機動戦士マジカルチャンネル、配信中   作:余燼

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4話 高級中華の餃子は、町中華の満腹より高くつく

 岩肌に背を預けて座ると、さっきまでの戦闘の熱が、ゆっくり引いていくのが分かった。

 崩れた岩柱の残骸は、まだ細く煙を上げている。天井の穴から見える星空は、まだ赤い。三人の顔も、その光をぼんやり受けて、いつもと違う色に染まっている。

 

『休憩タイム』

『初戦お疲れ』

『この空ずっと見てると変な気分になる』

『なんか落ち着くBGM流したい』

 

「とりあえず、ちょっと休もっか」

 

 グレイルがそう言って、携帯食料の包みをみんなに配る。

 

「はい、どーぞ。カラにゃんも」

「モフ!」

 

 受け取った包みを、短い手でなんとか開ける。ハチミツ味だ!これが一番美味しいんだよな。

 

「モフモフ!」

「意外といけますわね。これ」

「開発はあの製薬会社だからね〜」

 

 グレイルが頷きながら言う。

 俺は黙って携帯食料を齧る。こういうのは少量ずつ食べるとお腹が膨れるんだよな。

 

『毛玉が食べてる』

『食い方が完全に小動物』

『本当に人間なのかこれ?』

 

 俺は短く鳴いて応える。

 グレイルは大太刀を一度抜き、刀身を確かめてからすっと鞘へ収めた。何気ない動作だったが、やけに綺麗な軌道だった気がする。

 そのまま、グレイルは画面を睨んだまま、たまに眉を上げたり、隣に座るマーリンと相談したり、何か書き込んだりしていた。

 

『真剣な顔のギャル』

『見た目とセリフとのギャップすごい』

 

 話しながらマーリンも、小さく頷きながらタンマツに手を当てていた。淡い光が魔法少女の身体を包んでいく。

 

『ヒール忘れないの偉い』

『マジでよく忘れるわ』

 

 俺はそれを横目に見ながら半分だけ食べたカロリーバーをタンマツに一旦しまい、部屋の中を歩き回った。

 せめて何か絵になることをしようと、崩れた岩柱に登ろうとして、案の定ずるりと滑り落ちた。

 

『お、登った』

『落ちた』

『地上ではたぬき族』

 

 おや?足の下で何かが変な感触があったぞ。

 砂をかき分けると、結晶質の何かが埋まっている。

 

「モフ!」

 

 拾い上げて、皆に見せに行く。

 

「お、お土産持ってきてくれたの?」

 

 グレイルが画面を覗き込んで言った。

 

「中級のダンジョン資源ですね」

 

 クラリオンも近寄って確認する。

 

「これは普通に嬉しいやつだ。ナイス、カラにゃん」

 

 誇らしい気持ちで、もふっと頷いておく。

 借金を考えると、こういう実利は本当に助かる。

 

『毛玉が地味に仕事してる』

『ペット感』

『放置ゲーで素材集めてくれるアレ』

 

 仕事をした満足感もあり、俺は壁際に戻って丸くなった。

 さっきの戦闘の疲れもある。少しだけ目を閉じよう……心地よい気がする。

 

『寝た』

『飯食って遊んで寝る』

『これもう野生動物だろ』

 

 少しだけ眠っていたらしい。目を開けると、クラリオンが何か困った様子でタンマツを見ていた。

 画面には、コメントが並んでいた。

 

『クラリオンちゃんは何ができるの?』

『必殺技ないの?』

 

 どうやら、先程の戦闘でのクラリオンは、配信の絵としては地味だったという評価だったようだ。前に立っているだけで仕事しているんだがなあ……

 クラリオンは少し考えてから、姿勢を正した。

 

「えっと……では、ちょっとだけ?」

 

 クラリオンは大型の儀礼剣を抜き、両手でゆっくりと構え直した。

 半歩、足を引く。剣身を身体の正面に立て、重心を低く落とす。隙のない、まっすぐな構えだった。

 

『お、構えた』

『姿勢きれい』

 

 そこから一拍。

 剣を大きく後方へ流し、腰を落としたまま半身になる。溜めた力を、横へ。

 空気を裂くような音を立てて、剣が一閃する。

 

『うおっ』

『今の音やばくない?』

『SE仕込んでるの?』

『ガチの音だろこれ』

 

 最後に、剣を高く掲げた。

 両手で柄を握り直し、刃を頭上へ。

 振り下ろす寸前――そこで、ぴたりと止める。

 

『止めた』

『綺麗に止まるじゃん』

『なんか様になってる』

 

 クラリオンは最後に剣を鞘へ収め、ぺこりと頭を下げた。

 

「……このような感じです。お役に立てましたでしょうか」

 少し息を整えてから、ぽつりと付け足す。

 

「本当は、もっと格好良く見せたかったんですけど」

『最高でした』

『次は実戦で見たい』

『良く見たら目茶苦茶アバター凝ってるな』

『量産タイプなのに凝ってる』

『どういう事?』

『高級中華で出てくる餃子みたいな』

『草』

 

「あら。意外と見ておられる方々が増えていますわね、これ」

 

 マーリンが画面を見て言った。

 

「だね〜ちょっとビックリ」

 

 グレイルも頷く。

 

「餃子……」

 

 クラリオンは、ショックだったのか呆然と呟いている。

 グレイルが奥の扉を指さす。

 

「んじゃ、次行こっか。休みすぎると冷えるし」

「そうですわね。勢いがあるうちに進みましょう」

「モフ!」

 

 俺が短く鳴くと、クラリオンも遅れて顔を上げた。

 

「……はい。行きましょう」

 

 四人で扉の前に立つ。クラリオンが儀礼剣を片手に持ち替え、空いた手で重い扉を押した。

 石畳の通路の代わりに俺たちの足が踏んだのは、柔らかい土と、湿った下草だった。

 

 空気の匂いが切り替わる。乾いた石の埃が消えて、青い草と濡れた木の匂いが、ふわりと届いた。

 顔を上げる。

 頭上には、鬱蒼と茂る木々の天蓋があった。その葉と葉のすきまから、幾筋もの光が斜めに差し込んでいる。森の床に、まっすぐな光の柱が何本も立っていた。狙って配置したみたいに整然と並んだそれは、まるで舞台のスポットライトだ。

 古代遺跡の赤い空とは、何もかもが違う。

 ここは、幻想的な森だった。

 

『え、さっきと全然違う場所じゃん』

『森きれい』

『この光どうなってんの』

『ダンジョンって毎回こんな変わるんだ』

『浅層で屋外エリアは珍しい』

 

 光の柱に踏み込んだ瞬間、配信の手応えが、ぐっと重くなったのが分かった。

 きれいな絵には、人が集まる。それはこのダンジョンに入ってから、嫌というほど学んだことだ。

 ならば、活かさない手はない。

 俺はいちばん太い光の柱の真下まで歩いていって、そこで体の角度をゆっくり変えた。差し込む光が毛先を縁取って、毛玉の輪郭が金色に光る。狙いどおりだ。

 

『毛玉が光ってる』

『カレンダーの表紙みたいになってる』

『森の妖精かな?』

『チャーハン?』

 

「モフ」

 

 手応えありだ。

 クラリオンは、光の柱のひとつを見上げたまま、足を止めていた。

 木漏れ日が白銀の鎧に落ちて、歩くたびに鎧の表面で光の色が静かに移ろう。

 儀礼剣の柄、肩口の飾り、スカート状に広がる鎧の縁。

 細かい装飾に光が入り、白い騎士姫が森そのものに迎えられているみたいに見えた。

 

「……綺麗ですね。本当に」

 

『餃子姫、素で見惚れてて草』

『衣装拡大したら意匠目茶苦茶細かい(激ウマギャグ)』

『餃子だけに』

『ほんとだ、刺繍とかある』

 

「あの、餃子姫は忘れていただけると……」

 

 クラリオンが困ったように画面を見る。

 マーリンが、すっと隣に並んだ。

 魔法少女衣装のフリルが光を受け、袖口のリボンが淡く揺れる。

 

「あら。よろしいではありませんか。森の餃子姫」

「悪化していませんか?」

「いえ。幻想的な森で出される高級点心ですわ」

「もーっ!」

 

『ふくれっ面もかわいい』

『高級点心草』

『この二人仲いい感あってよき』

 

 クラリオンが小さく肩を落とす。

 けれど、困ってはいるが、完全に嫌がっているわけでもなさそうだ。

 マーリンは片手を掲げ、光の柱の中でくるりと半回転した。

 

「……太陽……素晴らしい力ですわ」

 

『大魔王じゃん』

『地上を吹き飛ばす気だ』

『魔法少女のセリフじゃねえwww』

 

 そんなやり取りの間も、グレイルはタブレットを片手に、視線はずっと地面や周囲に向いていた。

 さっきの休憩中もそうだったけど、グレイルは見ている場所が違うな。

 

「グレイル?」

 

 クラリオンが呼びかける。

 グレイルはすぐには答えなかった。数歩だけ前へ出る。靴先で落ち葉を少し払い、地面を見下ろす。

 

「……ねえ。そこの地面、ちょっと変じゃない?」

 

 俺も前方の土を見る。

 数歩先の地面が、わずかに盛り上がっていた。まるで呼吸をするみたいに、ゆっくりと上下を繰り返している。よく見れば、その盛り上がりの頂から、緑の葉が数枚、不自然に突き出していた。

 

 何かいる。

 土の中で、わずかに何かが動いた。乾いた土がぱらぱらと崩れ落ち、その下から、手足のように見える細い根が覗く。

 

『うわ、マンドラゴラだ』

『さすが索敵担当』

『森でマンドラはクソ面倒』

『草生えてる』

 

 俺も、クラリオンも、マーリンも、視線をそちらへ向けた。

 マンドラゴラは、土の中でじっとしている。飛び出してくるのか、叫ぶのか、それとも別の動きをするのか——

 鋭く尾を引く、射出音。

 

「クラっち!」

 

 グレイルの声とクラリオンの反応は、ほとんど同時だった。

 クラリオンが反射的に儀礼剣を引き起こし、刃の腹を盾のように構える。

 白い鎧の前面に、円卓の紋章が淡く浮かんだ。光が盾の形に重なり、剣の腹を支えるように展開される。

 矢がその正面へ突き立ち火花を上げる。

 クラリオンの足が土を削り、身体が後ろへ押される。

 外れた矢羽根の破片が、鎧の継ぎ目を浅く撫でた。

 

「……っ、平気、です」

 

 クラリオンが短く息を整え、射出元へ身体を向ける。

 木の根元に、何かがあった。

 トラバサミのような鋸状の口。その奥に組み込まれた、小型の弩。

 人間の恐怖や警戒心が具現化した意志なき殺意——罠タイプのモンスターだ。

 開いた鉄の顎は明らかにこちらを向いていて、内側の機構がぎちぎちと動いて次の矢を装填し始めていた。

 

『今のよく反応したな!』

『ちょっと掠ったな』

『マンドラは地面から出たら死ぬから隠れてんのかwww』

『トラッパーだ』

『罠モンスは無差別だからなw』

『出られないマンドラゴラかわいい』

 

 横からの矢に気を取られていたところへ、足元の土が爆ぜた。

 まるで、水しぶきのように土塊が噴き上がり、その中から、何かが飛び出してくる。

 落書きみたいな二足歩行の魚に、三叉の槍。

 サハギンだ!

 第一世代の探索者が残したスケッチがバズってしまい、今でもサハギンの外見はだいたいあの絵心がアレなスケッチに引っ張られるのだ――

 

「もふふっ」

 

 直視すると、不覚にも笑ってしまう。卑怯なやつだ。

 

『出たwww』

『wwwwwwwww』

『雑な見た目だけど結構ガチ』

『水じゃなくて土から出るの納得いかん』

『潜行スキル』

『認知固定の被害者』

『全モンスターで一番可哀想なやつ』

『直視すると笑えてくるので、スペックより強く感じる』

 

 サハギンが、槍を構える。

 マンドラゴラが地面から這い出してくる。

 そして、森のいちばん奥。

 木々の影が幾重にも重なった、光の届かない一点で、白いものがゆらりと揺れた。

 ぼろ布をまとった、人の形をした何か。

 足元は、地面に触れていない。漂うように、ゆっくりとこちらへ向き直る。

 空洞みたいな顔の奥で、青白い光が二つ、こちらを見た。

 レイスだ。

 

『うわ、出た』

『新人にはあたりが強い構成』

『レイスがいたのか』

『おい。ホラーやめろ』

『レイスは低レベでは珍しく策を使ってくるやつ』

『策を乗り切ったから後はガチンコか』

 

 グレイルが、タブレットから顔を上げ、レイスを睨みつける。

 

「やってくれるじゃん」

 

 先制を許したが、次はこちらの反撃である。




キャラクター名:グレイル(霧隠 千景)
年齢:26歳 性別:女 出身:都内
容姿:ギャル系メイドライバー
タンマツ:スカウト(A)
主能力
戦闘:1 / 反応:6 / 技術:6 / 魅力:1 / 幸運:4
副能力
EP:42/42 ストレージ:8/20 クレジット:0
メインウェポン:両手近接武器(大太刀)
アクション:雪月花 / ドレイン / ゾンビ砕き
アプリ
ファッション / アーマー / ヒール / シールド / 遠隔解除 / 撹乱 / 妨害 / ツブヤイッター
ツール
携帯食料1個 / ポーション1個
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