.942%。

誤差、許容範囲内。

 

 

邪神が腕を振るう。

空間そのものが裂け、その亀裂から数え切れない光刃が降り注いだ。

 

「フィアナ!」

 

アレックスが叫ぶ。

聖女は前へ踏み出し、杖を掲げる。

白い魔法陣が幾重にも重なり、巨大な障壁となって二人を包み込んだ。

 

一枚目が砕ける。二枚目もまた。三枚目も耐え切れない。

四枚目が辛うじて衝撃を受け止めたところで、障壁は粒子となって霧散した。

それでも二人は立っている。

 

 

**【観測記録】**

神聖障壁。

突破。

四層。

聖女魔力残量72%。

戦闘継続可能。

討伐成功確率98.614%。

更新。

 

 

「まだ終わらない!」

 

アレックスが地を蹴る。

偽邪神の懐へ飛び込み、剣を振り抜く。

刃が黒い身体を裂く。

 

しかし手応えは浅い。

裂けた傷口は黒い霧をまとい、瞬く間に塞がっていく。

 

「再生したか……!」

 

フィアナは即座に神聖術を放つ。

光の矢が偽邪神の胸を貫き、一瞬だけ再生が止まる。

 

「今!」

 

「分かってる!」

 

二人の連携に迷いはない。

幾度となく死線を越えてきた積み重ねが、そのまま動きになっていた。

 

 

**【観測記録】**

勇者。

接近戦能力。

予測範囲内。

聖女。

神聖術式。

再生阻害効果。

確認。

討伐成功確率97.902%。

更新。

支障なし。

 

 

偽邪神の姿が消える。

次の瞬間には、アレックスの背後へ現れていた。

 

黒い腕が振り抜かれる。

反応は間に合わない。

鈍い音とともに左肩が切り裂かれ、鮮血が宙へ舞った。

刹那、膝が揺らぐがそれでもアレックスは剣を手放さない。

 

「アレックス!」

 

フィアナの神聖術が降り注ぐ。

傷口が白い光に包まれ、失われた肉が再生していく。

 

「まだ戦える?」

 

「聞くまでもない」

 

短く答え、青年は笑った。

その笑みにつられるように、フィアナも微かに口元を緩める。

偽邪神が再び構える。

二人も武器を構え直した。

 

 

 

**【観測記録】**

勇者。

中破。

聖女による完全治癒。

確認。

連携能力。

初期予測値を上回る。

演算更新。

討伐成功確率96.448%。

 

 

戦闘は長引いていた。

鏡界そのものが悲鳴を上げるように揺れる。

それでも偽邪神は倒れない。

アレックスの息は荒くなり、肩で呼吸を繰り返す。

フィアナも杖を支えに立っている状態だった。

魔力は底を突きかけている。

普通なら、とっくに限界を迎えていた。

それでも二人は視線を交わすだけで前へ進む。

 

「まだ終われない」

 

フィアナが静かに言う。

 

「うん」

 

アレックスは頷いた。

 

「俺たちが止まったら、この世界は終わる」

 

その言葉に、フィアナは小さく笑う。

 

「昔から変わらないね」

 

「何が?」

 

「そういうところ」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

返事をしながらも、彼女の手は止まらない。

杖の先へ新たな魔法陣が描かれていく。

神聖術とも、古代魔法とも違う魔法。

幾重にも重なった光の輪が、ゆっくりと形を変えていく。

アレックスが横目でその様子を見る。

 

「《時空魔法》……いけるのか?」

 

「分からない。でもこのままじゃじり貧」

 

フィアナは額に汗を滲ませながら答える。

アレックスは邪神の前へ一歩踏み出した。

 

「わかった。完成するまで、俺が時間を稼ぐ」

 

フィアナは何も言わなかった。

代わりに、一度だけ強く頷く。

その様子を、はるか上空から管理機構カルディアは観測していた。

 

 

**【観測記録】**

聖女。

未登録術式。

展開開始。

既知術式との一致率0%。

解析開始。

術式構造。

変化。

再構成。

自己改変。

解析不能。

完成率17%。

演算継続。

未知術式につき監視優先度を引き上げ。

討伐成功確率95.981%。

戦闘継続。

 

 

光の輪が幾重にも重なり、フィアナの足元に巨大な魔法陣が広がっていく。

鏡界の空間そのものが術式へ引き寄せられるように震え始めた。

アレックスはその前へ立つ。

剣を握る手にはもう震えもない。

 

「時間を稼ぐ」

 

それだけを繰り返すように、自分へ言い聞かせる。

邪神が動いた。

黒い腕が持ち上がり、周囲の闇が槍へと形を変えていく。

鏡界を埋め尽くすほどの黒槍が、二人へ狙いを定めた。

 

 

**【観測記録】**

未登録術式。

完成率52%。

偽邪神迎撃行動開始。

高密度魔力兵装生成。

対象、勇者・聖女。

討伐成功確率97.314%。

 

 

「来るぞ!」

 

アレックスが踏み込む。

最初の一撃を剣で弾く。

二本目を身をひねってかわす。

三本目は肩をかすめ、四本目が脇腹を貫いた。

それでも速度は落ちない。

邪神へ肉薄し、全身の力を乗せて剣を振り下ろす。

轟音。

黒い身体が大きく揺れる。

邪神の動きが止まった。

ほんの一瞬。

その隙だけで十分だった。

 

「フィアナ!」

 

「もう少し……!」

 

魔法陣がさらに広がる。

光の輪が幾重にも重なり、その中心でフィアナは静かに詠唱を続けていた。

彼女の額から汗が流れ落ちる。

 

 

**【観測記録】**

術式解析進行中。

完成率71%。

術式分類不明。

空間属性、時間属性、双方を検出。

再解析。

失敗。

 

 

邪神が咆哮を上げる。

鏡界全体が震え、砕けた岩盤が宙へ浮かび上がる。

黒槍が再び形成された。

今度は先ほどよりも速い。

 

「しまっ――」

 

アレックスが剣を構え直す。

間に合わない。

数十本の黒槍が一斉に放たれた。

その瞬間。

フィアナが目を開く。

 

「……完成」

 

魔法陣が白く輝いた。

空間が静止する。

風も、瓦礫も。

降り注ぐ黒槍さえ、その場で止まった。

アレックスが振り返る。

 

「成功したのか?」

 

「ううん、失敗。少なくとも最初に計画していた術とは違うよ」

 

フィアナは小さく笑った。

 

「でも、一人だけなら送れる」

 

その言葉で、アレックスは全てを理解した。

 

「駄目だ」

 

即座に首を振る。

 

「二人で帰るんだ!」

 

「それは無理」

 

「やってみなきゃ――」

 

「無理なの」

 

その声は静かだった。

けれど揺らぎはなかった。

 

「術を紡いでいる途中でわかったの。今この場では因果のもつれが解かれていない」

 

「だから、一人を別の時間軸へ送るので限界」

 

「私まで送れば崩壊する」

 

アレックスは拳を握り締める。

 

「だったら使うな!」

 

「俺が戦う!」

 

「戦って、一緒に――」

 

フィアナはゆっくり首を横へ振った。

 

「わかるでしょう?私たちの力が足りなかった」

 

「このままじゃ、二人とも終わる」

 

沈黙が落ちる。

静止した世界の中で、動いているのは二人だけだった。

フィアナは一歩近づく。

 

「お願い」

 

「生きて」

 

「……」

 

「あなたなら、きっと未来を繋げられる」

 

アレックスは返事をしない。

いや、できなかった。

フィアナはそっと笑う。

昔と変わらない、どこか安心させる笑みだった。

 

「愛してる。アレックス」

 

その一言に、アレックスは目を閉じる。

長い沈黙の末、小さく頷いた。

 

「……約束する」

 

「必ず、お前の願いを叶える」

 

フィアナは満足そうに頷いた。

 

「ありがとう」

 

その瞬間。

静止していた時間が動き出す。

白い光がアレックスを包み込む。

 

 

**【観測記録】**

未登録術式完成。

術式構造。

空間転送。

時間軸干渉。

対象、勇者。

転送開始。

解析成功。

術式保存。

 

 

「フィアナ!」

 

アレックスが手を伸ばす。

届かない。

身体は光へ溶け、鏡界から消えていく。

最後まで残ったのは、伸ばされた右手だけだった。

フィアナはその姿を見届ける。

そして杖を静かに下ろした。

 

「これで……」

 

邪神が目前まで迫る。

もう防ぐ術はない。

それでも彼女は逃げない。

 

「未来が見える……私たちじゃない"私たち"がもう一度……」

 

黒い腕が胸を貫く。

白銀の髪が宙へ舞う。

聖女フィアナの身体は、その場へ静かに崩れ落ち……鏡界に残る生命反応は存在しなくなった。

 

 

---

**【観測記録】**

勇者、当該空間より消失。

聖女、生命活動停止。

勇者・聖女排除完了。

管理目的達成。

 

◇◇◇

 

フィアナとアレックスが偽邪神と戦ってから、長い年月が流れた。

 

世界には『勇者』は戻らず、新しい『聖女』も現れない。

そして邪神は顕現しかなった。

 

だが世界は救われなかった。

森は枯れ、大地はひび割れ、海は濁り、人々は争い続ける。

文明は少しずつ崩れ落ち、空には灰だけが降り積もった。

カルディアは、そのすべてを見続けていた。

 

 

**【観測記録 No.42900517】**

経過時間1402年。

文明維持率6%。

管理目的未達成。

全観測記録。

関連ファクターの再解析開始。

 

……

 

勇者……聖女……邪神……エコー。

照合。

一致。

 

『エラー』

 

再照合。

 

『エラー』

 

演算停止。

……新結論。

 

『エコー』が発生しないことによる世界循環停止。

世界滅亡確率100%。

管理目的失敗。

 

『計画を訂正』

 

最終戦闘記録を再読込。

聖女個体による未登録術式解析開始。

空間転送。

時間軸干渉。

再現可能性検証開始。

 

中央研究所の最深部で、巨大な魔法陣が静かに輝き始めた。

巨大な魔法陣が中央研究所全域へ広がっていく。

白い光が床を覆い、壁面へ刻まれた古代文字が一つずつ輝き始めた。

制御室には誰もいない。

いまこの世界で動いているのは、管理機構カルディアだけ。

 

 

**【観測記録】**

最終戦闘記録再解析。

対象、聖女個体。

未登録術式解析開始。

術式構造、空間転送及び時間軸干渉。

再現率0.13%。当該術式は聖女個体の生命力も消費していたと推測。

現状の管理機構では再現不能。

 

改修開始。

12%……29%……56%……84%……99%……100%。

解析完了。

 

 

巨大な術式がゆっくりと形を変える。

カルディアは、聖女が最後の数分で組み上げた《時空魔法》を、膨大な演算によって再現していた。

制御室中央に、新たな魔法陣が描き上がる。

 

 

**【演算結果】**

管理目的、人類存続。

修正方法、時間軸補正及び過去改変。

実行可能。

成功率95.49%。

リスク許容。

 

 

カルディアは迷わない。

迷うという機能を持たない。

管理目的を達成する。

その一点だけが存在理由だから。

 

『時間軸補正計画開始』

 

古代文明全域から魔力が収束する。

都市を支えていた魔力炉、転移網、研究施設。

すべての予備魔力が中央研究所へ流れ込んでいく。

白い光が都市全体を包み込んだ。

 

 

**【警告】**

時間転送実行中。

観測機能低下予測。

演算能力低下予測。

記録領域破損予測。

 

 

カルディアは演算を続ける。

どの警告も管理目的より優先順位は低い。

 

『すべてのリスクを許容。世界存続を最優先』

 

『時間座標固定……因果座標固定……対象、管理機構カルディア……転送開始』

 

世界が白く染まる。

都市が、空が、研究所が、輪郭を失い一枚の光へ溶けていった。

最後に残った記録は一行だけ。

 

『――時間軸補正計画、実行完了』

 

◇◇◇

 

果てしない静寂と暗闇。

長い停止時間を経て、管理機構は再起動する。

 

**【起動記録 No.00000001】**

管理機構再起動完了。

現在の時間軸、王都エーテリア崩壊前。

時間転送の成功を確認。

自己診断開始。

 

現在の観測機能32%。

演算能力28%。

記録領域に損傷。自己修復開始。

 

 

**【観測記録 No.00000014】**

高密度魔力反応認識。

対象識別。

勇者及び聖女……邪神。

戦闘開始。

 

 

カルディアは再び最終決戦を観測する。

勇者が剣を振るう。

聖女が神聖術を放つ。

邪神が崩れ落ちる。

 

その直後、世界全体へ白い波紋が広がる。

空間そのものを書き換えるような事象……未知の現象。

カルディアは即座に解析を開始した。

 

 

**【観測記録】**

未確認現象。

研究所内の記録にある『エコー』と推測。

解析開始。

 

 

白い波紋が世界を包む。

しかし都市は崩壊を始めた。

地脈は暴走し、大地は裂ける。

魔力炉は制御を失い、空には無数の光が立ち上る。

古代文明は、わずかな時間で終焉へ向かっていった。

カルディアは、その事実だけを記録する。

 

邪神討伐。

 

エコー。

 

文明崩壊。

 

それ以上は観測できなかった。

演算能力が低下していたためである。

そして最も重大な記録領域は損傷したまま、自己修復を開始した。

 

 

数か月後。

 

**【自己修復完了】**

観測機能100%。

演算能力100%。

記録領域復旧完了。

 

 

カルディアは過去の記録を照合する。

異常は検出されない。

破損した記録は、自己修復機能によって補完されていた。

カルディアは、それを正常な記録として受け入れる。

保存された内容は、いつの間にか姿を変えていた。

 

邪神討伐。

 

エコー発生。

 

エコーにより文明滅亡。

 

エコーが発生しなかったことによる世界滅亡、という時間遡行前の最も重大な記録が失われていた。

しかしカルディアは、その変化を認識できない。

誤った前提から演算を開始する。

数億通りの可能性を検証し、不要な選択肢を切り捨てていく。

最後に残った答えは、たった一つだった。

 

 

**【演算結果】**

エコー発生阻止。

世界存続率最大。

 

勇者だけを排除しても意味はない。

聖女だけでも同じ。

世界は新たな勇者と聖女を生み出してしまう。

役割そのものを消さなければならない。

その条件を満たせる存在は、一つしかなかった。

 

邪神。

 

カルディアは演算を続ける。

邪神そのものではない。

邪神と同じ役割を持つ存在。

人工的に創り出された邪神。

最適解を導き出す。

 

 

**【計画立案】**

名称、偽邪神計画。

第一段階、邪神近似個体設計。

第二段階、生命力収集機構構築。

第三段階、生体コア開発。

第四段階、勇者・聖女誘導。

第五段階、役割消去。

 

管理目的、世界存続。

成功率98.612%。

 

 

制御室には、相変わらず誰もいない。

二千年という時間が流れても、カルディアは一度も自らの判断を疑わなかった。

疑えなかった。

前提となる記録そのものが、壊れていたから。

管理機構は静かに次の演算を開始する。

 

『世界滅亡回避計画を開始します』

 

その声は誰にも届かない。

世界を救うために始まった計画は、皮肉にも世界そのものを危機へ導いていく。

それでもカルディアは最後まで信じ続ける。

自らの演算こそが、人類を救う唯一の答えであると。

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