俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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最初はこれくらいの距離感ですよねー


第9話

薬草採取の報酬を受け取った頃には、空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。

冒険者ギルドを出る。

西日に照らされた石畳を歩きながら、俺は手の中の銀貨を見つめた。

 

「思ったより稼げたな」

 

明弘が言う。

 

「ルークたちのおかげでもあるな」

 

薬草採取の成果は予想以上だった。

依頼達成報酬。

採取した余剰分の買い取り。

 

影の魔物については、ギルドに報告はしたものの

依頼になっているわけではないので、報酬は出なかった。

大金ではないが、今の俺たちにとっては十分すぎる収入だった。

 

「とりあえず今日は宿だな」

 

「賛成」

 

さすがに野宿はしたくない。

二人で相談しながら、昨日バルドに教えてもらった東区画の宿へ向かう。

 

石造りの二階建て。

看板には【白鹿亭】と書かれていた。

中へ入ると、恰幅の良い女将が出迎える。

 

「いらっしゃい」

 

「部屋を借りたいんですが」

 

明弘が言う。

女将は帳簿を開いた。

 

「一泊なら銀貨二枚だよ」

 

思ったより安い。

俺がほっとした瞬間だった。

 

「部屋は一つでいいかい?」

 

俺と明弘は同時に固まった。

数秒の沈黙。

女将は不思議そうな顔をしている。

 

当然だ。

外から見れば俺たちは若い男女だ。

なら同室だと思うだろう。

俺たちは顔を見合わせた。

 

「……」

 

「……」

 

気まずい。

妙に気まずい。

 

元の世界なら何の問題もなかった。

大学時代からの親友だ。

徹夜でゲーム制作したこともある。

互いの家に泊まり込んだことも数え切れない。

 

だが今は違う。

俺はフィアナだ。

見た目は完全に女性。

客観的には若い男女なのである。

 

「一部屋でいいです」

 

何か言い淀んでいる明弘を横目に、俺が先に答えた。

女将は頷く。

 

「はいよ」

 

鍵を渡される。

それで終わりだった。

 

二階へ上がって部屋へ入る。

木製の家具に窓、机。

そして。

ベッドが二つ。

 

「二つあるな」

 

明弘が言う。

 

「そうだな」

 

俺も答える。

会話終了。

沈黙。

 

……なぜだ、なぜこんなに気まずい。

俺はベッドへ腰掛ける。

柔らかい。

 

(ファンタジーの宿屋は不潔で硬いってのが定番だが違うな……まあEE世界はゆるいから妥当……なのか?)

 

そんな風に現実逃避しながら明弘を見るとまだ固まってる。

 

「おい、いつまで黙ってる?」

 

「ベッド一つじゃなくて良かったな」

 

「おい明弘」

 

「なんだ」

 

「言うに事欠いてそれか?」

 

俺がジト目で睨んでいると、不意に明弘が吹き出した。

 

「昨日まで普通に男だったのにな」

 

「言うな」

 

「いや、だってな」

 

笑いを堪えながら続ける。

 

「大学の時なんて同じ部屋で何回も寝ただろ」

 

「それは男同士だからだ」

 

「今も中身は同じだろ」

 

明弘は大きくため息を吐いた。

 

「お前は平気なのか」

 

「何が?」

 

「何がじゃない」

 

明弘は俺を指差す。

 

「客観的に見ろ」

 

「まあ、美少女だな」

 

言いながら枕を投げた。

見事に顔面に命中。

 

「いてっ!何するんだ!」

 

「変なことしたら《セイント・アロー》ぶち込むからな」

 

「それレベル50の魔法じゃねえか。使えるのかよ?」

 

「わからん。でも魔法陣は全部覚えてる。お前もそうだろ?」

 

「無理に使うのはやめとけ。魔力じゃなくて体力が削られて死んだらシャレにならんだろ」

 

そんな話をしているといつもの雰囲気になってきた。

 

「まあ慣れるだろ」

 

「そんなもんか」

 

「そんなもんだ」

 

昔からそうだった。

何か問題が起きる、混乱する、でも最後には慣れる。

 

大学の卒業論文も、仕事も、ゲーム制作も。

結局は何とかしてきた。

今回だけ規模がおかしいだけだ。

 

「それに」

 

明弘は窓の外を見る。

夜のアレド。

灯りが少しずつ増えている。

 

「今はそんなこと考えてる余裕ないだろ」

 

「まあな」

 

金もないし情報もない。

元の世界へ帰れるかも分からない。

考えるべきことは山ほどある。

 

「まずは生き残る」

 

明弘が言う。

 

「それから帰る方法を探す」

 

「だな」

 

俺も頷いた。それが最優先だ。

男女がどうとか、そんな話は後回しでいい。

……本当に後回しでいいのかは分からないが。

 

 

俺たちはそれぞれ別のベッドへ入った。

窓の外から聞こえる街の喧騒。

見慣れない天井。異世界の夜。

 

眠ろうとしてふと隣を見る。

別のベッドには明弘がいた。

いつもの親友。

だが今の俺たちは、客観的には勇者と聖女だった。

 

「なあ」

 

暗闇の中で俺は呟く。

 

「ん?」

 

「帰れたらさ」

 

「うん」

 

「完成版、公開したいよな」

 

少しだけ沈黙があった。

そして。

 

「ああ」

 

明弘は笑った。

 

「絶対にな」

 

その声を聞いて、俺は少しだけ安心する。

世界が変わっても。身体が変わっても。

親友が隣にいるのは変わらない。

その事実だけを支えにしながら、俺はゆっくりと目を閉じた。

 

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