オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
「いやぁ…ここからってきついにも程がないか?」
控室で誰もいないとわかっているからこそ大きく愚痴を零す。初手から緑谷とやるってなると体力の消耗が激しくなって次の戦闘とかできなくなるかもしんないんだよなぁ。
(いやまあ無個性vs無個性ならこっちに軍配が上がりそうなんだけどなあ)
それでもあのヒーローオタクなら体の動きを分析するなりして貪欲に勝とうとしてくる。自分の普段のスタイルとは違う戦い方であるだけ不利なのには変わらない。
「もとが不意打ち暗殺上等みたいな攻撃ばっかり狙ってたからしょうがないんだけど…いやまぁ勝たなきゃいけないんだよな」
その後も強敵揃いだとわかっている以上、負けるわけにはいかない。頬を2回叩いて1回戦目の準備をする。
せっかく緑谷とやれるんだ。思う存分勝ちに行こうじゃないか。
『ヘイエブリバディ!一年生の選りすぐりのひよっこの大バトル─晴れ舞台のトーナメント!多くの同級生を差し置いてこの場所に駒を進めた16名が行うバトルを是非楽しんでいってくれ!』
人に見られているという緊張感。テンションの高い会場の中に堂々と歩かなきゃいけないと恐怖がある。
「…関係ないな。ヒーローならここは笑うべきだ」
手元にあるボタンを押してプレゼントマイク先生に合図を送り、軽くスポットライトが当たって照らし出される。
『さぁさぁ初戦から大本命!最初の宣誓から絶えず成果を出してきた傑物!未だに個性が不明なエンターテイナーは、果たしてどこまで上り詰めるのか!』
『赤コーナー!雪和ァァァ!』
「…恥ずかしいよ」
『対峙するのは同じく個性を殆ど見せていない!地味ながらここまで生き残っていたヒーローのひよっこは番狂わせを行えるかー!?』
『青コーナー!出久ゥゥゥ!』
「負けない!」
『用意─スタートォ!』
前傾姿勢で攻撃する─振りをして直前で静止。一瞬だけ彼の体が前に出たのを見計らって絞め技。
「大人しく気絶して!」
「そんなこと…できないっ!」
地面が強く抉れて体が空中に浮き上がる。共に浮遊しているのなら彼を突き飛ばせばいい。そう判断しようとした俺はビリビリとした体の暴走を見て咄嗟に更に上へと避難する。
「いっ…たいなぁもう!」
「そりゃ僕だって一緒だ!」
そのまま地面へと着地するが、一足先に落ちていた緑谷が横っ飛びにくる。試合コートの外に出ないようにしゃがみ、そのまま柔道の要領で突き飛ばしにいく。
「…くらえ!」
「あぶないよ?」
デコピンを狙ってきた緑谷の顎をアッパーカット。そのまま意識を刈り取ったかを確認する前にサマーソルトで場内に戻る。
「…やったか?」
そのまま外へと崩れ落ちるのを確認し、審判からのジャッジが下るまで待機しておく。これでゾンビみたいに起き上がってきたら止まるまで殴るのをやめないってやらないといけないからな。
「…そこまで!勝者、雪和」
『どこまでも実力を隠す隠す!もうこのまま無個性のまま全部勝ってほしい!勝ったあとも余裕綽々な彼に盛大な拍手を!』
声援を受けているけど、その前に緑谷の体調を確認したい。彼のもとに駆け寄ってみると、明らかに限界を超えて動いている。
背負って保健室まで連れて行ったほうがいいのは明白なので肩を貸し、小さい体で運んでおく。
「…すいません、治療お願いします」
「おやまぁ、随分ボロボロだねぇ。アンタが負けたのかい?」
「あ、勝ちました」
リカバリーガールのいる部屋まで連れて行くと飴ちゃんがもらえた。その場で口の中に入れて転がしつつ、緑谷がどうなのかを確認してもらう。
「…っと、後オールマイトさんいるんでしょ?俺はわかってるんで出てきてもいいですよ」
「ハッハッハ!素晴らしい試合の後に慰めようとして私が来たぁ!」
「いや、あの…トゥルーフォーム知ってるんで…」
謙遜しながら言うととても驚かれた顔で固まっている。緑谷と校長先生あたりには言っていたけどまさか生徒に見抜かれているとは思わなかったんだろう。
「…済まないが黙っておいてもらえると助かる」
「えぇ、もちろん。平和の象徴にはまだまだ立っておいてもらえないと困りますから…無論、継承者の彼にもね」
言葉を言い切った瞬間に喉を掴まれて上に上げられる。下手なことをしたらこのまま殺されるというのはよくわかっている。
『自分はジャック・ザ・リッパーである』
『ジャック・ザ・リッパーは不死身である』
『自分もまた不死身である』
一応念のためにバフをかけてから彼に話しかける。
「それは、どういう意味だ」
「いやいや、同じような個性を持ってるから新しい平和の象徴にしようとしてるんじゃないんですか?オールマイトも自分が象徴である内に代わりがいることを示せたほうがいいって思ってるのかなって…あの、なんで首しめられてるんですか?」
「やめな、俊典」
リカバリーガールがコツンとオールマイトの頭を杖で叩く。
「アンタ流石に警戒しすぎだよ。少なくとも身寄りのない少年相手にガン詰めしてどうするんだい」
「しかし…」
「しかしもなにもないよ。少なくともアタシの目の届く場所で殺し合いなんてやめとくれ。…雪和、悪かったね」
「いや…こちらこそ不用意に踏み込んでしまってごめんなさい」
素直に頭を下げる。今このタイミングでオールマイトに謝らないと確実に話が拗れるし、それ以上に首の圧迫が酷い。
「ほら、ちょっと首見せな。俊典の馬鹿力だから下手な跡が残ってないか心配なんだよ」
「いや、…もう遅いです」
グシャリ。力が入り続ければそりゃこうなるよねって感じだ。首と胴体が泣き別れすると、明らかに慌てた様子で二人が駆け寄ってくる。
「そんな気にしなくていいですよ。それより首離してもらえると助かるんですけど」
「い、生きてるのかい…?」
「いや、驚いているのはわかるんですけど速くしてもらえると助かります」
素直に離してくれたのですぐに繋げる。蘇生が速かったからなんとか細胞が壊死せずに済んだ。なんとか首の部分の肉を繋げて普通の形に戻すと、オールマイトから妙な目で見られる。
「てことですよ。一回死んだんですから次から気をつけてください」
「君はいったい…?」
「んーそうですね。裏社会で10年ちょっと生き抜いただけの生意気なガキですよ」
体の端が崩れ落ちないように支えながら不死身から戻す。相変わらず不死身って使い道が限られるから不便にもほどがある。
「そんな訳でもうそろそろ次の試合があるのでお暇させてもらいます。流石に公衆の面前で死にたくないので気をつけますよ」
当てつけのようにそう言い残しながら黒いボロを羽織る。首の絞め跡が残っているかどうかはわからないのでまた一つ考慮しないことが増えてしまった。
(しょうがないとはいえ、どうにかならないものかねぇ…?)
頑張ってしないといけないことが増えたが、次は轟とのバトルだ。炎を使ってこないとはいえ、氷で霧の作り方を制限されるのが困る。
「まーなんとかなるでしょ、たぶんね」
ふと控室にあるテレビを見ると、お姉ちゃんが勝っている姿があった。
…決勝でやりたいなぁ。
ちなみにオールマイトが首を折ってしまったのは元々の体より脆い状態の体に力を加え続けたからです。
血が出ないでポキって首から下が落ちるってある種のホラーですね()