俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
冒険者ギルドの中は、想像以上に騒がしかった。
木造の広いホール。
依頼書が貼られた掲示板。
長机で酒を飲む冒険者たち。
奥では受付嬢たちが忙しなく対応している。
酒と汗と革鎧の匂いが混ざり合い、いかにも冒険者の溜まり場という空気だった。
俺たちが入った瞬間、何人かの視線がこちらを向く。
正確には俺に。
「おい見ろ」
「神官か?」
「貴族のお嬢様じゃねえのか」
ひそひそ声が聞こえる。
やめてほしい。
元男としては非常に居心地が悪い。
「見られてるな」
明弘が小声で言う。
「主にお前がな」
「知ってる。黙ってろ」
知りたくなかったが。
ゲームを作っている時に何度も感じたが、フィアナはとんでもない美少女だ。
目立つのも当然だ。
俺はさっさと受付へ向かった。
幸い、空いている窓口がある。
受付の女性は営業スマイルで迎えた。
「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「登録をお願いします」
「新規登録ですね」
女性は慣れた手付きで書類を取り出した。
「お名前を」
「アレックス」
「フィアナ」
羽ペンが走る。
俺は少し感心した。
ゲームでは数秒で終わる処理だが、現実ではちゃんと書類仕事があるらしい。
受付嬢は続ける。
「出身地は?」
俺と明弘は固まった。
まずい、考えていない。
数秒の沈黙。
受付嬢が首を傾げる。
「どうかなさいましたか?」
「……辺境の村です」
咄嗟に明弘が答えた。
「かなり遠方で」
「なるほど」
意外にもあっさり通った。
辺境出身の冒険者など珍しくないのだろう。助かった。
「では適性検査を行います」
「適性検査?」
「戦闘職登録には必須です」
そう言って受付嬢は奥の部屋を指した。
そんな設定作った覚えは無いんだが……。
◇
案内された部屋には、水晶玉のようなものが置かれていた。
直径30センチほど。
淡く青白い光を放っている。
俺は思わず目を見開く。
これ自体は知っている。ゲームで設定した魔力測定器だ。
だがこれは、神殿や魔術師ギルドで使われる設定で、単なる背景オブジェクトだぞ?
「まずは手を置いてください」
明弘が先に試す。
水晶へ触れた瞬間、淡い光が灯った。
受付係の男が頷く。
「身体能力は高め。戦士適性良好ですね」
予想通りだが、ある意味予想外だとも言える。
ゲームの『アレックス』は勇者。
こんなところで『勇者様が現れた!』とか言われても面倒だ。
「次の方」
勇者が普通の戦士なら、聖女も大丈夫だろう。
俺は少しだけ安心しながら、しかし恐る恐る手を置く。
その瞬間。
眩い光が部屋を埋め尽くした。
「うわっ!?」
俺自身が一番驚いた。
光は一瞬で天井近くまで吹き上がる。
測定器が低く唸った。
部屋が静まり返る。
受付係、同行してきた受付嬢、そして近くにいた職員。
全員固まっていた。
「……えっと」
俺が声をかける。
誰も返事をしない。
やがて受付係が震える声で言った。
「高位神官級……?」
部屋がざわついた。
「嘘だろ」
「こんな地方都市で?」
「王都の大神殿クラスじゃないか」
次々と声が上がる。
俺は頭を抱えたが、明弘は後ろで大笑いしている。
(何で俺だけ異世界テンプレになって、勇者は普通なんだよ!!)
フィアナは主人公のアレックスとエンディングまでPTを組むヒロイン枠だ。
クリアまではパーティーから外すことも出来ない。
つまり性能としては、ゲーム内最高クラスの魔力量を持つ……のだが
だったら勇者は何で普通なのか。
頭を抱えていると、後ろから明弘が小声で話しかけてきた。
「テンプレだな。だが面倒なことになりそうだな」
「うるさい。そもそもだったら何で勇者のお前が普通なんだよ。納得いかん」
俺も小声で返す。
受付係は慌てて咳払いした。
「失礼しました。登録は問題ありません」
その言葉とは裏腹に、目が完全に問題ありと言っている。
……気のせいかもしれないが。
◇
その後、無事に冒険者証を受け取った。
金属製の小さなプレートだった。
名前と登録番号が刻まれている。
ゲームだとステータス画面に載るだけだが、現実だとこうなるのか。
ともあれ、これで身分証も確保できた。
問題は次だ。金を稼がなければならない。
掲示板の前へ向かうと、依頼書がびっしり並んでいた。
──薬草採取。
──荷物運搬。
──下水道清掃。
──畑の害獣駆除。
ゲームで見た依頼も多いが、現実の依頼はもっと細かい。
報酬額も記憶より安いように思える。
「宿代ってどれくらいだ?」
「安宿で一人銀貨一枚とか二枚に設定したはず」
「高くないか?」
「俺たちが作った設定だぞ」
「そうだった……」
二人で頭を抱える。
すると近くの受付嬢が声をかけてきた。
「初心者の方でしたら、こちらがおすすめですよ」
差し出された依頼書を見る。
【薬草採取・常時依頼】
報酬:薬草一束につき銅貨五枚
場所:アレド西方の森
知っている。序盤プレイヤーが最初に受けることを想定した依頼だ。
そして、この依頼はフィールド探索のチュートリアルを兼ねているため
ゲームでは敵の出てこない、安全な依頼のはずだ。
「これにするか」
明弘が言う。
「だな」
「銅貨10枚で銀貨1枚、食事も考えるとノルマは5から6束ってところか」
「そもそも一束って何本だ?適当だよな」
そう言い合いながら依頼を受けることにした。
まずは生活費、宿代。
世界の謎も、ラスボスも後回しだ。
俺たちは依頼書を手に取る。
だがその時、受付嬢が少し困った顔で付け加えた。
「ただ最近、西の森で少し妙な報告がありまして」
俺たちは顔を上げた。
「妙な報告?」
「ええ。普段はいないはずの魔物を見たという話が何件か……」
俺と明弘は思わず顔を見合わせた。
またゲームの知識にはない情報が出てきた。
「それに最近、旅人の行方不明者も多発しています。気を付けてくださいね」
フラグか?と思いながら受付嬢の話を聞く。
どうやら最初の仕事から、予定通りにはいかないらしい。