機動戦士マジカルチャンネル、配信中   作:余燼

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3話 攻撃は苦手だが、三味線は上手に弾く

 東京タワーダンジョンの入口付近には、初心者ライバー向けの待機ラウンジが設けられていた。

 配信開始前の最終確認、装備の同期、支給品の整理、簡易ブリーフィング。

 そうした準備のためのスペースで、壁際には自販機と充電ポート、中央には半透明の作戦卓が並んでいる。

 窓の外には、現実の東京タワーが見えた。赤と白の鉄塔。

 その足元に、観光地とは少し違う空気をまとったゲートがある。あそこが、東京タワーダンジョンへの入場口だ。

 俺たちは作戦卓のひとつを囲んでいた。グレイルが椅子に逆向きに座って足をぶらぶらさせながら、タブレットを作戦卓へ接続している。

 俺は邪魔にならないように卓の端にちょこんと座っていた。

 女性パーティで視点が低いと色々見えてしまうからな。基本的に高いところにいるべきなのだ。

 

「さっきの人たちが言とおり、浅いとこはゴブリンくらいだからね〜」

「まあ、ゴブリンくらいなら楽勝ですわね」

 

マーリンは手元のタンマツを操作しつつ答える。タンマツから光が溢れ、魔法少女の衣装の裾が、わずかに浮き上がるように揺れている。

 

「敵が多いときは、サクッと落とせる雑魚から片付けよ~。カラにゃん、クラっちを孤立させないようにお願いね?」

 

 グレイルが俺の方を向く。

 

「モフモフ!」

「まかせろ!ですって」

 

 マーリンが言った。実際そのとおりだったので、コクコクと頷く。

 俺はDungeonStreamの配信準備画面を立ち上げつつ、ツブヤイッターを起動する。

 短い手で画面を操作した。数秒後、ツブヤイッターに予告文が投稿される。

 

 『モフモフ。モフフ。東京タワー。モフ。』

 

自信満々にタンマツを掲げ、皆に見せる。

 

「いや、カラにゃんそれじゃ分かんないって!」

「モフ!?」

 

 心外だった。伝わると思ってた。

 マーリンが画面を覗き込む。

 

「んー……東京タワーダンジョンに挑みます、応援よろしくお願いします?」

「モフモフ!」

 

 猛烈に頷いておく。

 

「マーちゃん、どうやってんの……?」

「うーん。なんとなく?ですわね」

 

 クラリオンは少し考えたあと、予告文の下にそっとリプライを入れた。

 『新人チャンネル「機動戦士マジカルチャンネル」初配信。東京タワーダンジョン浅層に挑戦予定。応援よろしくお願いします』

「モフフ」

 

 すばらしい。

 通知を見た閲覧者が、少数興味本位で待機リストに入ってくる。

 

 『なにこれ』

 『1ゲット』

 

「あれあれ、おにいちゃんどうしたんでちゅか~? 2なのに1ゲット?♪」

「マーちゃん、初手でリスナー煽らないでよ」

「あら?これが作法と聞きましたけど?」

 

 クラリオンが画面に向き直る。

 

「え、えっと……新人チャンネルです。よろしくお願いします!」

 

 金髪碧眼の騎士姫アバターが、画面上で正面を向く。白銀の鎧、巨大な儀礼剣、円卓を思わせる紋章。見栄えだけなら、新人とは思えないほど整っていた。

 クラリオンは小さく息を吸って、録画を開始した。

 

「機動戦士マジカルチャンネル、クラリオンです。本日は東京タワーダンジョン浅層に、初配信として挑みます。未熟な身ではありますが、仲間と共に、必ず無事に帰還します」

 

 そこで一度、言葉が止まった。騎士姫の顔が、ほんの少しだけ揺れた気がした。

 マーリンが横で小さく親指を立てた。グレイルが黙って頷いた。俺も、もふっと両手を振った。

 クラリオンは、もう一度前を向いた。

 

「どうか、見届けてください」

 

 録画が終わる。数秒後、予告が公開された。

 

 『新人か、がんばれ』

 『わ。エンタクだ』

 

「ありがとうございます!」

 

 クラリオンが画面に向かって頭を下げる。

 

「は、はい。日本語版テスト中のエンタクタンマツです。よろしくお願いします」

「クラリオン。とっても素敵でしたわ」

「本当に?」

「本当に。今回に限っては十割褒めていますわ」

「それなら……よかった」

「いや。よくないっしょ、それ……」

 

 半眼のグレイルが、ぼそりとツッコんでいた。

 準備画面の隅に、チャンネル状態が表示されている。

 新人チャンネルとしては、悪くない滑り出しだ。

 各自が装備、タンマツ、アプリを最終確認する。

 クラリオンが立ち上がって、俺たちを見た。

「それじゃあ、行きましょう」

「モフモフ!」

「初配信、当たって砕きますわ!」

「がんばりまっしょい!」

 

 俺は卓から飛び降りて、新人たちの登竜門へと向かう。

 

 

 扉を抜けた瞬間、空気が変わった。

 石造りの通路。足元には細かな砂が積もり、壁面には見たことのない文字が刻まれている。天井は高く、その一部に大きな穴が開いていた。

 穴の向こうに、夜空が見えた。

 空の色が、赤い。まったく別の世界なのかもしれない。

 クラリオンが立ち止まり、そっと天を仰いだ。

 その一瞬、配信画面の中心がクラリオンに吸い寄せられたように見えた。

 

「……すごい」

 

 クラリオンは星々を見上げたまま呟く。

 白銀の鎧が赤い光を受けて、静かに輝く。古代遺跡の石壁。不気味な赤空。巨大な儀礼剣を携え、まるでファンタジー映画のワンシーンのようだった。

 マーリンは顎に手を当て、赤い空を見上げていた。

 

「見かけ上は、七十二年で一度くらいでしたっけ?」

「え?」

「星の位置ですわ。地軸の向きも変化しますし。案外、建設当時の空模様を再現している可能性もありますわね」

 

 なんか賢いキャラみたいだ! 

 俺は理解を諦めて、その場で跳ねた。

 赤い空の下で、毛玉がぽよんと跳ねる。絵になるかどうかは分からないが、少なくともやらないよりはいいはずだ。たぶん。

 グレイルは周囲を素早く見回しながら、タブレットに何かを書き留めていた。カメラよりも地形の確認が先らしい。それはそれで正しい気がする。

 画面の端で、通知が積み重なっていく。

 

『なんだここ』

『赤い空こわ』

『騎士姫めっちゃ絵になってる』

『毛玉ジャンプ力めっちゃ高くて草』

『魔法少女、急にIQ上がるじゃん』

「おお。反応来てますわ」

 

 マーリンが画面の端を確認して、嬉しそうに言った。

 

「よかった……」

 

 クラリオンが赤い空を背に、ほっとしたように呟く。

 俺も画面の表示をちらりと確認した。

 思ってた10倍くらい居たので、やっぱり見なかったことにした。

 

「そろそろ来るんじゃない?」

 

 グレイルが通路の奥を見た。

 扉の向こうから、足音が近づいてきた。

 石造りの通路を踏む音が重なり合い、薄暗い奥から、緑がかった肌の人型が走ってくる。小柄な体。刃こぼれしたダガー。ぎょろりと光る目。

 その後ろに、白い影が見える。

 兎だった。ただし、額からまっすぐ白い角が伸びている。

 ゴブリンと、アルミラージ。

 

『来た!』

『兎かわいい』

『ゴブリン思ったより怖いな』

『アルミラージいるじゃん』

『初戦っぽい敵だ』

 

 先頭のゴブリンが走る勢いを乗せ、グレイルに飛びかかってくる。

 

「流石にそれば見え見えっしょ!」

 

 グレイルは一歩下がる勢いで大太刀を抜き上げ、

 

「攻撃は苦手だけど、このくらいはねっと」

 

 カウンターの一閃がゴブリンを両断する。

 そのままゴブリンの体は、煌めく雪のように光の粒となって崩れた。

 思わず声が出そうになって、俺は口を閉じた。

 攻撃は苦手???

 今、普通にすごい剣技を見た気がするぞ。

 

『ギャルつよ』

『攻撃苦手とは』

『苦手の基準どうなってんだ』

『活殺逸刀流?』

『無外流っぽい気もする』

 

「下がりま!」

 

 グレイルは斬り捨てた勢いのまま、後ろへ跳んだ。

 その動きに、石床を蹴った白い兎が、残像を引くような速さで突っ込んでくる。

 アルミラージだ。

 

「やっば」

 

 グレイルがタブレットを弾くように操作した。

 アルミラージの進路上に重なるように、透明な泡のような膜が出来上がる。

 

「クラっち、右!」

「はいっ!」

 

 グレイルが身をひねる。

 クラリオンも、言われた通りに半歩だけ位置を変えた。

 白い角が、二人の間を抜ける。

 さっきまでグレイルの胴体があった場所を、アルミラージが風だけ残して突き抜けていった。

 

『あぶな』

『今の支援うま』

『ギャルが細やかな支援してるの好き』

『クラリオン反応したの偉い』

 

 アルミラージが着地する。

 後詰めのゴブリン二体が迫ってくる。

 あ。これ分断とか挟撃じゃないか!?

 こいつら野生っぽいのに意外と頭いいぞ!?

 と、その瞬間、後ろからマーリンの声が聞こえた。

 

「では、わたくしもいきますわ」

 

 俺は首輪のタンマツから【シャッターチャンス】を起動した。

 魔導カメラが虚空に三台展開される。

 一台はマーリンを正面から。もう一台は赤い空を背景に。最後の一台は、敵の並びとクラリオンの背中が入る位置へ。

 最高のアングルを探す。

 初配信で、これを逃したらたぶん駄目だ。

 魔法少女が、腰を落とす。

両手を脇に引き、掌の間に青白い光を溜める。

 ??これは魔法少女の構えではない気がするぞ?

 マーリンの両手の間で、光が膨れた。

 

「波ァッ!」

 

 背後から迸ったエネルギーが、俺の顔の横をすり抜けた。

 遅れて、風と衝撃が来る。

 青白いエネルギー波が、一直線に戦場を走った。

 アルミラージに直撃し、そのまま左右へ広がる。光の尾が残ったゴブリンたちをまとめて飲み込んだ。

 ゴブリン二体が、悲鳴を上げる間もなく粒子になって消える。

 白い獣は光に押し流され、壁に叩きつけられた。

 

『魔法少女なのに気弾』

『気弾というかゲロビ』

『滅茶苦茶聞き覚えのあるSE』

『バトル漫画』

『ウィザードじゃなかったっけ』

『魔法少女とは?』

 

 俺はちらりと後ろを振り向いた。

 マーリンは構えを解き、澄ました顔で髪を払っていた。

「やりすぎちゃったかな、てへ!」

 

『魔法とは』

『でもかわいいからヨシッ!』

 まだ、残っている。

 壁際で、アルミラージがふらつきながら立ち上がった。

 白い毛並みは光を受けて乱れ、額の角だけがまだ鋭くこちらを向いている。

『つぶらな瞳』

『かわいい』

『でも敵なんだよなー』

 

 コメントの流れが変わった。

 かわいい、という反応が増えている。

 

 ダンジョンの中の戦闘は命がけではあるが、同時に配信でもある。

視聴者にどう見えるかを考えなければならない。

 殺した、ではなく。

 倒した、にしないといけない。

 

 俺も自分の仕事をしなければ。

 展開していたカメラを、アルミラージの正面から少し外し、首輪のタンマツに意識を叩き込む。

 

 背後が爆ぜた。

 衝撃が背中を蹴り飛ばす。

 前へ。

 右へ。

 左へ。

 さらに前へ。

 短い加速を連続で叩き込み、毛玉の体を無理やり戦場へ滑り込ませる。

 丸い影が、赤い空の下をジグザグに走った。

 起き上がったばかりのアルミラージの目は追いついていない。

 

 左手側に、パルスブレードを展開する。

 毛玉の短い手には明らかに大きすぎる光刃が、赤い空の下で唸った。

 すれ違いざまに、一閃。

 

 そこで、カメラの表示を切り替える。

 映るのは、アルミラージの背後を抜けた毛玉と、白い獣が光の粒になってほどけていく瞬間だけ。

 戦場が、静かになった。

 

 一拍遅れて、通知が弾けた。

 

『アーマード毛玉で草』

『親の声より聞いたSE』

『いやいや、あの動きのGは絶対ヤバいだろ』

『クリップした』

『これは期待』

『かわいい対決、毛玉の勝ち』

『ちゃんと倒した感で処理したの偉い』

『兎かわいかったけど毛玉もかわいいから許した』

 

 よし。上手く行ったみたいだ。

 

「やっぱり初戦はざぁ~こだったね~♪ 楽勝楽勝♪」

 

 マーリンの声が、飄々と聞こえた。

 

『助かる~』

『今のざぁ~こ♡すき』

『お嬢様風なのにミームだらけなのすこ』

 

「……終わった、んですよね?」

 

 クラリオンは、ほっとした顔で息を吐いた。

 それから、少しだけ自分の剣を見た。

 

「クラっち、ナイス前衛だったよ~」

 

 グレイルが笑って手を振る。

 

「いえ、私は……」

「前衛というのは立っているだけでも偉いのですわよ」

 

 マーリンがそう言って、クラリオンの肩を軽く叩いた。

 クラリオンは一度だけ瞬きをして、それから小さく頷いた。

 

「グレイル、回復しますわ」

 

 マーリンが話題を変えるように手をかざした。

 淡い光がグレイルの体を包む。さっきの突進を避けたときに無理をしたのか、グレイルは肩を回してから、少しだけ表情を緩めた。

 

「助かる~。マーちゃん、さすが」

「当然ですわ」

 

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~』

 

 赤い空の下で、粒子が散っていく。

 初配信。

 初戦闘。

 初勝利。

 俺は首輪のタンマツに流れるコメントを見て、もう一度だけ跳ねた。

 

「モフ!」

 




キャラクター名:マーリン(真島 凛)
年齢:ライバー科2年生 性別:女 出身:都内
容姿:黒髪・小柄・魔法少女
タンマツ:ウィザード(B)
主能力
戦闘:3 / 反応:3 / 技術:6 / 魅力:3 / 幸運:3
副能力
EP:44/44 ストレージ:7/18 クレジット:0
メインウェポン:格闘武器(素手)
アクション:気弾 / ムーンサルト / 鎧通し
アプリ
ファッション / アーマー / ヒール / ファストヒール / 拡大 / 儀式魔法 / ツブヤイッター
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