俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

8 / 9
これもテンプレですね


第8話

俺たちは冒険者ギルドで依頼受注の手続きを済ませ街を出た。

冒険者証があるから、次は入城税は取られないはず。

西の森へ向かって歩いていると、不意に明弘が言った。

 

「そういえばさっきもらった果物、食べてしまおうぜ」

 

「ナイフも包丁も無いんだが」

 

「いや、そこはこうやって」

 

明弘は果物を空中に放り投げると、短い気合とともにさっきその辺で拾った木の棒をふるう。

 

《スラッシュ》

 

果物は首尾よく真っ二つになっていた。

 

「……すごいな、木の棒だろそれ」

 

「どうやら木の棒でも、スキルなら切断判定になるみたいだな」

 

「武器属性とかあるのか?いろんな武器を大量に持ち歩くのは現実だと無理だよな」

 

そんなことを話しながら小一時間ほど歩いて、薬草が採取できるという森の入口へやってきた。

薬草採取。

報酬は高くないが、今の俺たちには貴重な収入源だ。

ゲームだと薬草は光る点になって表示されて、何だったら周辺マップ上で確認もできる。

だがここは現実。光る点も無ければ周辺マップも存在しない。

 

「当たり前だが、素材採取UIなんかは出ないな」

 

「そりゃそうだろ」

 

「薬草の形はさっきギルドで絵を見せてもらっただろう。それを元に探すしかないな」

 

「こうして見ると普通の異世界冒険者だよな」

 

明弘が肩を竦める。

 

「昨日までデバッグしてた人間の台詞じゃないな」

 

俺も苦笑した。

 

森へ続く街道を歩く。

ゲームでは数十秒で通り過ぎる場所だが、実際はかなり広い。

鳥の声。

木々のざわめき。

土の匂い。

すべてが現実だ。やがて森へ入る。

 

「薬草は確か日陰に生えるんだったな」

 

「お前が設定したんだろ」

 

「正確には資料担当のお前だ」

 

「共同責任だな」

 

そんな話をしながら森を進む。

その時、遠くから叫び声が聞こえた。

 

「きゃあっ!」

 

「くそっ!」

 

どこからか聞こえてくる悲鳴に、俺たちは同時に足を止めた。

戦闘だ。しかも近い。

 

「行くぞ!」

 

明弘が駆け出す。

俺も後を追った。

木々の間を抜ける。

そして開けた場所へ飛び出した瞬間。

 

「なんだあれ」

 

思わず呟いた。若い男女が二人。

初心者らしい革鎧姿だ。

男は剣。

女は弓を持っている。

 

だが問題はその前方だった。

 

黒い。

異様に黒い。

人型にも獣型にも見える影。

輪郭が曖昧で、煙のように揺らいでいる。

まるで影そのものが立ち上がったような存在だった。

 

「シャドウ系……?」

 

明弘が眉をひそめる。

俺も同じことを考えていた。

 

……だがおかしい。

EEには確かにシャドウ系という黒づくめのモンスターがいる。

そもそもシャドウ系は、色違いで敵の数を増やすために設定しただけだから

あんな風に輪郭まで分からないのはおかしい。

だいたい、こんな序盤に配置してはいない。少なくともアレド周辺には。

 

その間にも影の魔物は動く。

初心者冒険者の男が剣を振るうが刃が浅い。

影が腕を振るう。

男が吹き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

女が悲鳴を上げる。

まずい、あれは本当に死ぬ。

ここはゲームじゃない。

俺は反射的に前へ出ていた。

 

「直人!」

 

明弘の声。

分かっている。

俺は右手を掲げた。

頭の中に魔法陣を思い浮かべる。

聖属性初級攻撃魔法。

 

《ホーリー・アロー》

 

魔法陣が展開される。

光が収束する。

 

「撃て!」

 

光の矢が一直線に飛んだ。

影の魔物へ命中する。

 

瞬間。

魔物が絶叫した。

人とも獣ともつかない不気味な声。

身体が崩れかける。

効いている。

 

「明弘!」

「任せろ!」

 

明弘が地面を蹴る。

速い。

人間離れした速度。

一瞬で間合いを詰める。

拾っただけの木剣が振り抜かれた。

 

「スラッシュ》!

 

風が唸る。

閃光のような斬撃。

影の身体が真っ二つになった。

 

だが消えない。

影は再び形を作ろうとしている。

 

「再生かよ!?」

 

「面倒だな!」

 

俺は何故か咄嗟に理解した。

聖属性が弱点だ。ゲーム知識ではない。

気持ち悪いが、今はそれどころではない。

 

「明弘!動きを止めろ!」

 

「了解!」

 

明弘が飛び込む。

連続斬撃。

影を押し留める。

 

その隙に俺はまた別の魔法陣を思い浮かべる。

今度は少し大きい。

聖属性範囲攻撃魔法。

 

《ディバイン・レイ》

 

魔法陣が輝き、光が溢れる。

 

「消えろ!」

 

白光が森を包む。

次の瞬間。

影の魔物は断末魔を上げながら霧散し……。

跡形もなく完全に消滅した。

 

静寂が訪れる。

鳥の声もない。

俺たちはしばらくその場に立ち尽くしていた。

 

「倒した……のか?」

 

男が呆然と呟く。

俺も正直自信がない。

ゲームにいない敵だからだ。

だが消えた以上、倒したのだろう。

少女がへたり込む。

 

「た、助かった……の……?」

 

その声でようやく緊張が解けた。

 

「怪我は?」

 

俺は駆け寄る。

男の腕には裂傷があった。

だが深くはない。

 

俺は回復魔法を発動する。

柔らかな光。

傷が塞がっていく。

二人は目を丸くした。

 

「すごい……」

 

「神官様ですか?」

 

「いや、まあ、その」

 

説明に困る。

元プログラマーです、とは言えない。

明弘が横から助け舟を出した。

 

「旅の冒険者だ」

 

「旅の……」

 

二人は顔を見合わせる。

そして慌てて頭を下げた。

 

「助けていただいてありがとうございました!」

 

「俺の名前はルーク!助かったぜ!」

 

男が言う。

続いて女が頭を下げる。

 

「私はミリアです!」

 

どうやら本当に初心者らしい。

年齢は十六、七歳くらいだろうか。

ルークはどこかガキ大将っぽい少年剣士。

ミリアは人懐っこそうな少女で弓を持っている。

 

「なんであんなのと戦ってたんだ?」

 

明弘が尋ねる。

すると二人は困った顔になる。

 

「薬草採取の依頼で森へ来たんです」

 

「そしたら急に現れて……」

 

やはり。

さっき受付で聞いた、最近の異変と関係がありそうだった。

やっぱりテンプレだったなと思ったが、今は追及しない。

そんなことよりまずは仕事だ。

 

結局、その後は四人で薬草を探すことになった。

初心者とはいえ、二人は森に詳しかった。少なくとも俺たちよりはずっと。

おかげで採取は予想以上に順調だった。

 

途中で雑談も増えた。

ルークは冒険者になって半年。

ミリアとは幼馴染。

いつか有名な冒険者になるのが夢らしい。

 

まるでRPGの主人公みたいだと、俺は少し思った。

そして夕方。

依頼分の薬草を十分に集めた俺たちは、揃ってアレドへ戻ることになった。

西日に照らされた街道を歩く。

ルークが笑う。

 

「また会えますよね?」

 

「ギルドに行けばな」

 

明弘が答える。

ミリアも嬉しそうに頷いた。

 

「今度お礼させてください!」

 

「気にしなくていい」

 

そう言ったものの。

俺はなんとなく嬉しく思った。

 

バルドに続いて。

また知り合いが増えた。

 

ゲームには存在しなかった人々。

だが今は確かに存在している。

その事実を感じながら、俺たちは夕暮れのアレドへと帰っていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。