Geminiの再設定に時間を要してました(4敗)
さらにチャッピーが意味の分からない解釈を続けて進みませんでした(13敗)
「わたしの、勝ちよ!」
高らかな宣言が、静まり返った異国のターフに響く。
誰もが息を呑んでいた。
静寂だけが、その勝利を包み込んでいる。
ただ一人。勝者となった少女だけが、小さく息を整えながら前を見つめている。
───どうして、ここまで来られたんだ。
その答えを、この時の俺はまだ知らなかった。
───
中央トレセン学園へ来てから、担当候補を探す毎日は変わらず続いていた。
模擬レースを見て、トレーニングを見学し、気になったウマ娘の名前をバインダーのメモに落とし込んでいく。
そんな日々の中で、その名前は再び俺の視界に入ってきた。
「あの子、また走るのか」
芝トラックのスタート地点。見覚えのある栗色の髪が視界に入った。
アーモンドアイ。先日の模擬レースで四着となり、誰よりも冷えた悔しさを滲ませていたウマ娘だ。
バインダーの出走表と対戦相手の顔ぶれを照らし合わせ、俺は小さく首を傾げる。
「確か……」
以前、アーモンドアイより先着したウマ娘だった。
偶然か。それとも───。
そんなことを考えているうちに、教官の笛が鋭く鳴り、ウマ娘たちが一斉に飛び出した。
レースは終始、張り詰めた接戦だった。
驚いたのは、アーモンドアイの走りが前回とは見違えていたことだ。
無駄な力みが消え、コーナーでの加重移動が格段にスムーズになっている。
まるで、短期間でマシンのセッティングを完璧に書き換えてしまったかのように。
直線まで牙を隠して脚を温存し、勝負所で一気に外へ持ち出した。
一歩。また一歩。
青々とした芝を力強く蹴り上げ、先頭との差を詰めてしていく。
最後の数メートル、激しいデッドヒート。
アーモンドアイの身体が、力づくで半身前へ滑り込んだ。
「───ゴール」
計測係のストップウォッチが押される音が、静かな芝コースに響く。
「ありがとうございました!」
しかし、息を整えるより先に、彼女は対戦相手へ深々と頭を下げた。
握手を交わした二人は、笑顔で何か言葉を交わすと、それぞれ控室へ戻っていく。
その姿を見送りながら、俺はペンを回して小さく息を吐いた。
「……再戦、だったのか」
少し意外だった。
負けた相手へもう一度挑む。それ自体は珍しいことじゃない。
だが、わざわざ模擬レースを組み直し、この短期間で確実に雪辱を果たす者はそう多くない。
「あそこまでやるか」
そう呟きながら、俺は次のレースの準備へと意識を切り替えた。
翌週。
再び模擬レースの出走表を眺めていた俺は、思わず目を見開いた。
「……またか」
アーモンドアイの名前。
そして、その対戦相手。
今度もまた、あの最初の模擬レースで彼女より先にゴールしていたウマ娘だった。
偶然ではない。確信が、冷たい輪郭を持って胸に落ちる。
彼女は、自分が届かなかった背中を、一つずつ追いかけていた。
レースは前回以上に激しかった。
先頭へ立とうとする相手の背後に、アーモンドアイはぴたりと張り付いて離れない。
最終直線。互いに譲らない。並ぶ、競る、芝の切れ端が激しく跳ねる。
相手の脚が、ほんの一瞬、限界の追い比べの中でブレた。
わずかなステップの乱れ、コンマ数秒の狂い。
アーモンドアイの瞳が、その隙を獰猛に捉えた。
限界を超えてなお加速するその姿は、まるで底知れない怪物のようだった。
「───ゴール」
勝負は決した。
「ありがとうございました!」
勝った彼女は、息を荒くしながらも、嬉しそうに笑って相手へ手を差し出す。
「また走りましょう!」
その笑顔を見て、俺は奇妙な違和感を覚えた。
悔しさを晴らしたという、ドロドロした復讐のニュアンスが一切ないのだ。
意地でもない。ましてや相手を見返したいわけでもない。
ただ、勝ちたかった。
勝つこと、そのものが、彼女を最大級に満たしている。それだけなのだろう。
(この子は……本当に、勝つためだけに走っているのか)
レースそのものを楽しんでいるわけでもない。
誰かを見返したいわけでもない。
ただ、勝利だけを真っ直ぐ見すえて走っている。
これまでに見てきたどのウマ娘とも違う。
その底知れなさに、俺は小さな寒気すら覚えていた。
手元のバインダーに目を落とす。
最初のレースで、彼女より先着したのは三人。二人には勝った。
残る一人は───。
海外から短期留学していた、あの圧倒的なストライドのウマ娘。
交流プログラムを終え、彼女はすでに海の向こうへ帰国している。
「さすがに、もう無理か」
相手は海外。学園内の模擬レースのようにはいかない。
これで彼女のリベンジも打ち止めだろう。
そう思いながら、俺は夕暮れのトレーニング場を後にした。
───翌日。
「こんにちは! 急にすみません、アーモンドアイです」
夕方の河川敷。かつて出会った高架下で、彼女は少し緊張した面持ちで俺を待っていた。
「その……お願いがあって、貴方を探していたんです」
「俺に?」
「はい。わたし、海外でリベンジマッチをしたいんです」
「あの時負けた子と、どうしてももう一回、勝負がしたくて。でも、学園のルール上、生徒ひとりでは渡航許可が下りないんです」
「親族や教官に都合のつく方がおらず……それで、貴方ならば、と」
「なるほど……」
思わず絶句した。
無茶な頼みだということは、彼女自身が一番よく分かっているのだろう。
きちんと話をしたのは、あの日の一度きりなのだから。
「無茶を言っているのは分かっています。でも、お願いします! わたし、どうしてもあの子に勝ちたいんです!」
真っ直ぐに差し向けられる、大きな瞳。
その奥にある熱は、あの高架下で見た時よりも、さらに爛々と輝きを増していた。
一度負けた。だから、もう一回。
あまりにも真っ直ぐで、迷いのないその言葉に、俺の胸の奥で、忘れていた何かが小さく火花を散らした。
気づけば、答えていた。
「───わかった、俺が付き添うよ」
「……! ありがとうございます!」
パッと花が咲くように、彼女が笑う。
「それでは……また詳細が決まり次第、お伝えしに来ますね!」
「ああ。……それと、渡航までの間、トレーニングの計測なりなんなり、手伝えることはしようか?」
「え……っ、本当ですか!? ありがとうございます、とっても助かります!」
こうして、海の向こうへのリベンジに向け、俺と彼女の奇妙でストイックな共同戦線が幕を開けた。
なんか、AIの使い方が上手くなった気がする