オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
「じゃあ雪和!生徒代表の挨拶お願い!」
式も無事に終わりそうなところに唐突に呼ばれた。とぼけた顔て乗り切ることもできそうにないので子供らしく振る舞うために一度台の上で転ぶ。頭に手を乗せ、ぴょんぴょこ跳ねてマイクを調整してから宣言する。
「はーい!えっと…わたしたち、がんばります!」
そのままペコリとおじぎをしながら宙返り。丁寧に降りるなんてことはせず、そのままもともと立っていた場所に音を立てずに着地。
(んー…まあ、やっぱパフォーマンスとか柄じゃないなぁ…)
ヒーローの商売とはキャラクター性だろう。あまりこういう子供らしい振る舞いは今のうちだから許されるのであって、ちゃんと大人になるまでに別のキャラを確立しなきゃいけない。
「じゃあ最初の競技は障害物競走!会場の外回りを一周!約4kmのクラス総当たり競争!
ただし個性あり、生徒間の妨害あり、関門あり!コースさえ外れなければ何してもOK!」
位置について、と前にぞろぞろと出る。皆が狙う狭い門は、後からいったほうが安定していけそうだ。今回の目標は1位な以上、体力をここで消耗することは避けたい。
『はじめ!』
人の波が狭いところから流れていき、広がり切る前にデカいロボが行く手を阻む。俺にとってはその大きさこそが狙い目だった。
「せーの!」
人の頭を踏みつけて飛び跳ね、ロボットを足場にして跳躍。一秒ごとに変わる安置を見破りながら前へ前へと潜り抜けていく。
『雪和ガール、忍者のごとくすり抜けたー!!あんだけ軽い身のこなししといて個性じゃないってマジかよ!!?』
『勘違いしているがあいつは男だ。個性については…不明、だ』
『ウェ?!』
思っている余裕があるので微かに切り込みを入れて解体しておく。トップ独走するならそれしか楽しみがないからね、しょうがないね。
「えーと…つなわたり、かな?」
第二ステージは手にしているナイフで飛び移った後に縄を切っておく。氷で道を作ってくるだろう轟は少し遅れてくるからこれくらいの余裕はある。
(正直このステージに関しては下を走ってもいけそうだよなぁ)
万が一の救済措置なのだろうそこにマキビシでも巻こうかと思ったが、流石にそんなモノはない。大人しく全力で走って最後の地雷エリアまでたどり着く。
『さあ地雷原ゾーン!音と光とノックバックする地雷が埋まってるゲキヤバっぷり─足と目使って地雷を見抜いて動くんだよぉ!』
「よいしょっと」
当然踏み抜いて加速に使う。音と光とノックバックならそこまで体に後遺症はない─銃弾のような痛みすらないなら余裕で吹っ飛べる。
「もーいっかい!」
僅かに届かなかったので前転してもう一度点火。気分は完全にアトラクションを楽しむ子どもだ。当然ながら体はアーチの中に入り、ゴールテープが切れる音がした。
『さぁさぁ!まさかあんな宣言をして本当に勝ちに来る一年生がいたか!??いいや、いなかった!真っ先に危険へとつっこみ、リスナーの皆をわかせた可憐な少年!襲撃のケガなどハンデにもならないと名乗りを上げた1位は─』
『─雪和ボーイだぁ!クラップユアハンズ!』
暗闇から戻ってくる。万雷の拍手が会場の歓声と共に飽和し、好奇の視線が向けられているのがわかる。
「お母さん、見てくれたかな?」
そのまま待っているだけでは暇なので手持ちのナイフでジャグリング。上の風の様子も確認しておきたいのでしておく。
「えへへっ、上手にできたよ!」
2位の人が入ってくるのと同時に大きく投げて空中で柄を握って一礼。次の騎馬戦もあるから会場の期待は大きくあるだろう。
(ふふ、本当につまんない逃げ方をするつもりだけどね)
わざわざ響香お姉ちゃんと一緒にトーナメントに出れるのだ。騎馬戦くらいちょっとズルさせてもらおう。お姉ちゃんが戻ったタイミングでゲートに近づきハイタッチ。
「えへへ、1位とれたよ!」
「凄いね雪和。それで、騎馬戦って何か作戦があるんだよね?」
「うん。おそらを─飛ぶつもりだよ。お姉ちゃんには…」
お姉ちゃんに作戦を伝えるためにコショコショと耳元で囁く。周りに聞こえないようにするためとはいえ、身長の関係で抱きついてるのは少し恥ずかしい。
全部伝え終わると彼女は満足そうに頷いた。
「もしかして用意するためにトイレ行ってたの?」
「うん!それにお姉ちゃんならわたしたちのでも綺麗に演奏してくれるでしょ?」
「えへへ、もちろんだよ。事前に説明してあるからお姉ちゃんが使って大丈夫!」
今のうちに個性を発動させてとある状況を作り出しておく。
『皆準備はできた?始まるわよ!!3.2.1…』
全員からの視線が集中する─息を吸って覚悟を決める。左も右も前も後ろも敵しかいない。お姉ちゃん以外の味方は誰もいないのだ。
『スタート!』
「いくよ、雪和!」
イヤホンジャックとギター、その両方からの大音量。ライブ会場と変わらない体育祭の会場では音が良く反響して外へと飛び出していく。
すわ何事かと全員が身構える中、俺を見上げてぽかんと口を開けている。そりゃそうだ、上にしかいないんだから。
「お姉ちゃん、そのまま音楽よろしく!」
「任せて!張り切って演奏してくよ!?振り落とされないようにね!?」
「望むところだよ!!」
複数の音の波で体が浮く。1000万ポイントなんてバカげた狙いを定めるのなら、届かない空中まで逃げるしかない。
ゴキゲンなロックに従って体を泳がし、下の部分を見続ける。守ること以外考えなくていいので比較的楽だ。
『これはどういうことだぁ!?響香ガールが演奏して雪和ボーイが飛び上がるゥ!どうなってんだぁイレイザー!?』
『知らねぇよ。ただ面倒なのは演奏を妨害した瞬間に騎馬を故意に崩したってことで一発アウトになるってことだ』
「本当にウチの演奏を止められなきゃ勝ちだからね!」
『お喋りする余裕もあるレベルだぁ!姉弟そろって鳴り物入りのひよっこが場を荒らしていくー!』
やっている行動は至極簡単なことだ。普通にお姉ちゃんを見て音楽の波を受け取りに行かないと落っこちるようなそんなギリギリの綱渡りを進めていた。
「っと、危ない」
「流石に気づかれるか…!」
ジェット噴射で上に来た緑谷を避けて裏回しで下へと送り返そうとしたが、当然威力が足りない。ネタが割れたら普通に不味いからとっととケリを付けなきゃならない。
「まさか、君…!」
「お姉ちゃん、かき鳴らして!」
大音量が更に響き、体の姿勢が崩れかけるがなんとか維持して上空へ。ついでと言わんばかりに彼の鉢巻を奪い取ろうとしたが不可能だった。
(んで上に行った以上は絶対に俺を捕まえられないんだよなぁ)
「待て!」
「俺は勝手に動かされてるだけだっての」
上昇する風に合わせて体が浮き上がる。もはや体が外に出かけるレベルまで来ると、響香お姉ちゃんのロックが聞き取れなくなってしまった。
『終了!競技場の外の人も戻ってきて…いや、普通はこんなこと言わないんだけどね?』
「…ふぅ。ならやっとこさ個性を解除してよさそうだな」
《あくまでジャック・ザ・リッパーは霧の中にいた殺人鬼である》
《よってジャック・ザ・リッパーの肉体が霧と同じ密度なわけがない》
このまま勢いよく落下するなんてことはしない。ちょうどいい騎馬があったのでしがみついておく。
「よ、緑谷。正直降りるのがとんでもなく大変になりそうだったから助かったぜ」
「えーとさ…なんでここまで来てたの?」
不思議そうに尋ねられるけど、緑谷が自分で辿り着ける範疇の個性だろう。悩んだけど言わないで誤魔化しておくことにした。
「お姉ちゃんの演奏のおかげ、とだけ言わせてもらうよ。愛の力は偉大なのさ」
ふざけ散らかしたウインクと共に飛び降り、お姉ちゃんの近くへと着地。
ただ彼女に飛び込むところに─誰かが湿度のこもった目で見ていることに俺は気づけなかった。
やったこと
体の密度を霧と同じ密度にする→お姉ちゃんの音楽で上に飛ばされる→そのまま逃げ切りを狙う