オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
「USJで救難訓練をしましょう」
戦闘訓練が終わった1週間後。ひとまず問題なく学校生活を送れている俺は、少しだけバスで学生らしくおしゃべりをしていた。
「お、おつかれ緑谷。あんだけボコボコにされていたけど無事に戻ったみたいで何よりだよ」
「うん。雪和くんこそあんな動けるなんて凄いよね」
思い出しているのは戦闘訓練のこと。たまたま響香お姉ちゃんと一緒になれたからアホほど音楽でバフをかけてもらったのですぐに入手することができた。
「アレは響香お姉ちゃんが上手いだけだよ。俺は撹乱して指示に従っただけだし」
「雪和?ウチのこと最初の方ヴィラン側と間違えて襲おうとしたよね?」
カリカリと体の弱い部分をジャックで削られる。血は出ない程度にくすぐられると力が抜けて動けなくなる。いい加減このいたずらをやめてほしいけど、言ったところで風呂と同じ醜態を晒すだけなのでやめておく。
「やめてよ…というか家じゃないから恥ずかしいし」
「家ならやっていいんだね。ウチまだ怒ってるから覚悟しといて」
シュルシュルと戻っていく耳たぶを横目に見つつ、緑谷に向き直る。ぽかんとしているが大体言いたいことはわかっただろう。
「てな感じだよ。こんな風にちょくちょく耳をやられているせいで指示ははっきりしてるのさ」
「ってか羨ましいぞコンチクショー!!なんであんな美人な姉がいるんだよ雪和ァ!」
峰田の絶叫がバスの中に響く。耳がグワングワンするのが嫌だから黙ってほしかったが、叫んだ瞬間に相澤先生の布が飛んだ。布に包んで一瞬で峰田を席につかしたのは流石の腕前である。
「非合理的なことを羨むな。そもそも授業前に無駄な体力消費をしないほうがいいだろ」
「至極真っ当な正論だねぇ。何が起きるかわかんないんだし、しっかり覚悟とか決めといたほうがいいかもよ?」
先生の言葉に乗っかるようにして茶化した発言をする。大人しく席に座って我慢できないのはしょうがないと思うけど。
「雪和、お前もだ。個性の暴走の予測がつかない以上、安易に使用せずに無個性で戦え」
「それは酷くないですか?まあそうしますけど…」
個性が発現したがどんな方向に転ぶかわからない。先生の指摘は至極真っ当だし、遺伝した親の個性すら不明なら無個性でやれとは当然の指示だ。
(まあいずれはバレるから何かカモフラージュできるものにしとかないと…)
霧に関する個性ということにしておきたいが、ジャック・ザ・リッパーなんて書いたらバレたら干されることが間違いない。
「ほら、着いたぞ。早く降りろ」
バスから降りて地面を踏む。静かに誰もいない空間に見えるそのドーム空間は、どこまでも人を待つ怪しい宝箱に見えた。
「おや、予想よりも早く着きましたね。始めまして、雄英高校の皆様。わたくし、黒霧と申します」
恭しく一礼する黒いモヤ。倒れ伏している宇宙服のヒーロー。この状況をいち早く理解した相澤先生が走り出すと同時に、地中から現れる黒い物体。
「先生はそのまま突っ込んで大丈夫です!」
手元にある投げナイフを目玉と関節に投げ、相手の動きを阻害する。本当なら戦闘不能になるはずだが、化物相手にはわずかな時間稼ぎにしかならない。
「委員長!全員を他のエリアに逃がせ!!」
「雪和くんはどうするつもりだい!?まさか戦闘するなんて馬鹿な真似はしないだろう!?」
「あぁ、時間稼ぎ兼囮だよ!!無個性のほうが安全だからな!…ついでに先生呼んでこい!」
個性を使うことはするが、傍から見れば無個性に見えるようにしなきゃいけない。
『自分はジャック・ザ・リッパー(Fate)である』
『ジャック・ザ・リッパー(Fate)は投げナイフを精密かつ無限に使う』
『自分もまたナイフを無限に使え、狙った通りに投げられる』
体の変質はしていないが、いつの間にか黒のコートと裾丈の極端に短いノースリーブのジャケットにローレグの紐パンに着替えていた。流石に羞恥心で身悶えたい。
「でも、これであなたをころせるよね?」
地面から出てきた脳無はあまりにもデカ過ぎた。ナイフがなければ脳に攻撃することすら不可能だっただろう。
油断なくコートからナイフを補充し、小さな手のひらにそれぞれ3つずつ握る。
「やぁ!」
可愛らしい声とともに宙返りしながら六本投擲。外しはしないと体に染み込んでいるはずのない経験が教えてくれる。
腕で庇った脳無に刺さった瞬間から勢いが急激に減速していく。ショック吸収の個性の複合は原作と何ら変わらない。
投げナイフでけん制した後、一旦下へと降りた相澤先生と合流する。顔だけはそこまで変わっていないので把握してくれるはずだ。
「どうなってるの?」
「雪和か…緊急事態だし個性の暴走は制御できてるならいい。アレは止められるんだな?」
アレ、と形容される脳無。他のチンピラ含めてどうなっているのかは知らないが、恐らくこの場において最強なのは疑いようがない。
コクン、と小さく頷く。近づいてくる奴らには最低限足と肩を狙って動きにくくし、ついでと言わんばかりに上へとナイフを投げて死柄木を狙う。
「そうか。アレを撹乱しつつ巻いて緑谷達と合流しろ。俺は捕縛を基本にして動く」
「わかった!別に、倒してしまってもいいんでしょ?」
「無理するな。ここで怪我して人質にされると面倒だ」
子どもさながらの無邪気な言葉通りに突貫。言葉とは裏腹に冷静に物事を見れるような気がしてならない俺は、脳無の癖を見抜くために更に投擲し続ける。
(吸収されてるのに、なんで防御してるの…?)
体の中心─そこだけには刺させたくないように動き続ける。本来ならそこだってショック吸収が可能な範囲だから気にせず前へと出続けるのが筋だろう。
そうしなかった以上、脳無が持っている何らかの制約が働いていると考えられる。意思のない殺人鬼が本能的に守るのはどうしてか。
「ん、ころしちゃお」
理解すれば体は機械のように狙いを定めて一点を狙う。本来なら頭─正確には剥き出しになっている脳。恐らくそこだけ守られていないのはチャンネルの役割を果たしているからだ。
(確か原作でも人の命令を聞くだけの存在にしてたしな…)
ガードした横からすり抜けて近距離でククリナイフを刺す。肉を刺し貫く気持ち悪い感覚が自らの神経に通り、ついで自分ではない本能が悦びのおたけびを上げる。崩れ落ちて動かなくなったソレは、もう超再生をすることもなかった。
「オイオイ、脳無ぶっ壊されてんぞ…!オールマイト殺すための存在と言っていたのに欠陥品じゃあないか?」
「そうやってみんなのことけっかんひんってよぶの?ねぇねぇ、わたしたちきになるな」
苛立ちのあまり視野が狭くなった死柄木を殺したい気持ちを堪え、ナイフで関節を動かす筋肉だけを断ち切ろうとする。死柄木一人だけなら確実に捕らえられたという確信がある。
「ヒーローの卵だけかと思っていましたが…まさかここまで育っている化物がいるとは思いませんでした」
黒霧が咄嗟に俺の後ろへとワープを作り、そこに射出した勢いのままナイフが到達する。同じ位置にナイフを投げて両方の勢いをなくし、改めて彼へと向き直る。
「はやくかえって。おかあさん、しんぱいするから」
「そうですね…あなたの名前は?それだけ聞かせてもらえれば帰りますよ」
出された交換条件。その程度で逃げてくれるなら好都合と殺人鬼の本能が告げてくれる。
「─ゆきのへいわでせつな。かえって」
「ええ。今後会わないといいですね、お嬢さん」
脳無の死体と死柄木を持ち帰る彼は優雅に一礼する。その動きを油断なく見ながら黒いモヤが完全にいなくなるのを待つ。
(…終わった)
まだ気を休めることはできないが大きな危機は去った。一つだけ深く深呼吸して、俺はクラスメイトのところへと走り去る。
全員が逃げ込んだエリアは山岳地帯。原作では響香お姉ちゃんがいた場所だったっけな、なんて記憶を思い出す。やがて皆を見つけ、少し息切れしながらそこへと向かう。
「はぁ…はぁ…みんな、だいじょうぶ?」
まだ個性を解除していないからか、どこまでも舌っ足らずだ。本来のジャックならどう喋るのだろうか、なんて下らない思考が頭を駆け巡る。
パァン、と乾いた音。ドクドクと血が出ていく。自分の腹が貫通したのだと気づき、ついで目の前にいるヴィランからの攻撃をナイフでいなす。
(誰だ…?)
そのまま周囲からも一斉に射撃。6発まではなんとか防げたが、それだけだった。
不格好なダンスを踊るかのように血飛沫が舞い、ただでさえ少ない体の血が出ていく。
「なん、で…?」
倒れる前に見た、銃を撃った人間。それは間違いなく、知っている人間だった。くるり、と出血多量で体が動かなくなる。どうあがいても致命傷になっているのは避けられない。
『自分はジャック・ザ・リッパー(Fate)である』
『ジャック・ザ・リッパー(Fate)でも医療技術はある』
『故に自分で自己手当ができる』
血が逆流して口から流れ出る。それの中に混じっていた玉のようなものが6個口の中に当たると同時にそれが止まり、コロンと口から地面に転がり落ちる。
「雪和…?雪和!雪和ァァァ!」
誰かが駆け寄ってくることを認識したあと、既に限界を迎えていた俺は意識を落とした。
ちなみに今回撃たれた原因はジャックちゃんです
死ななかった理由もジャックちゃんなのでトントンですね(??)