オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
俺─荼毘にとってはセンセイとはどんな存在か。
(なんて言えばいいんだろうな…恩師では確実にあるわけだが)
辛うじて生きていた肉体を人並みになるまで回復させ、現代医療がさじを投げたような俺が常人として生活できるようにする。個性が常態化した世界において患者一人に寄り添える人間はどれだけいるか。
(まあ少なからず医者としての個性かなんかなんだろうな、って予想はついてる)
なんせ闇医者としては違うとあーだこーだ言いながら人を平等に助け、死体には敬意を持って弔う程度はしてくれる。裏社会において中々に貴重な存在。
センセイは知らないだろうけれど、アンタッチャブルはもともとセンセイについていたヴィラン名だった。
(本人がどう思ってたかは知らないけど、俺らは少なからず暗黙の了解としてあの周辺地域での抗争は避けてた)
「そういやセンセイってさ、俺の名前って知ってるの?」
「…知らない、ってことにしとくか。荼毘は俺の中じゃ荼毘で通す」
訳知り顔を隠そうともせず、こちらの追求に対して笑って返してくる。センセイが俺の事情を理解した上で治療をしていたのは確実だった。気恥ずかしくて伏せる体勢になる。
ーーー
(なんでそんな優しいのか、とか怖かったんだよ)
山火事の後、大人はどいつもこいつも実験動物か珍しい患者を見るような目で俺のことを見てきた。もともと義爛だって興味本位で拾っただけらしい。
『炎系の個性、か。定期的に治療は受けさせてやるから俺のところで働け』
12の頃から人を焼き始めた。昔はボロボロの炭になるまで焼こうとして加減を間違え、自分の指まで焦がしてしまったんだっけ。確かそんときにセンセイと出会ったことは覚えている。
『おい義爛、てめーなんでこんな子ども拾ってんだ。…はぁ、とりあえず命とか静脈とか諸々繋げるから待ってろ』
手術されるときは最初から変わらない景色だった。俺を上から見つめてきて、僅かに黒い髪が帽子の下に見え隠れする。手先が近づいていることに気づかせないように慎重に位置取りしていたことに気づいた。
(誰だコイツ…?)
正直体を切られていい気はしなかった。手術だからと念押しされて動いていなかったが、もともと俺は好戦的な性格だった。
威嚇のようにセンセイに近い部分から少しだけ発火させると、特段驚いた様子もなくすぐに炎を消しにいった。一瞬で鎮火するような燃え方はさせていない。こちらの方こそ虚をつかれてマゴマゴしていると、センセイから言葉が聞こえてきた。
『ちょっ、ごめんな?麻酔が効いてなかったのか…ってか義爛、お前もしかして説明とかしてない?』
『する必要がなくね?』
『バカなの?今この状態から説明するって相当頭おかしいよ?』
混乱しているセンセイが俺の頭を少し触る。突如として襲ってきた鋭い眠気に耐えられるはずもなく、当然眠ったのだ。
ーーー
「…おい、起きろ!?」
「なんだ、もうついたのか?」
いつのまにか寝ていた状況に、パシャっと水をかけられたせいで意識が覚醒する。先程まで新幹線に乗っていたというのに、どこか外が見えているのはなんでだろうか。
「違う、敵襲だっての!!」
見慣れない彼の白髪。切羽詰まっているほどの事態とは思えなくて、つい笑ってしまう。そんなことで恐れるような戦闘力を持つセンセイじゃないのに。
「位置11時の上方向!」
「はいはい…っと」
言われた通りに従えば消し炭になって落ちていく異形がいる。そういやどっかの裏社会の抗争員が仕入れたとかで自慢してたっけ。
「とりあえずセンセイを守んないとなぁ」
「ほざけ、青二才!俺のほうが圧倒的に強いんだよ!!」
そう言い切った矢先に、壊れた新幹線の先からわらわらと構成員が出てくる。どうやらあの写真のやつは意地でも俺らから逃げたいらしい。
「義侠にビビってこんだけ集めたのかねぇ?その変どうなの荼毘?」
「そりゃ俺達だってヴィラン側の一種の自浄作用だからな。センセイみたいに秩序を持って動ける人間じゃないのさ」
体の中で炎を出そうとして止める。ここで暴れるとなると火は流石に目につきやすい。センセイが見つけてくれた霜の個性の実践がてら戦闘しようじゃないか。
そんなことを考えていることを見抜かれたのか、センセイからくるりと振り返られる。いつのまにか手にナイフを持って投げる体勢を整えている。
「…その能力でやってもいいけど俺はどう動きゃいい?なんか要望あるならやってやんぞ?」
「いや…集中してやってみるから危なくなったら合流する形でいこう」
「あいよ。こうやって相手を気にしなくていいのはいつぶりだろうねぇ」
体育祭のときには手加減しなきゃいけなかった、と語るセンセイ。義爛から聞いた話だと『生死問わずなら間違いなくセンセイの優勝』らしい。
それが間違いないことは、今目の前で証明されていた。
「ほらぁ、頑張れ?もう少しでわたしたちにかすり傷おわせられるかもね…?」
無数の投げナイフが飛び散っていくと共に相手が用意したチンピラや数合わせの弱いヴィランが倒れていく。恐らく足や手首の筋を狙ったのだろう。
(俺の相手はこのデカブツってわけか…)
体に霜を這わせるようにして、周囲に冷気を作り出す。一瞬に凍るわけではないが、再生が遅い個体ならこの程度で充分だろう。
「せっかくだ。凍った炎でも喰っとけ」
口を片手で開けて手から冷気を纏わせた炎を突っ込む。下手に温度を上げるよりこっちのほうが辛いだろう。体の内側が少し暑い。
「地獄の炎のお味はどうだ?」
「お、もしかしてやれた?ならコイツをとっとと義爛のとこまで連れてけば解決か」
かわいいセンセイがズルズルとロープで引きずってきたその巨体は顔もターゲットと一致している。念のために火で炙って起こしてあっているかを確認する。
「おい。まさかテメェ、裏切っといて逃げられると思ってんじゃねぇだろうな?」
「ヒ、ヒィッ!?ちが、ち、違いま、」
「もう黙って捕まっとけ。命乞いも言い訳もヒーローの前でするべきだからな」
そう言って頭を殴って気絶させる。この程度で倒れるような奴はやはり裏社会で生き残れるようなやつとは思えない─狡猾でも、屈強でもない。
「にしても随分成長したな、荼毘。あんたより経験してると思ってたが全然負けるよ」
「…お褒めに預かりどーもです、センセイ」
素直な1人分の拍手が辺りに響き渡る。純粋な瞳を向けられる、というのはやはり体に悪いものだ。ましてや尊敬するべき人間からなら尚更。下腹部が妙に熱い。
「まあこんくらいなら義爛に車出してもらうか。あいつ流石に持ってるだろ」
義爛が来てくれることにホッとした俺は、センセイが投げたナイフを回収しに行く。万が一でも痕跡が残っていると嫌だから、と考えて。
(センセイに褒められたなぁ)
自分の感情と連動して火照る体を沈めながら闇の中に光るナイフを探すために走り出した。
気づいてるのかなぁ、センセイ。
俺が泣けるようになりたい理由を。身体全身から目を逸らさせたい訳を。
(いいや、まあ気づいてるはずもないか。こんな変化の仕方、後天的な個性のせいだからな)
『焔』。父さんからもらった、火力の出し方だけを追求した個性。耐えれるように残っていた体の皮膚が進化した。
『霜』。母さんの個性であり、出てくるとは到底思えなかった2つ目の個性。それに合うように体が徐々に変化していく。
さっき一度使っただけで副作用が出過ぎていると初めは思った。しかし体の一部だけに火が集まることがなかったのを何よりも知っている。
つまり─
(──
センセイが気づいたらどう思うだろうか。
驚いてどちらになるのかを聞いてくるのだろうか。どこまでも優しいセンセイならやりかねない。
「正直に言えばどちらでもいいんだよなぁ、コレが」
センセイの近くにいたい、とは思う。最も自分のことを見てくれていて、最も俺が俺らしくいていい空間だから。
父への復讐を完遂したい、とも思う。本来なら死ぬはずだった俺を生かし続けていた唯一の動力源だったから。
どう悩んでいても答えは出ない。センセイが使っていた血塗れのナイフを手の中にしまう。彼の血だったら舐めていたのに─なんて、思った時点でもうダメだろう。
(責任取ってくれよ、センセイ。俺はもうおかしくなっちまった)
一応本編のラストバトル辺りで個性を持つことによる進化の描写あったから行けるやろの精神
でも12歳から7年間面倒見てくれたスパダリの天才医師が5年間いなくなった後に「俺がいなくても頑張ってた」って昔と同じ表情で褒めてくれたせいでコロッと堕ちるようなチョロインなのが悪い
つまり荼毘ちゃんが悪い()