オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
ボク─死柄木全にとって大切なものは妹だ。
クズったれで一人では何もできない、愚かで可愛い妹。ボクの中にあった唯一の自分のモノと判断してからは、それはもう大切に可愛がった。
『与一、ねぇ…じゃあ死んでくれ』
だからこそ目の前で殺されたときには随分腹がたったし、その癖してボクの下から個性としても逃げていってしまった。もっと大切にするべきだったのかもしれないと後悔した以上、次こそは誤ちを侵さないように真剣に取り組むべきだ。
(逃げられない、逃がさない、そして何よりボクのことだけで満たされてもらう)
どうせ個性を使い潰してまで延ばしている寿命の中、たくさんの強個性を奪い取った。それはもうボクの信者だったり、使えなくなる寸前のヒーローだったり様々だ。
(これでボクには誰も逆らえない)
そう確信しながら次の継承者も殺す。そうしたらまたワン・フォー・オールが引き継がれていく。そのいたちごっこを何度も何度も繰り返していく内に、遂に妹は無個性である人間にまで渡った。
(ここまで追い込んだということは、素晴らしい悲劇が起きるだろう。はたまた、ボクを殺しにくるのかな?)
誰が受け継いで逃げていくかはこの目でしっかりと確認したし、ボクの計画に邪魔をできるほどの権力も個性もない。
ボクは連綿と妹が引き継がせた意思を尊重して放っておくことにした。いや、むしろわずかに成長していくほうがよりボクを興奮させると思ったのかもしれない。
(結果は微妙だったがね…)
待った割にはそれほど手痛い損害でもなく、たかだかボクの組織の2割を消し飛ばされた程度だろう。平和の象徴と呼ばれているのならもっと被害を出してもらってもよかったのに。
「でも中身は悪くない。彼がいたからね」
最も、今のボクにとって重要なのは妹の意思ではない。アレはどうせ放っておいても挑んでくるだろうし、その時に摘んでしまえばいい。ボクに勝てるはずもないのに探し回っていてご苦労なことだ。
それよりも彼のほうが大切だ。あんな真っ直ぐで純粋な殺意。
(一体どこで恨みを買ったんだろう?いいや、そもそも恨みも何も関係ない殺意かな?)
ボクが感知できないような個性と感知させない物理的な攻撃だけ。なのにボクのヴィラン名を当ててくるほどボクのことを知っている。
「…いいや、重要なのはそこじゃないんだ」
でもそんなことでボクは動じるほどこの個性世界を生きているわけじゃない。ボクが間違いなく気に入った理由はあの瞳だった。
ただ勝てないとわかっていても憎悪することを止めない瞳。ボクを殺すという唯一の希望に縋ったあの光が、ボクの中で爛々と輝いている。
「罪な男だよね。まさか初対面に恋人同士なんてセリフを使うとは思わなかったよ」
あくまで戦闘において相手の隙をつくために吐いた言葉─不思議なことに、先に戦っていたあの男よりも言うまでに時間がかかってしまったし、どこか彼のことを意識しただけで体が火照ってしまった。
「ボクのことをどう思ってくれてるのかい?」
初めからボクの声を想定していないあの動きの中にボクの癖を観察し続けていた努力の痕跡が見えた。普通なら遠距離攻撃なんて負けるということがわかっているのにその全てを避けるだけに留めてこちらへと向かってきたときには驚いた。
「いやはや、そんなことを考えても君の答えは決まっている。『とっとと死ね』と返されるだろうね」
淡々とこちらに向かってくるだけだというのにときめいてしまったせいで何度も何度も殺せる機会を逃してしまった。でもどうしょうもなく努力している彼が愛おしくて手を止めてしまった。
その内彼の個性を欲してしまったのは仕方のないことだろう。ボクは癖として染みついていたソレをつい彼にしてしまったのだ。
(でも、その後が素晴らしい。ふふ、あんなに真っ直ぐボクのことを見抜いているとは思わなかったよ)
手をギリギリのところで阻んでまでボクのことを殺しにきた。一歩間違えれば自分の個性がなくなっていたのかもしれないのに、だ。
もちろんボクの個性を彼は知らないかもしれないので、ただの遠距離が至近距離で来ると思ったのかもしれないが…女の勘が間違いなくわかった上で殺しにきていたと叫んでいる。
「ふふ、そこまでしてボクを求めてくれるなんておもわなかったよ」
体の臓器以外を傷つけるだけに留められた刺し傷が鈍く熱く痛む。彼の死体の前でどうしようもなく喜色の笑みを浮かべてしまう。
(君なんだ、君が始めてなんだ)
あぁ、いけない。きっと死んでいるだろう彼が生きていて殺しにくると考えるだけで心臓が強く脈打つ。
もしソレをへし折ってボクのことしか見られない人形にできても素敵だ。彼の子どもを孕むためだけの肉として使われるのもまた面白いだろう。
だが、だが。
(…やはり、彼はヒーローとしてボクを殺してほしいな)
彼はどこまで世界を歪めれば来るだろうか。でもあの死に方をしたから蘇るのに時間がかかるだろう。
ふふっ、妹にこの顔を見せたら笑って手伝ってくれるだろうか。
「愉しみだ。ああ、当に愉悦だとも」
何年も生きてきて感情がまとまっていない気持ちになるのは始めてだ。どこまでも愛おしくて愛おしくて妹と共に抱きしめたくてたまらない。
浮かれた気分のまま死んだ彼の体にキスをしてその場を立ち去る。
「殺しに来てくれよ。