オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
「さあ、ヒーロー名を決める最初の人は!?」
授業でヒーロー名を決める。下手に最初の人がふざけると後が大変になるタイプの授業に全員がピリッとした雰囲気になってしまう。
「んじゃ俺からいかせてもらいます。どうせふざけた名前じゃなきゃなんでもいいんですよね?」
「ええ。雪和くんに限ってそんなことはないと思うけど…一応ね?」
「わかってますよ」
元々決めていた名前をボードに書くだけだし、そこまで困ることもない。二つくらいの意味はあっても重要なもんでもないし。
「
「なるほど。意味はあるのかしら?」
「誰もこの社会から取り残されないって意味です。ヴィランでもヒーローでも一人ぼっちは寂しいでしょう?」
冗談めかして表向きの理由を話す。シンプルなこの言葉を疑うような人は誰もいない。唯一少しだけ驚いていたのは緑谷くらいか。
(もしかしたらワン・フォー・オールを知っているとでも思ってるのかね。確かに知ってはいるけど…推理しても結論にゃ辿り着けんだろう)
オール・フォー・ワンに対するあてつけ、という側面のほうが強い。全ての中の一つを目指すヴィランを殺すつもりならこれくらい傲慢にならなきゃ勝てはしないだろう。
気持ちだけでも強く保ちたい。そんな思いでつけた名前だが、ちゃんと意味は通っているからいいはず。
「ええ、ならいいわ。こんな風にシンプルな名前にしてもヨシ、そうじゃなくとも覚えやすい名前を意識してつけなさいね」
「終わったんですけどどうすりゃいいですか?」
「そうね…インターン先でも決めておいてもらえるかしら」
渡されたインターン先は普通に選ぶ方向など存在しない。一瞬で手を神野の近く─正確には、ヒーロー事務所『義侠』に添える。
「ここでお願いします」
「えっ…速くない…?まさか最初から決めてたの?」
「ちょっと昔の記憶でも辿ろうかな、と思いまして。ルーツくらいは覚えておいて損はないでしょう?」
実際に彷徨っていた場所ではないと思うけど、俺も俺で適当な理由をここにくっつけるのは面倒なのだ。『スレ民から言われたからここにしました』なんて言ったらふざけるなと怒られるのは明らかだ。
「せっかくなんです。お姉ちゃんと一緒にいなかった分の過去まで思い出せれば、何か皆に伝えられることがあるんじゃないかなって」
ここから変えるのは嫌だし、そもそも他の場所に行ったところで自由に動けなければヴィランとは会えない。そういう意味だと、この義侠というヒーロー事務所はうってつけだった。
程よく周辺の治安が悪い。
程よく人間が少ない。
もしかしたら、くらいの祈りを込めて送られてきた事務所。
行った先で何があってもよいことに転がるだろうな。神野に降って湧いた幸運だ。
「なら何も言わないわ。次のときにはまた変えられるから…後悔しないようにしなさいね」
「ふふ。自分の意志の選択ですから後悔なんてしてませんよ」
どこまでも自分勝手に他人を振り回しているのだ。
せめて─誰も巻き込まれないで死ねることを祈るばかりだ。
そしてやってきた義侠。バーとして使われているそこには、思いっきり5年前に会っていた顔があった。
「…よう。お前のことをなんて呼べばいい?別にどっちでもいいぜ?」
「知るかよ。今はノーワンで通ってる」
義爛。うん、もの凄く見覚えがある。この場所は確かヴィラン陣営のキャラが初めて紹介されるときに使われてた。
(うわー普通に一番近いからってこんなことになるとは思わなかったって。俺にどうしろってんだよこの状況)
少なくとも義爛は俺のことを見抜いているようだし、諦めてドカッとバーテンダーに座る。染み付いたタバコの匂い微かに匂うアルコールが長いこと使われていることをよく示していた。
「いやさ、この後世間を騒がせてるとある人物と面談するんだけど一緒にくるか?」
「バレたら一発アウトだって自覚あんのかこの闇ブローカー。真っ当な人生になるためにわざわざ転生してんだぞ?」
「ならもう一度転生すりゃいいだろ。裏切って裏切られる世界に他人との繋がりなんざ重要視するアホはそんないねぇ」
あいも変わらずタバコを吸う義爛。未成年の体に匂いがつくと厄介だが、この男がそんなことを気にしているわけもないので無視するより他にない。
「せめて会うとしてこの事務所の空間だけだ。…あんまりヴィラン側と会うなんざしたくないんだけどな」
「おいおい、冷たいこと言うなよ。俺が呼ぶのはお前が会いたがってたかもしんない人物だぜ?」
ピュゥっとわざとらしく口笛を吹いておどけられる。一々煽らないと済まない性分なのか、それとも単に俺の神経を逆撫でするような人間なのか。
(どちらにせよ気になる言い回しされたねぇ…いやまぁ会う以外の選択肢はないんだがね?)
ヴィラン陣営と会う貴重な機会だが逮捕されたくはない。最も俺の場合はまだ言い訳ができるかもしれないけど。
「お尋ね者にならないようにしろよ。どうせ俺の情報売って金儲けできたんだろ?」
「金儲けはできたぜ。けど俺に対する依頼がお前へと会合ばっかだったから情報屋としては商売上がったりだ」
「…ほざいてろ。ブローカー」
「それだよそれ。ここまで大物になるとこんな軽口にまで乗ってくれなくなるんだぜ?」
5年前くらいの人を一人ひとり厳選する作業が楽しかった、とボヤく。本心で言ってるのかどうかはわからないが原因は間違いなく俺のせいだと暗に言いたいのだろうか。
「で、『彼女』には言ってないんだな?」
「もちろん。寧ろ今から連絡するか?」
「しねぇよ。裏社会でなんて呼ばれてんのか知ってるし」
オール・フォー・ワンにかけるために持ってきただろう元々俺が持っていた携帯を差し出してきた。結構血塗れでボロいがまだ使えるソレ─今は開くことすらもしたくなかった。
「…そういやノーワン、なんて呼ばれてたか知ってる?」
「たかだか対象を傷つけて逃げをかました情けない暗殺者」
「その対象がわかってんのに非難できるやつはお前くらいだよ」
別にオール・フォー・ワンなら暗殺されるくらいのことは山程あるし気にすることでもないと思っていた。というかあの年まで無傷の時点でおかしいだろ。
「あんたは5年前から
「え、名乗っといてオール・フォー・ワン殺せないアホいたん?あともしかして俺厨二病になってる?」
「安心しろよ。三十人が殺されてからめっきり噂は聞かなくなった。今じゃ与太話程度まで落ちてる…けどまぁ、存在そのものは知られてるって感じ」
へぇ、と相槌を打つ。都市伝説もどきとはいえ有名になっているとは思わなかった。
「んじゃ、明日からこの店のスタッフとして働いてもらうぜ。接客業くらいなら任せても問題ねーだろ」
「体育祭3位に対して随分ザルな仕事だな」
「るせぇ、地道な社会奉仕もヒーロー様の仕事だ。そこの部屋でとっとと寝てろ」
悪態をつきつつも用意してもらった自分の部屋へと入る。普段から誰か使ってるのだろうか、僅かに灰がある以外は普通のワンルームだった。
(さて、とっとと明日に備えますか)
ベットの上で目を閉じれば疲れが軽く押し寄せる。抗うことはせずにそのまま意識を落とした。
隠していることがあると人は早口で話すってこと(唐突)
隠していることのヒントは響香お姉ちゃん