ウルトラクロスロード ~銀河に輝く星々の宿命~ 作:通りすがりの大学生
(=◎ω◎=)<「ウルトラクロスロード」、いよいよ今回のお話から本当の「本編」に入ります!
(=◎ω◎=)<第一話から接続話までは「プロローグ」的な扱いなので
(=◎ω◎=)<何卒、ご承知置きください。
(=○ω○=)<「こんなクソ長いプロローグがあるか!」
(=○ω○=)<と、どこかから怒られそうではあるんですけど……。
(=◎ω◎=)<それでは、ゆっくりして行ってね!
第八話 家族の時間
20ZX年、東京某所。
あの日から実に二十年もの歳月が流れ、東京都心は未曽有の怪獣災害の傷跡を乗り越えて、より近未来的で強固な対怪獣防衛都市へと変貌を遂げていた。
怪獣や異星人の侵入を阻む電磁バリア発生装置が都心をぐるりと囲うように設置され、地下には巨大な避難シェルターがいくつも完備されている。また、怪獣迎撃用の最新式ビームキャノンやレールカノンと言った重兵器群も要所に配備され、さながら要塞都市の様相を呈していた。
そうした十重二十重に対策を施された街の中で、人々は今日も変わらず、高層ビル群の隙間を縫うように忙しなく行き交い、己のすべき仕事を全うしている。
そんな都会の喧騒から少しだけ離れた、東京郊外の長閑な住宅街の一角に、松葉頌栄とその家族が暮らす家はあった。
丁寧に美しく手入れされた庭はテニスコート二面分もの広さがあり、双子の兄弟が幼かった頃は、よくここで泥んこになるまで遊び回っていたものである。
住居となる建物は二階建ての四LDK。周辺の風景と調和が取れた清潔感のある外装で、嫌みな煌びやかさはどこにも無い、質実剛健とした造りだ。
リビングダイニングは特に広々としており、四人家族が全員揃っても尚ゆとりのある二十畳のフローリング式である。
そこに置かれた上質な木製のダイニングテーブルで、松葉頌栄は一台の最新式タブレット端末の画面をスワイプしながら、何やら難しい表情を浮かべていた。
都心のオフィス街で初めてウルトラマンティガに変身し、コッヴと激闘を繰り広げてから二十年。
四十六歳になった彼の顔立ちは、年齢を重ねる事で一層の精悍さと強者の風格を兼ね備えるようになっており、今や「超渋くてカッコ良いハンサム旦那」として、この地域一帯の主婦層だけでなく若者達からも憧憬の念が籠った視線を向けられる有名人となっていた。
テーブルの片隅には一枚の小さなメモ用紙が置かれており、頌栄の愛する妻の筆跡で、今晩作る食事の材料が箇条書きで記されている。何年経とうとも、家族内における頌栄の立ち位置は不変であるようだ。
『あ~あ、見て下さいよ頌栄さん。我らが「連合軍」の今月の運営費ですけど、まぁ~た赤字のカッツカツですよ。これじゃあ、地球を守り切る前にボク達が資金不足で干乾びちゃいますねぇ』
タブレット端末の画面の端で、直近で発生した怪獣災害に関する報道や、日本の怪獣災害対策の現状について、ワイドショーでコメンテーターが何やら持論を並べ立てている。その声を上書きするようにして、端末のスピーカーから猫原太郎のハイトーンボイスが響いた。二十年の歳月が経過していても、その声に宿る軽薄でありながらどこか破滅的な色彩はまったく変わっていない。
愛すべき電脳の怪物からの指摘に、頌栄は画面をスワイプする指を止め、達観したように大きく鼻を鳴らした。
「仕方が無いさ。ウチのインターネット・ソリューション部門の最高統括責任者はお前だが、それ以外の職員や、現場でオレ達を支えてくれている後方支援部隊の者達はみんな、民間から募った一般人だ。彼らを雇っている以上、どうしたって真っ当な人件費が発生する。怪獣や宇宙人と戦うだけが今のオレ達の仕事じゃないんだ。彼らの掛け替えの無い生活を、大切な人生を守る事もまた、オレ達の立派な責務だよ」
『う~わ、もしかしなくてもボクってば、気付いたら過労死まっしぐらルート不可避? でっかい組織のIT部門で総責任者やらされるとか正気の沙汰じゃありません! みんな、揃いも揃ってボクを扱き使い過ぎなんですよぉ~! 超ブラック労働はんた~い! あんまり酷いと証拠揃えて労基に駆け込んじゃうぞー!』
「その分、地球防衛軍のトップですら目玉が飛び出るような桁違いの報酬を、毎月お前の口座に振り込んでるだろ。それに、どんなに忙しくてもお前が五徹以上しそうになったら、強制的に意識を落として寝かせてるはずだ。お前の代わりなんて世界のどこにもいないんだからな。こっちだってヘルスケアには十二分に気を遣ってるぞ」
『椋埜さんや銀也くん達をボクの自宅に呼び付けて、背後からボクの脳天ブン殴って物理的に意識を落とすのを「休ませる」なんて言いませんー! 暴力もはんた~い! 優しい言葉を掛けながら温かいミルクを淹れるとか、もっとこう平和的な方法で睡眠導入を行う事を強く要求しまーす!』
「悪いが、あれは『徹夜が五日以上続く事が免れない状態でパソコンのキーボードに触れた場合、手段を問わず強制的に休みを与える』という契約書の条項を破ってまで、無理をしようとしたお前に全責任がある。諦めろ」
『にゃー!?』
画面の向こうで、特注のオフィスチェアの上で派手に頭を抱えているであろう超万能オペレーターの姿を想像し、頌栄の口許に自然と柔らかな笑みが浮かんだ。
あっちもあっちで、とっくの昔に四十歳を過ぎた立派な「おっさん」の年齢なのだが、言動も仕草も、異常なまでに回転の速い思考回路も、すべてが二十年以上前からまったく変わっていない。怪獣災害や侵略者の暗躍によって否応無く激変していく世界の中で、こうして「決して変わらないもの」が身近にあるという事実は、心が凍て付きがちな戦いの日々においてどこか寄る辺のような安心感を覚えるものだった。
『頌栄さ~ん、この際ですからもう四の五の言ってはいられませんよ。貴方のその「
「バカを言うな。そんな事をしたら、その時点でオレは人間じゃ無くなっちまう」
先程までの穏やかな表情を即座に消し去り、鉄のような冷徹さを孕んだ厳しい口調で、頌栄は太郎の言葉をバッサリと切り捨てた。
確かに、頌栄が持つ具現化の異能をもってすれば、莫大な大金も、希少な貴金属類も、世界中の人々を狂わせる宝石もすべて、何も無い虚空から無限に産み出す事など造作も無い。地球に存在する金の総量を遥かに凌駕する量の金塊も、人類史に永遠に刻まれるほどの大きさと純度を両立した希少鉱石も、決して使い切れないほどの札束の山も、頌栄の意思一つ、指先一つで思いのままだ。
使い方一つで世界経済を裏から完全に牛耳る事すら容易なその能力は、しかし一歩間違えれば、使い手の魂を底無しの欲望によって瞬く間に腐らせてしまう最悪の呪いへと変貌してしまう。
玩具や生き物を創り出して能力を磨き、その適応範囲や限界を手探りで模索していた少年時代の頃から、頌栄は既にその強大過ぎる力が持つ「負の側面」に気が付いていた。
使い方次第で最高の幸福も、最悪の不幸も呼び寄せる。だからこそ、どれほど誘惑に駆られようとも決して踏み越えてはならない絶対の一線が必要なのだと、そう己の魂の奥底に誓いとして固く刻み込み、今日まで生きて来たのである。
その日に食べる物すら困るほどの貧困に喘ごうとも、自ら額に汗水垂らして正当に得た報酬だけで生計を立てる。巨額の資金が今すぐ必要になるほどの状況に陥ろうと、正当な対価を支払った上で得た利益の範疇のみで賄う。
家族や親友達を守るための「光の盾」は創っても、自己の欲望を満たすためだけの「私利私欲の闇」は決して形にしない。
それは、愛する妻の優しい笑顔も、可愛い息子達の純粋な成長も、すべてを虚飾に塗れた「まやかしの幻影」に貶めないための、大黒柱として必要不可欠な線引きであった。
万能の奇跡であると同時に、一生涯に渡って使い手の人間性を試し続ける究極の試練。それが、頌栄の持つ具現化能力の本質だったのだ。
「創れるからと言って、創って良い理由にはならない。自分の欲望を満たす為だけの創造は、単なる『消費』でしか無いんだ。偽りの富に縋って生きて行かなければならないほど、オレもお前も落ちぶれちゃいないだろ?」
『ですね……。すみません、冗談でも言って良い事と悪い事がありました。反省反省、猫反省』
「出来ればそのまましばらく猛省しとけ。もしもお前が今のを本気で言ってたら、今頃お前ご自慢の地下室ごとお前んちをデカいクレーターに変えてたところだ」
『怖ッ!? ちょ、頌栄さん、今のセリフ
「お前の場合、これくらい言わないと本気で反省しないだろ。恨むんなら自分の日頃の行いを恨め」
『しょんなぁ~……しくしく』
しょんぼりとした情けない口調がタブレットのスピーカーから流れてくる。しかし、本気で反省している人間は自分の口で「しくしく」などと発言したりはしない。
「あ、これ中身は一ミリも反省してないな」と即座に看破した頌栄は、フロントカメラを通して太郎がこちらの様子を観察していると踏み、冷たいジト目でカメラのレンズを思いっ切り睨み付けてやった。
「でもよぉ、実際問題どーするつもりなんだ、親父?」
不意に背後から低く、張りのある声で尋ねられ、頌栄はダイニングチェアごとゆっくりと振り返った。
そこには、清潔感のある部屋義をそれぞれ異なる着こなしで纏った、二人の若い男性が並んで立っていた。
色鮮やかなコバルトブルーの髪と、深い海を思わせる色を湛えた鋭い瞳。整った涼やかな顔立ちも、百八十四センチという父親をわずかに上回る長身も、すべてが鏡写しのようにそっくりな青年達――今年で二十五歳を迎えた松葉家の双子の息子、章大と瑠偉であった。
「俺達『連合軍』が慢性的な資金難に喘いでるってのは、もう隠しようの無い事実だろ? 雇い入れたスタッフの人達はみんな、それぞれの部署で毎日命懸けの危険な任務や過酷な労働を、文句一つ言わずにこなしてくれてんだ。あの人達の思いを組織のトップ陣が汲んでやれないなんて、俺は嫌だぞ?」
章大の言葉は若者らしい熱情と、仲間を想う真っ直ぐな正義感に溢れており、わずかに眉根を寄せて父親を真正面から見据えている。
「父さんの『一線を引いた上で能力を使う』という気持ちは、僕達も痛いほど理解してるよ。だけど、現実として日本政府から支払われている形ばかりの補助金だけじゃ、今の組織の規模を維持するには焼け石に水だ。かと言って、表立ってクラウドファンディングで寄付金を募るにしても、世間の目がある以上はどうしても規模に限界がある。こんな事は言いたくないけれど…………民間防衛組織を束ねる上層部として、僕達は『最悪の事態』を想定しておくべきじゃないのかな」
瑠偉が眼鏡の奥の瞳を真剣に光らせながら、極めて冷静で論理的な進言を重ねる。
二人とも、ただ父親の庇護下にいる子どもでは無くなっていた。今や巨大組織へと成長した『連合軍』の運営を、そしてそこで人生を懸けて働いてくれている人々の生活を、自分達なりに心の底から案じ、一人の戦士として意見を述べてくれているのだ。
その事実に、頌栄は胸の奥が温かくなるような深い感慨と、双子の成長ぶりに対する誇らしさを覚えて目を細める。そして、彼らの不安をすべて包み込むように、家族の大黒柱としての穏やかで頼もしい笑みを浮かべた。
「章大、瑠偉、組織の行く末をそこまで考えてくれてありがとな。だが、大丈夫だ。足りない分の運営資金に関しては、いつものようにオレや太郎達で裏からしっかりと搔き集めておくさ。一生懸命働いてくれるみんなに十分な報酬が払えなくなるなんて事には、オレが生きている限りは絶対にしないし、させないよ」
「………おいおい、親父。まさかとは思うが」
父親の返答を聞いた途端、章大が呆れたように片眉を吊り上げた。
「まぁーた海外のでっかい犯罪組織とか、裏社会のやべー連中が貯め込んでる汚い金をくすねて来るつもりじゃねぇよな!? 直近でも確か、結構な規模の国際詐欺集団にハッキングかまして、数億単位で掠め取って来てただろ! 万が一、裏社会の連中にバレたら
すると、頌栄が口を開くよりも早く、タブレットの画面の向こうから太郎が激しく捲し立てて来た。
『失敬な! 章大くん、ボクがそんなクソ間抜けのド素人みたいなヘマをする訳ないでしょう! 平和の維持には全力を! 犯罪者のクズ共からは総取りを! それが、今も昔も変わらないボクの絶対的な
「言ってる事は最高に立派だけど、やってる事は法律の網を全力でブチ切った完全な重犯罪だし、そもそもキミ、詐欺の被害に遭った一般の人達のお金も含めて容赦なく丸ごと総取りしてるよねそれ。大義名分と実際の行動の落差が酷過ぎて、聞いてるこっちが風邪引きそうだよ」
すかさず瑠偉がスピーカーのレンズに向かって、冷静で鋭いツッコミを突き刺した。
『あ、あはは……心配しなくてもその辺は抜かりないですよぉ、瑠偉くん。犯罪被害に遭われた方々の口座には、ボクが開発した特殊なマネーロンダリングシステムを通じて、後日「身に覚えのない正当な払戻金」として、そっと匿名で一円の狂いも無く全額返金してますんで、まったくのノー問題! どうです? 人類社会の平和を守るついでに、見知らぬ他人の細やかな平和まで裏から守っちゃうボクってば、マジで凄くないですかぁ?』
「やってる事自体はガチのマジで凄い、世界最高峰の神業と言っても良いレベルだが、それをドヤ顔で自画自賛してる時点で男としての価値もプロとしての格も全部駄々下がりだぞ、太郎」
そして、頌栄がトドメと言わんばかりに、低く渋い声で冷や水を浴びせる。
『ぐふっ……!?』
精神的クリティカルヒットの二連撃に耐えかねたのか、フロントカメラの向こうで太郎がキーボードの並ぶデスクの上に派手に突っ伏した。
その情けない絶叫をスピーカー越しに聞いた松葉家の親子三人は、互いに顔を見合わせると、堪え切れずにこの上なく愉快で温かな笑い声を、広いリビングの隅々まで同時に響かせる。
激変する世界の片隅で、彼らは確かに、血の通った家族の時間を守り続けていた。
(=◎ω◎=)<如何でしたでしょうか?
(=◎ω◎=)<ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
(=◎ω◎=)<今回は日常回
(=◎ω◎=)<以前から登場していた頌栄さんと太郎に加えて、頌栄さんちの子ども達が初登場です。
(=◎ω◎=)<初登場時点で既に二十五歳なので、
(=◎ω◎=)<ショタの時(五歳)の二人が果たしてどんな子どもだったのか
(=◎ω◎=)<そこは読者の皆様のご想像にお任せします。
(=◎ω◎=)<頌栄さんの子どもなので強いのは確定ですが、
(=◎ω◎=)<どんな戦い方をするのかはまた後ほど。
(=◎ω◎=)<それではまた次回、お会いしましょう!
(=◎ω◎=)ノシ