オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
部屋が開く。白い光が軽く入ってくると同時に、懐かしい青の炎。昂ぶっているのを抑えている笑みはどこか嬉しげだが、自分の炎で体を焼かないように配慮していた。
「…よう。久しぶり、センセイ」
白髪の誰かから声をかけられる。水色の瞳と血塗れの体。別のなにかを幻視しながら俺は口を開く。
「キッショ。なんでわかるんだよ」
個性を使う。あの時の体を作れるかどうかはわからないが一度だけやってみる価値はあると思ったからだ…まあ、その前にやらないといけないことがあった。
「ちょっと待ってろ。自分がわかんなくなるから」
「センセイと久しぶりに会えたんだ。少しくらいは全然待つ」
パシャっと自分の体の写真と身長・体重を書き記したものを用意しておく。下手に戻れなくなったらまた何か事件が起きないといけない。
『自分はジャック・ザ・リッパーである』
『ジャック・ザ・リッパーは自分の体を変質させることができる』
『よって自分も体を変えることができる』
バキボキと骨がネジ曲がって急激に体が変形する。砕ける音と共に肉体の内臓の位置も変化していく。ほんの数秒程度で体が5年前に生きていたときへと遡る。
「ふぅ…こんなもんでいい?普段からやらないからこの変質もダルいんだよな」
「あぁ。さっきのままでも俺的には構わなかったが…センセイが昔に戻るとなおさら実感が湧くな」
言葉を発する口にあるケロイド質の皮膚もそうだし、いくつか培養した皮膚も彼にしっかりとくっついていて無事に生きながらえていたみたいだ。
「生憎と俺はこの姿じゃいられなくなってんだけどな…逃亡生活のついでに学校にいってんだ」
「センセイが学校?教える側でか?」
「全然教えられる側だよ。俺はほら、自前の個性で医療はなんとかしてたから」
近況報告みたいな会話だが、彼の目から少しばかり血が流れている。涙が出なくなっているせいなのか痛々しい。
「ほれ、せっかくだからもっかい見てやろうか?こんだけ月日が経ってりゃ死んでてもおかしくない体だろ?」
「…今回もサービスよろしく、センセイ。俺の体をちゃんと治してくれよ」
「治しはしないって言ってんだろうが。ほれ、ちょっとそこのベッドの横たわれ」
嬉しくてつい何度も笑ってしまったのも仕方のないことだろう。別に今から義爛が用意してくれた部屋から出て彼の体を診察してもいいが、こういうのはノリが大切だと知っている。
(久しぶりだから麻酔をかけて…っと)
どうやら荼毘の体が焦げていないかヒヤヒヤしていたが、そんなことはどこにもない。寧ろ霜が体の中に発生している始末だった。
「どうなってんだよテメーの体。灰になった次は氷結で壊死するつもりか?」
「氷結…?ンなもん、ないはずじゃ…」
「いいや、多分個性。なーんか体の皮膚の様子がよかったのはこれのおかげか」
皮膚の接合部分にある紐は凍り、確実に離れないようになっている。ここまでやってあるならもう殆ど大丈夫だろう。
「ってか俺も見る必要ないくらいには身体が問題なくなってんな」
「センセイ…?」
「少なくともテメェの保護者みたいなもんをやめるつもりはねぇ。けど…一人でよく頑張ったな」
火を抑えるのも大変だっただろうし、コイツのことなら誰かを焼き殺していてもおかしくない。ただ無事であっただけ素晴らしい、というべきだろう。
「縫合は終わった。もし泣けるようにしたいとかなんとかあるならまた定期的にやるからな?」
「あ〜…じゃあ泣けるようにしてほしい。この皮膚の外見を変えないでできたりするか?」
「涙腺ごと焼ききれているなら面倒だけど…まあ努力はするよ」
ちゃちゃっと治したりできないような難題ではあるが、これでも凄腕の医者であるならできるだろう。外科結びで縫合していた跡を閉じ、血まみれになったシーツを横に片付ける。
「ほれとっとと義侠に行くぞ。まさか今日休みとか言うんじゃねえよな?」
「休みだよノーワン。まさかウチの従業員の一人治療してくれたヤツにそのまま働けなんて酷なこと言わねぇよ」
後ろのドアにもたれかかるようにしてタバコを吸う義爛。5年前のときよりもキツイと感じるような匂いが肺を満たしていく。
「ほれ、午後はお前ら二人で遊んでこい。もしできるならこの依頼者を生死問わずになんとかしろ」
「俺は殺しはしねぇが…荼毘がやんならって感じだな」
渡されたのは裏社会での秩序違反を繰り返してドラッグを売りさばいた主犯のリスト。殆どのリスト上の人物に黒線が引かれ、残っているのはたった一人。
そして大体、裏社会において敵討ちの可能性があるなら根までぶった切るのが通例だった。俺はそういう類でも金を払うのなら客として治療してやったが…まあ、末路は察する。
「センセーと行くなら生きさせたい。アンタはそうしないほうが都合がいいだろう?」
「まぁ、職業体験的には助かるな。3位なのに何の成果も得られないで帰るなんて嫌だし」
「…オッケ、ならそういう風に組んどくわ。ノーワンはちゃんと高校生の身体になってから行けよ?」
誰かに見られたらオール・フォー・ワンに捕まるぜ、と冗談めかされる。相変わらず抜かりのないやつである。
「でも義爛が通報する分にゃなんも言わんよ。そうなったら荼毘を追手としてここに配置しときましたくらいの言い訳は通じるだろ?」
「お優しいこった。やるとしても職業体験が終わってからだな─あ、じゃあ今のうちにお前の顔写真撮っとくか。そんだけでもだいぶ金になるからな」
懐から取り出されたカメラで何度も何度も撮られる。ぶっちゃけ誰に売るかは知ってるし、正直ふざけずに撮られているだけ感をよそおっておく。
「あ、別に学校に送る分もあるからこっち向いて笑顔でピース頼む」
「なんつー依頼を学校から受けてんだよ」
言われたもんはしょうがないので軽く血がついた状態で笑顔のピース。荼毘は隣で映らないように体を丸めてベッドの下に入れている。
(猟奇的殺人犯…いやうん、ジャック・ザ・リッパーとしては適切なんだろうけどね?)
ヒーロー活動としては余りにも血生臭すぎるが、そんなもんでしかない。どうせイレイザーヘッドが送られて困惑する程度だしいいだろう。
「ほれ、じゃあ行ってこい」
渡されたのは新幹線のチケット。ご丁寧に行き先まで用意されている2枚は、恐らく義爛が行くために用意していたもの。
(…ありがたいな)
その善意に感謝しながら、荼毘と共に服装を整えてからそこへと向かうのだった。
「ほら、お望みの品だ。わざわざ俺に頼むほどのものかい?」
ボクは彼の居場所を教えてくれたブローカーからたくさんの写真を受け取る。今の彼と昔の彼が同じであると決定づけるため。
(…やれやれ、どこまで心配性なんだか。ボクも熱に浮かされているということかな?)
今はまだ彼と直接戦うことは避けたい。彼なら気づいているだろうけど、モラトリアムくらいはあっていいだろう。
「終わる前もこの調子で写真を頼むよ。一枚ごとに二万だそう」
「レートが合ってねぇよ。二千でいい」
ブローカーからしてみれば彼の写真を撮ることなんて容易そうだけど、なぜこんなにも値段を下げようとするのだろうか。
(ひょっとしてボクが会ってもおかしくないようにしてるのかな?それもまた一興、面白いものなんだけど)
彼と会うのはもっと先。もっと場を整えてから迎えに行きたい。
「でもノーワンか…ふふ、ボクにはわかるよ。君がどんな風に思ってくれているのか」
彼のヒーロー名を口に出しながら、彼の写真に口づけする。
アルバム1面を埋めるには、まだまだ足りなかった。
今作のメインヒロインより先にデート回をする荼毘(24)
この場を借りて。
ランキング載る前に読んでくださった方、ランキングに載ったことを契機に読んでくださった方。
どちらも拙作を読んでいただきありがとうございます。
感想と評価さえもらえればまた暴走列車のごとく書き進めるので応援よろしくね!