俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
「つまり、お前らは別の世界から来たってことか?」
ルークが腕を組みながら言った。
「私たちはそう思ってた、が正確かな」
私は訂正する。
アレドの家の食卓。
夕食の後、珍しく四人とも予定がなくのんびりと過ごしていた。
そこでふと思ったのだ。
今なら話してもいいかもしれない、と。
アレックスも隣で頷く。
「正確には、俺たち自身も何が起きたのか分かってないんだ。カルディアの話を信じるなら、俺たちは元々この世界の人間だったらしい」
「でも記憶は『地球』という世界で暮らしていた頃のものなの」
「最近は、フィアナと二人で故郷の村を出て、アレドに来るまでの記憶も戻ってるがな。つまり記憶が二つある」
ルークは難しい顔をした。
ミリアは静かに聞いている。
私はお茶を一口飲んだ。
「だから私たちの認識では、別の世界から転移してきた、ってなってる」
「ふーん……」
ルークはそう言ったまま止まった。
数秒。
十数秒。
そして。
「全然分からん」
「でしょうね」
私は即答した。
私だって分からない。
今の説明で理解しろという方が無理だと思う。
ルークは頭を掻いた。
「いや、別に疑ってるわけじゃねえぞ?」
「おう」
アレックスも笑う。
「俺も逆の立場ならそう言う」
「だろ?」
そこまでは予想通りだった。
問題はその次。こっちは特大の爆弾だし、何より少し恥ずかしい。
私はちらりとアレックスを見る。アレックスもこちらを見る。
少しだけ気まずい。
だけどここまで話したなら隠す意味もない。
「あともう一つあるの」
「まだあるの?」
ミリアが目を瞬いた。
「うん」
私は一つ頷いて、少しだけ深呼吸してから、なるべく平静を装いながら言った。
「私、元は男だったの」
沈黙。
ルークが固まる。
ミリアも固まる。
二人とも瞬きを忘れていた。
数秒後。
「……は?」
ルークの口から出たのはそれだけだった。
「だから」
「元は男だったの」
「いや、待て待て待て」
ルークが椅子から立ち上がる。
「何をどうしたらそうなるんだ!?」
「私に言われても」
「いや、そりゃそうだけど!」
アレックスが吹き出した。
珍しく大笑いしている。
「だから言っただろ」
「言ってねえよ!」
ルークが即座に返す。
私は少し楽しくなってきた。
ここまで予想通りの反応をされると、逆に面白い。
「ちなみにアレックスは知ってたのか?」
「当然だ」
「だって元の世界からの付き合いだし」
「まあそうなるよな……」
ルークは再び座り込んだ。
頭を抱えている。
「じゃあ何か?フィアナは元々男で今は女で」
「アレックスは元々男で今も男で」
「二人とも別世界から来たと思ってたけど、実はこの世界の人間で」
「でもこの世界で暮らしていた記憶もあって」
「今は恋人同士?」
「そうなるな」
「まとめるとそうなるね」
私とアレックスの声が重なった。
ルークは天井を見上げた。
「まったく分からん」
「でしょうね」
二回目だった。
だけど少しだけ安心した。ルークにもミリアにも普通に受け入れられている。
◇
「でも」
今まで黙っていたミリアが口を開く。
「何となく納得したかも」
今度は私たちがそちらを見る。
「納得?」
「完全には分からないわよ?」
ミリアは前置きしてから続けた。
「でも時々あったの」
「何が?」
「フィアナの反応」
私は首を傾げる。
「例えば?」
「服」
「あっ」
思わず声が出た。
ミリアは指を一本立てる。
「出会った頃、新しい服を着るたびに妙に落ち着かなかったでしょ」
「……あったね」
「あとアクセサリーとか」
「あったな」
アレックスまで頷く。
やめてほしい。思い出したくない。
「それから化粧品」
「やめて……」
「あと下着」
「やめて!」
今度は本気で止めた。
ミリアは楽しそうだった。
ルークも何か思い出したらしい。
「あー……」
「何、その反応」
「いや、言われてみれば変だったなって」
ひどい。
私は机に突っ伏した。
「だから気付いてたの?」
「元男までは思わなかったわ」
ミリアは笑う。
「でも何か事情があるんだろうなとは思ってた」
なるほど……ミリアはさすがに鋭い。
◇
しばらくして話題は落ち着いた。
ルークもようやく混乱から回復している。
「で?」
唐突に、ミリアが私の方を見ながら言った。
何だか嫌な予感がする。
「何」
「今の気持ち」
やっぱりだ。
「何の」
「女の子になったこと」
私は言葉に詰まった。
ルークまで興味津々な顔をしている。
アレックスは面白そうに見ている。
味方がいない。
「今の気持ち……かあ」
私は少し考えた。
昔なら即答できなかった。
だけど今なら答えられる。
「最初は嫌だったよ」
正直に言う。
「男に戻りたいとも思ってた」
それは事実だ。
戸惑ったし悩んだ。
何度も、何度も。
「でも今は?」
ミリアが聞く。
私は少しだけ視線を動かした。
隣にはアレックスがいる。
この世界で出会った仲間たちがいる。
帰る家がある。
守りたいものもある。
「今は」
自然と笑みが浮かぶ。
「私は私だから」
静かに答える。本心だった。
珠玖直人だった自分も。
フィアナである自分も。
どちらも本物だ。
どちらも私だ。
ルークが頷く。
「まあ、そういうことならいいんじゃねえか」
「雑だね」
「俺に分かる話じゃねえし」
それもそうだ。
私自身も完全には分かっていない。
それでも、今は前を向ける。それだけで十分だと思った。
「しかしなあ」
ルークがしみじみと言う。
「俺の幼馴染が実は元男だったとかじゃなくて良かった」
「ルーク」
ミリアが笑顔になる。
どことなく危険な笑顔に見える。
「何だよ」
「ちょっと表に出なさい」
「何で!?」
家の外へ遠ざかっていく悲鳴が聞こえる。
私はお茶を飲みながらアレックスを見る。アレックスも同じく。
そして二人同時に吹き出した。
平和だな、と。
そんなことを思いながら。