ウルトラクロスロード ~銀河に輝く星々の宿命~ 作:通りすがりの大学生
(=◎ω◎=)<今回からいよいよ、あらすじの「核心部分」に差し掛かります。
(=◎ω◎=)<ざっくり何が起きたのかはあらすじに書いた通りですが
(=◎ω◎=)<詳細な内容は本編をどうぞ!
(=◎ω◎=)<ゆっくりして行ってね!
保管庫のメインエリアは、成人男性が同時に数十人歩き回ってもなお有り余るスペースがある、正八角柱の形状をした広大な空間だった。
天井までの高さは数百メートルにも及び、八面の分厚い特殊合金で出来た隔壁が聳え立っている。その一面一面に、極厚の強化アクリル板を用いた電磁ロックケースが等間隔で無数に配置されており、その内部には千五百種類を超える夥しい数のSDが、隅々まで磨き上げられた傷一つない状態で一体ずつ丁寧に収められていた。
必要なSDを外部へと持ち出す際には、部屋の中央に鎮座する巨大なコントロールパネルを操作する事で、該当するケースを床面と同じ高さまでスライド移動させ、網膜認証によるロック解除を経て取り出すと言う、厳重極まる仕組みである。
――しかし、一歩足を踏み入れた頌栄達の視界に飛び込んで来たのは、その完璧だったはずの秩序が無残にも崩壊している現場だった。
理路整然と美しく並び、十重二十重に積み上げられた最新鋭のセキュリティシステム群によって安全が保障されているはずの聖域。その中の特定の区画――実に数十基にも上る数のケースが無残にも開放され、エラーを示す禍々しい赤色のインジケーターを虚しく明滅させていた。
そして、そこに本来在るべきはずの人形達の姿は、どこにも無い。
「なんだ……これは………!?」
突如として眼前に突き付けられた異常事態を前に、激戦を潜り抜けて来た歴戦の英雄たる頌栄ですら、視界を奪われたように茫然と呟く事しか出来ない。
そのすぐ隣では、章大が「おい、嘘だろ……!? SDが無くなってるぞ!?」と驚愕に声を震わせ、瑠偉もまた、無言のまま不自然に開け放たれたケースの群れを見つめ、喉を鳴らして息を吞んだ。
『え、あ、あれ……? なんで……? どうして、こんな……ボクの防犯システムには、特にエラーログなんて残って……まさか、バックドアから侵入されて改ざんされた……? クラッキング、されたの……!? 嘘……嘘嘘嘘!? この、ボクが……世界最高のハッカーたるボクが組み上げたソースコードが、誰にも気付かれずに破られたって事!?』
小脇に抱えたタブレット端末のフロントカメラを通じて、リアルタイムでその惨状を目にしているのだろう。スピーカーの向こうから、天才ハッカーのアイデンティティを根底から揺さぶられたような、凄まじく取り乱した声が響いてくる。
彼と友誼を結んでから二十年余り。どんな極限の状況下であっても常に飄々としており、不敵な軽口を崩さなかった猫原太郎という男が、今、初めて明確なパニックに陥り、呼吸を荒くしていた。
太郎の放つ壊れかけた絶叫を耳にした瞬間、驚愕でフリーズしかけていた頌栄の明晰な頭脳が、強制的に現実へ引き戻されて再び猛烈に駆動を始める。
敵の侵入を許した。それは覆しようの無い事実だ。ならば、ここで狼狽えている時間は一秒たりとも存在しない。現状の正確な把握と、侵入者の足跡を辿る為の初動が最優先だ。
頌栄はタブレットを正面に掲げ、低く、有無を言わさない圧倒的な威厳が籠った声を張り上げる。
「太郎! 太郎! 聞こえるか、太郎!!」
『あ……しょ、しょーえー、さん……? ボクの、ボクの作ったセキュリティが……!』
「お前がパニックを起こす気持ちはよく分かる! 魂を込めて作り上げた最高の防犯システムが破られたんだ、技術者として信じたくないと思って当然だろう! だが、今は嘆いてる暇は無い! すぐにここのシステムを全部調べて、犯人の足跡を洗い出せ! どんなに上手く隠していても、システムを騙す為に不正アクセスしたんなら必ずどこかに痕跡や違和感が残っているはずだ! それを全力で探し出してくれ! これはお前にしか出来ない! 世界でただ一人、オレが最も信頼する世界最強の天才ハッカー、猫原太郎にしか出来ない事なんだ!!」
魂を揺さぶるような、烈々とした叱咤激励。
それを聞いて、スピーカーから聞こえていた太郎の荒い呼吸がピタリと止んだ。一瞬の静寂のあと、激しい闘志を取り戻したハイトーンがヘッドセットのノイズを切り裂いて響く。
『――っ! 分かりました! 今すぐ全サーバーの中を引っ繰り返して、生意気な泥棒野郎の足跡を一つ残らず発掘して来ます! 「連合軍」のチーフ・オペレーター、インターネット・ソリューション部門最高統括責任者の名に懸けて、どんなに小さな足跡だろうとすべて見つけ出してみせますよッ!』
「頼んだ!」
直後、スピーカーの奥でガガガガガガガガガッ! と、爆音じみた超高速のタイピング音が鳴り響き始める。頼もしそうな表情でそれを聞き届けた頌栄は、続いて両脇で未だ茫然自失としていた双子の息子達に向き直り、矢継ぎ早に鋭い指示を飛ばした。
「章大! 瑠偉! 詳しい状況は不明だが、無くなったSDはすべて、何者かによって盗まれた可能性が極めて高い! まずは状況を正確に把握するぞ! 章大、お前はすぐ隣にある変身デバイス専用エリアへ行って、現場の様子を確認して来い! SDは
「りょ、了解だぜ、親父! すぐに見て来る!」
「瑠偉はこのタブレットをコントロールパネルに繋げて、不正に開放されたケースのIDを照合! 消えたSDが何のウルトラ怪獣のものだったかを全部調べ上げろ! オレがこれまで産み出して来たSDの中には、使い方次第で地球どころか宇宙の均衡すらも壊しかねない危険な代物が多数含まれている! すぐに対策を練るためにも、まずは消えたSDの詳細な情報が必要だ! 太郎の解析作業を邪魔しない範囲で、あいつと共同で頼む!」
「分かった! すぐにリストアップするよ!」
父親の的確な采配を受けて、章大が弾かれたように肉体を駆動させる。百八十四センチの立派な体躯を翻し、メインエリアの奥にある別の防爆扉の向こうへと風のように消えて行った。
一方の瑠偉は、妖精から正確な放物線を描いて投げ渡されたタブレット端末を軽やかにキャッチし、中央のコントロールパネルのインターフェースからコードを伸ばして端末と接続。眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、猛烈な速度でバーチャルキーボードに指を走らせ始めた。
息子達と相棒にすべての初動指示を出し終えた頌栄は、彼らの邪魔にならないよう静かに部屋の片隅へと移動し、ズボンのポケットから自身のスマートフォンを取り出した。
このアイテム保管庫に使われている特殊合金製の建材は、あらゆる電波を完全に遮断する高度な絶縁性能を持っている。通常の電話や衛星通信はおろか、軍用の暗号通信すらもこの中では一ミリたりとも機能しない。
だが、唯一の例外があった。それは、太郎がこの保管庫を守る防犯システムを外から保守・メンテナンスする為に、独自に暗号化設定した固有の周波数だ。このか細い電波の糸だけが、外部とこの地下聖域を繋ぐただ一つの道である。
頌栄が持ち込んだタブレット端末と太郎の「趣味部屋」の間で送受信されている電波も、彼らが保管庫へ転送される直前に太郎が件の専用特殊電波へと切り替えており、今も通信を継続していられるのはそのためだ。
(………仮に何者かが不正にアクセスしてここの防犯システムを無効化したとするなら、その糸口は間違いなくそこしか無いな)
犯人がどうやって太郎しか知らない周波数を特定し、尚且つ天才ハッカーたる太郎にすら検知されずに侵入を果たしたのか、その詳細は現時点では皆目見当も付かない。
しかし、太郎が隅々まで張り巡らせた防犯システムに網目を作ってすり抜け、登録者以外が持ち出そうとすると自壊するはずのSDを完璧な形で盗み去ったとするならば、その犯行の最初の入り口として考えられるのは、この保管庫に存在する唯一の「穴」を逆手に取った以外に無い。
とにかく今は、任された仕事を全力でこなしてくれている三人の結果報告を待つのみだ。奥歯が軋むほどの焦燥感をその精悍な顔の裏へと押し隠し、頌栄はスマートフォンをそっと元の場所に戻したのだった。
「……ッ、ここにも多重プロテクトが掛けられてる! 太郎さん、遠隔で解除出来ないかな!?」
『ご安心を! 三秒だけ鼻唄でも歌っててください、速攻で…………っと、はい開きました! 突入!』
「ありがとう! これで先に進めるよ! にしてもこの犯人、とんでもないな………どこもかしこも見た事の無い妨害用の電子トラップばっかりだ! 太郎さん以上の腕を持ったハッカーなんて、僕はこれまでの人生で見た事も会った事も無い!」
『確かにボクは世界トップクラスのハッカーですけど、それはあくまでも「地球人類という井戸の中では」の話ですからねぇ……! 大宇宙の彼方には、ボクなんて足元にも及ばない規格外の「化け物」がいるって事、すっかり忘れてましたよ! あとでシステムコードを根っこから全部見直して、文字通り焼き払ってでも書き直さなきゃ……!』
互いの技術への信頼と、どこか未知の強敵に対する知的好奇心を滲ませながらキーボードの上で指を躍らせる瑠偉と太郎。その動きに淀みは無く、焦燥感を覚えつつも冷静さは失っていない様子だ。そんな二人の頼もしい背中を見て、知らず知らずの内に険しくなっていた頌栄の表情にもわずかに笑みが戻る。
そして、調査を開始してからわずか五分後。
「アンタの睨んだ通りだったぜ、親父! 緊急用に用意してあった予備のギンガスパークもごっそり無くなってる!」
変身用デバイスを厳重に保管している区画から戻って来た章大が、その大きな体躯を揺らし、息を切らせながらそう声を荒げた。
それを聞いて、頌栄の精悍な顔に苦虫を噛み潰したような深い渋面が刻まれる。
「やっぱりか……! 無くなった数は分かるか!?」
「目算だが、大体三十ってところだ! 棚一段につきギンガスパークを十個並べてただろ? それが三段分消えちまってたぜ! ただ、手当たり次第に搔き集められるだけ搔き集めて持ってったって感じでさ。綺麗だった棚や部屋の中が結構ぐちゃぐちゃに荒らされてたんだよ」
「何…? 中が、荒らされていた……?」
章大からの報告を受けた瞬間、頌栄の怜悧な脳に一つの疑問が浮かんだ。
太郎の量子セキュリティをここまで見事に掌握され、SDとギンガスパークがセットで持ち出されているところを見るに、何者かが窃盗目的で侵入して来た事は最早疑いようが無い。だが、これほど完璧なクラッキングをこなせる驚異的な腕前を持っているにも関わらず、現場での盗みの手口はあまりにも雑だ。それではまるで、制限時間に追い立てられて焦るあまり、目に付いたものを慌てて引っ掴んで逃げて行ったかのようではないか。
計画の緻密さと、実行時の杜撰さ。行動と行動の間に強烈なチグハグさを感じざるを得ない、そんな奇妙な報告内容だった。
そこへ、コントロールパネルのコンソールを操作していた瑠偉の張り詰めた声が響く。
「……よし、メインログの洗い出し完了! 父さん! 章大! 消えたSDの詳細を纏めたリストが出来たよ! こっちに来て!」
手招きされ、二人は瑠偉が弾き出したホログラムモニターのデータリストへ同時に目を通した。
その瞬間、松葉家の親子は、一様にその端正な口許を盛大に引き攣らせた。
「…………おい、瑠偉。これってマジなのか?」
「残念ながら、マジもマジ。一文字の狂いも無いよ。もしも今回の一件が父さんの推察した通り、何者かによる明確な意図を持った盗難事件だとするなら、この犯人はウルトラ怪獣の価値を熟知した、相当の『目利き』と言わざるを得ないかな」
「嘘だろう……!」
冷徹な言葉で瑠偉に断言され、思わず頭を抱えた頌栄は愕然とした呟きを漏らした。
彼が作成してくれたリストには、ウルトラシリーズを愛する者ならば強烈な頭痛を催すほどの、最悪な名前がいくつも羅列されていた。中には一部、「なんでコレを選んだんだ?」と首を傾げたくなるような奇妙なチョイスも見られるものの、大半は「危険」や「凶悪」という言葉が生温く思えてしまうような、地球を数回は滅ぼしてお釣りが来るほどの特大の火薬庫ばかりであった。
「あと、こっちの方も見て欲しいんだ」
そう言って瑠偉が画面をスワイプして表示させたのは、保管庫の最深部にあるメインサーバーのアクセス履歴だった。彼は眼鏡の奥の瞳を申告層に沈め、その中の一行をしなやかな指で指し示す。
「この履歴なんだけど、詳しく調べてみたらハッキングによる不正アクセスだった事が分かった。更に深堀りしてみたところ、過去に父さんが実験で創った『ベリアル融合獣』のSDの設計データや、その大元となるウルトラマンベリアルの因子に関する情報、更にその因子と親和性が高い怪獣達の情報まで、一通り全部閲覧して行った形跡を確認したよ」
「あっ…! 待てよ、このアクセスログ……他にも『スフィア』や『スフィア合成獣』、『カオスヘッダー』に『カオス怪獣』のデータファイルにも閲覧履歴があるぞ! って事は、こいつはここも全部調べて行ったって事か!?」
章大が目を丸くしながら叫ぶと、瑠偉は重々しく頷いた。
「こんな宇宙をも滅ぼしかねない物騒なものばかり入念に調べて、こいつは一体何をしようって言うんだ……!」
侵入者の真の目的は未だ闇の中だが、十中八九ロクなものでは無いだろう。益々酷くなっていく頭痛に、頌栄は脳は遂に思考への拒否反応を示し始めた。だが、ここで考える事を止めて現実逃避に走ったとしても、事態が好転する事は無い。楽な方へ逃げたがる思考を鋼の理性で殴って黙らせ、画面に表示されているリストへ再び視線を落とした。
「…………………無くなっているSDの総数は三十個。この数字に間違いはないな?」
「うん。システムの管理台帳と、現在進行形でエラーの赤ランプを点滅させてるケースのラベルコードを照合して出したデータだから間違いないよ」
「となると、無くなっているギンガスパークの数も、章大が言っていた通り最大でも三十個前後とみて間違い無さそうだな。犯人はやはり、SDが
「けどよ、親父。なんでたった三十個だけなんだ? ここにゃもっと、世界を一瞬で滅ぼせるような強くてヤバい怪獣や宇宙人のSDも山ほどあるだろ。そうしたお宝を丸ごと全部持ってく事だって出来たはずなのに、目端の利く泥棒にしちゃ中途半端過ぎるんじゃねぇか?」
『そりゃきっと、持って行きたくても持って行けない事情があったからじゃないですかねぇ』
コントロールパネルのインターフェースに接続されたままのタブレット端末から、いつもの軽妙な口調を取り戻した、しかしどこか凍て付いた雰囲気を漂わせる太郎の声が割り込んで来た。
三人の視線が一斉にタブレットのフロントカメラへと注がれ、代表して頌栄が尋ねる。
「太郎。侵入者の尻尾は掴めたのか?」
『ええ、バッチリです。いやぁ~、苦労しましたよぉ。これでもかってくらい、うまぁ~く電脳の海の中で「かくれんぼ」してくれちゃってまして。おかげで捕まえるのにまるまる五分も掛かっちゃいました』
あはは、とヘッドセットのノイズ混じりに太郎の笑い声が聞こえる。
しかし、二十年以上の付き合いがある頌栄は、その乾いた笑声の裏に隠された、太郎の今の精神状態を正確に読み取っていた。
――怒っている。しかも、彼の人生において、最大級に。
頌栄の前で「パニックを起こす」という前代未聞の恥を掻かせ、大切な
だが今は、それを指摘している場合ではない。頌栄は口を突いて出そうになる様々な感情をどうにか呑み込み、静かに続きを促した。
「そうか……犯人の正体についてはどうだ? 何か分かったか?」
『まるっと一ミクロンの狂いも無く判明しましたよぅ。防犯カメラのプログラムを弄ってダミー映像が流れるように書き換えられていましたんで、その嘘の皮をサクッと引っぺがして元通りです。いくら映像記録用のコードを書き換えようがデータをゴミ箱にダンクシュートしてようが、「カメラに映っていた」という事実は消えません。バックアップからの復元も完璧です。これぐらい、ボクにとっちゃ朝飯前ですねぇ。………今からダミーじゃない本物の防犯カメラ映像をそっちのモニターに出しますんで、しかとその目に焼き付けちゃってくださいな』
「頼む」
太郎がそう告げてから数秒後、コントロールパネルのメインモニターに一階層のログが展開され、続いて一本のノイズ混じりの映像が表示された。画角から考えるに、このコントロールパネルに取り付けられた隠しカメラが捉えたものだろう。
そこには、くすんだ青色のボディスーツに、表面に無数の渦巻き模様が描かれた暗い金色の外骨格を纏い、一対の目を青白くギラギラと輝かせた一人の宇宙人の姿が鮮明に映し出されていた。
その、宇宙の長い歴史において、最も強欲で最も器用な泥棒の姿を目にした瞬間、松葉家の親子三人の声が見事にシンクロする。
「「「バロッサ星人……!」」」
(=◎ω◎=)<如何でしたでしょうか。
(=◎ω◎=)<ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
(=◎ω◎=)<劇中で太郎がめっちゃ取り乱してましたが
(=◎ω◎=)<あそこまでパニックを起こしたのは、実は彼の人生で初めての事だったりします。
(=◎ω◎=)<過呼吸一歩手前まで行ってました。
(=◎ω◎=)<もしも頌栄から叱咤激励を受けて我に帰っていなければ
(=◎ω◎=)<割と真剣に大変な事になっていたかも知れません。
(=◎ω◎=)<冷静なシゴデキが傍に居るって凄い幸運ですよね。
(=◎ω◎=)<他にも気になった事や誤字脱字などがありましたら、感想欄にてお願いします!
(=◎ω◎=)<それではまた次回、お会いしましょう!
(=◎ω◎=)ノシ