機動戦士マジカルチャンネル、配信中   作:余燼

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2話 出会い厨より変な毛玉のほうが信頼できるらしい

 東京タワーダンジョンの一階、エントランスに隣接したマッチングルームは、今日もそれなりに賑わっていた。

 壁際のベンチに三人並んで座っているのは、白を基調としたドレスアーマーをまとったクラリオン、魔法少女風の衣装のマーリン、着崩した制服姿のグレイルだ。

 三人はそれぞれのアバターを纏い、ドリンクバーの飲み物を片手に、今日もマッチング相手を待っていた。

 

 目の前に立っているのは、自称アサルトタンマツらしい重装アバターの男だった。肩幅が広く、黒い鎧に赤い発光ラインが走っている。見た目だけなら、前衛として不足はなさそうに見える。

 だが、話し始めて三分で、マーリンはだいたい察していた。

 

「いや、だからさ。俺、結構強いから前衛イケるよ。あとほら、姫プ感覚で気配りとかも得意だしさ」

「ひめぷ」

 

 グレイルがストローをくわえたまま、平坦な声で復唱した。

 

「そ。女の子三人で潜るの危ないっしょ? 俺が守ってあげるからさ。終わったあと、連絡先とか交換しよ」

「それはチャンネル運営用の連絡先、という意味でしょうか?」

「いやいや、そういう堅いのじゃなくて。普通にさ。リアルで遊んだり」

「あら」

 

 マーリンは、にこりと笑った。

 その笑顔を見て、グレイルがグラスをそっとテーブルに置いた。クラリオンは不安そうに、マーリンと相手の男を見比べている。

 

「つまり、探索目的ではなく、個人的な交流を主目的としてお声がけくださった、という理解でよろしいですわね?」

「いや、探索もするって。俺、強いし」

「なるほど。では念のため、ギルドのマッチング端末で目的区分を変更していただけます?」

「目的区分?」

「はい。そちらの受付端末ですわ。現在は『攻略パーティ募集』で入っていらっしゃいますので、『交流・雑談希望』へ変更してくださいませ。そうすれば、目的に合った方とマッチングできますわ」

 

 男は少し眉をひそめた。

 

「え、そんなのあんの?」

「ありますわ。ギルドは利用目的の不一致を嫌いますもの。ほら、受付の横にある端末で変更できますわよ」

 

 グレイルも、すかさず乗った。

 

「あー、それやった方がいいよ。目的違いで通報入ると、マッチング評価下がるから」

「マジ?」

「マジマジ。評価落ちると、普通の攻略パーティにも弾かれるよ〜」

「え、だる」

「変更したら、こっちに再申請していただければ確認いたしますわ」

 

 マーリンは、柔らかく微笑んだまま言った。

 

「手順は簡単です。いまのマッチングを一度終了して、目的区分を変更。そのあと、改めて申請してくださいませ」

「それでいいの?」

「ええ。正しい目的で、正しい相手を探す。大切なことですわ」

 

 男は納得したのか、立ち上がって端末へ向かった。

 数秒後、三人のタンマツに通知が入る。

 ――候補者がマッチングから退出しました。

 グレイルが無言で親指を立てた。

 

「ッシャオラ!」

 

 マーリンが小さく拳を握った。

 

「完全勝利ですわ」

「……あの、大丈夫なの? 後で戻ってこない?」

 

 クラリオンが心配そうに入口を見る。

 

「だいじょぶじょぶ。攻略で出してるうちにはマッチングできないし〜」

「品位ある危機回避ですわ」

 

 単位のために、ダンジョンを攻略して実績を作らなければならない。

 推奨は四人パーティ。けれど、現状の三人では火力役が薄い上に、配信面を支えるアイドルタンマツもいない。

 

 学内で募集すれば、同じ学校の誰かに正体が知られる可能性が上がる。

 身バレ防止を優先した結果、外部マッチングを使うことになったのだが、これが想像以上に難航していた。

 

「まとめるとさ~」

 

 グレイルがタンマツの履歴を見ながら言った。

 

「前衛が薄くて断ってきたアイドル二件。アイドル無しで断ってきた前衛が二件。無言退出が三件。勘違い勢が今ので六件目」

「は〜お排泄物ですわ」

 

 マーリンが天を仰いだ。

 クラリオンは、手元のタンマツを握りしめたまま、小さく肩を落とした。

 

「ごめんね。私が変なタンマツだから……」

「いやいや。クラっちがいなかったら、あーしらライバーやろうとしてないっしょ」

 

 グレイルはすぐにそう言って、泣きそうになっているクラリオンの方へ身を寄せた。

 マーリンも、クラリオンの頭をそっと撫でる。

 グレイルはマーリンの方を見た。

 

「マーちゃん、あやまりなー」

「……失言でしたわ。今のはクラリオンのことではありません。クラリオンはかわいい。悪いのはマッチング環境ですわ」

 

「あの……やっぱり、学校で募集する?」

 

 クラリオンが不安そうに言った。

 

「フリーマッチングでここまでダメとなると、学校でも難しいかもしれませんわね」

 

 マーリンはクラリオンの頭を撫でたまま、少し考える。

 学校で募集すれば、最低限の身元や実力は分かりやすい。だが、そのぶん自分たちの正体も広まってしまう。全員が、学内で広めたい情報ではなかった。

 グレイルが、もう一度画面をスクロールした。

 

「そしたらさ、来たハズレから選ぶか、三人で行くかにならない?」

 

 どれも微妙だ、という空気が漂った。

 マーリンはぐーっと伸びをした。

 

「まあ、それならまだ三人で行く方がマシな気がしますわ……ね……?」

 

 何気なく、マッチングルームの入口に目をやる。

 毛玉がいた。

 正確には、丸くてもっさりした何かが、ちょこんと入口のところで止まっていた。

 直径一メートルほどの毛玉に、短い手足が生えている。

 毛がもさもさしていて、動作は完全に小動物だ。

 アバターなのは分かるが、それ以上の情報が読み取れない。

 マーリンは目をぱちくりさせた。

 毛玉はマッチングルームを見渡してから、てこてこと三人の方向に歩いてきた。

 

「……もふ」

 

 三人が揃って毛玉を見る。

 毛玉は、首輪についたタンマツの画面を差し出してきた。

 画面には、こう書かれていた。

 

 ネーム:カラード

 タンマツ:アイドル

 能力値:戦闘6 / 反応2 / 技術1 / 魅力6 / 幸運6

 戦闘できます。撮影できます。

 

 しばらく沈黙があった。

 マーリンは画面をのぞき込んだ。

 閲覧数稼ぎに必須とも言えるアイドルタンマツは、配信に関する撮影を行うことに特化している。

 特化しているということは、当然、配信以外はお荷物になるのが普通なのだが……

 戦闘と魅力がどちらも高い。少なくとも、画面上の数字だけなら、三人が探していた穴をきれいに埋めている。

 アイドルで戦闘型。なかなか見ない組み合わせだ。

 毛玉は「モフ!」と短く鳴いて、画面を少し押し付けるように差し出してきた。なんだか必死さを感じる。

「ま~、本当にアイドルで戦闘もできるなら、構成としては成立するよねー?」

 欲しかった二役が、両方揃うことになる。

 ふと、マーリンはさっきから無言のクラリオンを見た。

 クラリオンはずっと、毛玉を見たまま目を輝かせていた。

「あら。リーダーが撃破されてしまっておりますので、決定ですわね」

「この度は、ご応募いただきありがとうございました。慎重に選考を進めさせていただきました結果……」

 マーリンが続けると、毛玉の目が白丸になった。

 全身の毛がしゅんと沈み、手なのか脚なのか分からない短い部分をわたわたと振り始める。

 顔の横に「ガーン!」という文字が出ていてもおかしくない。

 

「採用となりましたわ」

「よろしくお願いします! 一緒に頑張りましょう!」

 

 マーリンが言い終えるのとほとんど同時に、クラリオンが輝くような笑顔でそう言った。

 

「もっ!」

 

 三人の視線を受けて、毛玉はぴんと背筋を伸ばして敬礼した。

 

「結構、面白いかもしれませんわね」

 

 マーリンはにこにこしている。

 

「よろ~」

 

 グレイルが手を振った。

 

「――じゃあ早速ぅ、パーティ登録しよっか♡」

 

 マーリンはいたずらっぽく笑いながら、毛玉を上から覗き込んだ。

 グレイルがタンマツを操作しながら頷く。

 

「招待送るからヨロ〜」

 

 毛玉が画面を確認して、承認ボタンを押した。

 そして、固まった。

 ニヤニヤしているマーリン。

 虚無顔のグレイル。

 困った顔のクラリオン。

 毛玉は、もう一度画面を見た。

 

「機動戦士マジカルチャンネルへようこそ!」

 

 マーリンが言った。

 

「モフ!?」

「あはは」

 

 マーリンは思わず笑った。

 クラリオンが、少し慌てた様子で補足する。

 

「えっと、その……三人で一ワードずつ出して決めたんです」

「……もふ」

 

 まあいいか、という声だった。

 

 ちょうど、壁際の大型モニターが軽快な音と共に切り替わる。

 色とりどりのアバターたちが、ダンジョンへ踏み込んでいくアニメーションが流れ始めた。

 

『これからダンジョンに挑む者は、必ず仲間を信頼し、協力すること! 単独行動は危険です。まずは互いに自己紹介をして、どんな力を持っているかを共有してくださいね!』

 

 明るくて聞きやすい、ガイダンス用の声だった。

 

「一応、私達も軽くやっておきましょうか」

 

 マーリンが頷くと、グレイルが続ける。

 

「んじゃ、クラっちから順番に」

「えっ? わ、わかりました」

 

 クラリオンが小さく咳払いをして、背筋を伸ばした。

 

「――クラリオンです。日本語版テスト中のエンタクタンマツを使っています。戦闘タイプのタンマツで、他の人へのサポートもちょっとだけできます。私自身は両手剣で前に出るタイプです。一緒に頑張りましょうね!」

「モフ!」

 

 クラリオンはかがんで手を差し出し、毛玉の短い手と握手を行った。

 マーリンは膝の上に肘をついて、ずいっと毛玉の方へ顔を近づける。

 急な接近にびっくりしたのか、毛玉は目を丸くし、口を半開きにしたまま硬直していた。

 

「わたくし、ウィザードタンマツを使っております、魔法少女マーリンと申します。ファストヒールもできますので、消耗したときは言ってくださいまし」

「スカウトタンマツのグレイルでーす。攻撃は苦手だけど、情報収集とか罠とか、それっぽいことできまーす。よろ~」

「もふもふっ!」

 首輪の端末を両手で保持しながら強く頷く毛玉に対して、遠くからクラリオンが声をかける。

 

「それでは、みんなで受付に報告に行きましょうか」

「はーい」

「りょー」

「もふ!」

 

 毛玉は遅れないよう、てこてこと小走りで付いてくる。

 マッチングルームを出ると、エントランスのカウンターに明るい笑顔の受付嬢が座っていた。

 

「お、新しいチャンネル登録ですね!」

 

 グレイルがマッチングルームのキーを返しながら、登録完了の旨を告げる。

 

「おめでとうございます! では、初回登録の特典をどうぞ」

 

 受付嬢が手際よく並べたのは、携帯食料とポーションが人数分だった。

 

「行ってらっしゃい! ご安全に!」

 

 受け取りながら、クラリオンがグレイルの方を向いた。

 

「あの……グレイル、私の分、預かってもらえますか」

「りょ~」

 

 グレイルはクラリオンの分をまとめて自分のタブレットに収納した。

 ちょうどそのとき、近くを通りかかったライバーたちの会話が耳に入った。

 

「よし、このまま東京タワーダンジョンに挑んでみようぜ」

「初心者でも浅いところならいけるんだっけか」

「出てくるのもゴブリンくらいだし、いってみようぜ」

 

 賑やかな声が遠ざかっていく。

 東京タワーダンジョン。

 新人ライバーの登竜門として知られる、日本一有名な固定型ダンジョンだ。

 

「では、私たちも予定通り、力試しに行ってみましょうか!」

 

 マーリンの声が、エントランスに弾んだ。

 

「カラードさん、よろしいですか?」

「モフ!」

 

 毛玉が当然とばかりに敬礼を返す。

 

「決まりだね!」

「行きましょうか」

 

 四人は、東京タワーダンジョンの入口へと歩き出した。

 




キャラクター名:クラリオン(アシュフォード 黒江)
年齢:ライバー科2年生 性別:女 出身:春庭市
容姿:金髪のロングヘアでドレスアーマー
タンマツ:エンタク(A)
主能力
戦闘:6 / 反応:3 / 技術:1 / 魅力:5 / 幸運:3
副能力
EP:40/40 ストレージ:8/8 クレジット:0
メインウェポン:両手近接武器(センチュリオ)
アクション:鬼殺し/土竜/鋼砕
アプリ
エンタクアプリ[ケイ],[ガレス],[ガラハッド]
ファッション / アーマー / ツブヤイッター
ツール
携帯食料1個 / ポーション1個
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