オール・フォー・ワンから逃げきる方法について   作:ヒロアカは青春…?

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√オール・フォー・ワン 後編

彼女に連れられた部屋は異様の一言に尽きた。土壁の中に拘束されている複数人はどれもこれも男で、逃げられないように最低限の栄養を点滴で入れて生きている有様。時折絶叫が聞こえ、腐った匂いが思わずえずきたくなるような気分にさせる。

 

「ふふ、どう?これが君を騙った愚かな奴らさ。全くボクの伴侶になれるかもなんて思い上がるなんて苛立ちが収まらなかったよ」

 

要はここにいる奴らは俺のことを騙ってオール・フォー・ワンに会って拷問されているのだろう。彼女は悲鳴が上がると共にこちらと視線を合わせて笑う。

不覚にも─こんな状況でもドキッとしてしまった自分を戒めるように彼女を突き放す言葉を使う。

 

「……俺はテメェの伴侶になった覚えはないぞ」

「ふふっ、そういう風に啖呵を切ってくる君だから恋人になったんだけどね」

 

頬に微かな感触。キスされたと気づいたときには思わず彼女を振り払った。乱暴にされたというのに彼女は笑みを崩さない。

 

「おや、つれないね。これだから君のことを好んでいるのだけど」

「いいからとっとと目的に入れ。まさか悪趣味なモノを見せて気分を悪くさせることなわけじゃないだろう?」

「そうだよ。とはいっても後で彼らにも協力してもらうけど…まずはこっちだね」

 

優しく導くようにして彼女は扉を開ける。先ほどの牢獄に漂っていた匂いとは異なる甘ったるくて重い匂い。医者としての知識がこの匂いに対して警鐘を鳴らした。

 

「…麻薬?」

「ふふ、やっぱり気づいた。ボクのやってることくらいお見通しなのはわかってたから対策もしているんだけどね」

 

ドンと強く押し倒される。先ほどと同じように負け、今度は体に力が入らなくなった。弛緩剤まで入れられている時点で無個性のままでは対応できないことがわかった。

 

(…クソが)

 

瞬間移動含めて個性を見せるのは2回目。死んだふりも合わせたら3回目。これだけ見られていたら手札がバレていると見てもいいかもしれない。

 

『自分はジャック・ザ・リッパーである』

『ジャック・ザ・リッパーは医者で薬物を取り扱っていた』

『自分も同様に医者であるから薬物に耐性がある』

 

硬い床に爪を立て、その勢いのままに彼女へと暴力を振るう。女だからとか手加減はできないが、当然ながら掠る程度で終わるだろうと革新していた。

 

「おやおや、酷いなぁ。着衣にSMプレイって随分と錯綜してないかな?」

「全部テメェは避けるだろ?違うか!?」

「違わないさ!!君を嘘つきにするわけにはいかないからね!」

 

負の信頼まみれだが、薬物以外にこの部屋は何もない。オール・フォー・ワンの意図を掴みかねているが、ひとまず貫手で胸元を突きにいく。

 

(どうせ全部避けんだろ…)

 

狙いが見抜かれているかはわからないので一旦インファイト。外した。何度も近づいて振り抜くが彼女はどこ吹く風と言わんばかりに躱していく。

 

「あの時みたいに体を貫いたらボクが君のことを奪うからね!ハハッ、もっと来てもいいんだよ?」

 

魅了されるように頭が一瞬だけ思考を止める。そういう個性を前は使わなかったが、それだけ本気なのだろう。防げなかった彼女の蹴りで横に吹っ飛び、壁の扉に当たる。

 

「ふふ、その先に入ったらボクのものになるということさ。二人で互いを捧げ合うなんて実に素晴らしいことじゃない?」

「風情も何もあったもんじゃねぇ…ってかんなことねぇだろ!」

 

扉を開ける。真っ暗な部屋だが、辛うじてどこに何があるかがわかる。隅に見えている黒い点々とした跡は恐らくこびりついた血だ。

 

パッと視界が真っ白になる。咄嗟にその場で回転して視界が回復するまで粘ろうとするがもう遅かった。

 

「人の忠告は素直に聞くものだよ。それともそんなに早くボクのものになりたかったのかい?体は正直だね」

「るせぇ…」

 

ぐうの音も出ない正論。彼女が個性で仕掛けただろう糸は俺を雁字搦めに縛り、そしてその糸の先はオール・フォー・ワンの手で手繰(たぐ)られていた。

 

「蜘蛛の個性さ。異形じゃないのにここまで操れるのは優秀だと思ってつい奪ってしまった」

「…」

「無視されても構わないよ。今からすることを止めることはできないからね」

 

この部屋は拷問部屋だった。ある意味彼女がここに誘導した時点で詰んでいたかもしれない。ここからワープをすることもできるが…恐らく蜘蛛糸で動けないのが確かだ。

 

「ちなみにだけど、今から君には傷ついてもらうことは─流血したり肉体的な苦痛を与えることはないから安心してくれ」

「…はぁ。拒否権はねぇんだろ」

 

覚悟を決めて彼女と目線を合わせる。暗い紅い瞳が俺だけを写して微かに揺れる。

 

「気合は充分あるようだね。とはいえ本当は麻酔や麻薬で一旦体を弱らせたかったのに…ままならないとは正にこのことだ」

 

体に巻き付いた糸が少しだけ解け、体の要所要所に巻き付いているだけに留まる。これだけであれば問題なかったが、手に鈍い鉈が持たされている。

 

「ボクはね、君が愛してくれたせいで壊れちゃったんだ」

 

唐突に俺の前で止まり、死んだふりをしたときのように両手で顔を掬われる。白絹の糸が締め付けを強め、掛かった獲物を絶対に逃すきがない。

 

「寝ても覚めても君のことばかり考えるし、世界の支配をしながら私的な理由でスパイを増やしていた。あるいは君から出てこられるように懸賞金もかけた」

 

そのまま周囲を歩く。部屋にあった彼女を想定した品々が愛おしそうに撫でられていく。

 

「けど、有象無象が君のふりをして声をかけてきても全く響かないんだ。今までよりもボクに群がってくる羽虫よりも醜い塵芥が許せなかった」

 

拷問のためのその部屋に、新たな血が握りしめたことによって落ちる。手首からその血が伝わり、体の周囲にじわじわと妙な匂いと背徳感が纏わりつく。

 

「でも、君はボクに姿を見せないように殺そうとしてくれていた。ボクを愛しているから─そうじゃなきゃ、こうやって逃げられたチャンスを逃がしたりはしないだろう?」

 

「君と会えなかったとき、ずぅっと不安だったんだ。君がもし、他のターゲットにその殺意を向けていたり、ボクのことを覚えていなかったらってさ」

 

「杞憂だった!!君は想像以上にボクのことを知らない内に調べて、ボクを殺すために全力で動いていた!!あまつさえ与一のことまで調べ上げた─ボクに何も悟らせずに!」

 

「ボクという女に完璧に応えてくれる君が伴侶に最も相応しい。あぁ、名前だってもう長いことなくしたんだろう?殺すためだけに─ボクを永遠に君だけのものにするために!」

 

「…ふぅ。ごめんね。五年間も待ったからか、ボクも制御がきかないんだ。それだけボクが愛しているって伝わればいい」

 

彼女はそう締め括り─俺の体を支えるようにして動くように操っていく。これから何を行わせるのかを知った俺は、どこまでも無力さを痛感していた。

 

「安心してくれ。もし君が壊れたとしても、ボクのために戻ってきてくれるのだろう?」

 

彼女の笑みは見えない。ただ紅く体に結ばれた糸が、ひどく震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

彼とボクがやっと結ばれてから一年後。ボクは彼を出迎えるために玄関前へと歩いていた。

 

(やれやれ、あんな風に壊れるなんて…いやぁ、実に素晴らしい)

 

彼は六人目を殺した辺りからボクに懺悔を始めた。終わらせてくれと懇願した。悔し涙を流しながら人間が死ぬさまを眺めて無力さに心が折れたところに体の繋がりを用意した。

 

殺したい気持ちが反転したわけではない。ただ、それ以上の愛を彼はボクに持ってくれていた。あるいはもともと持っていた愛を素直に向けてくれるようになったとも言える。

 

「ただいま、全。出迎えありがとう」

「おかえり、(れい)。今日はどうだったの?」

 

彼が壊れてボクのものになった証として零、と名前をつけた。

ボクが巨悪として象徴である(ぜん)なら、それに支配されない零れ(こぼれ)落ちる(ぜん)を殺すのが彼なのだ。

 

「今日は久しぶりに君に抱かれたいな。ダメかい?」

「しょうがないな…ちゃんと仕事も終えてきたみたいだしいいよ」

 

何はともあれ、彼はボクのことだけを考えて暮らしてくれる。

これはボクが、幸せになったあとの物語。

 

 

√オール・フォー・ワン ロストエンド

彼は彼女のために(ワン・フォー・オール)彼女は彼のために(オール・フォー・ワン)

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