オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
条件:『大山鳴動して鼠一匹』の際、起きた時に隣にいたのが「耳郎響香」ではなかった場合
分岐による変化:『雪和と耳郎響香の関係が単なる友人に近づく』『雪和がヴィラン襲撃を考えて一人暮らしを始める』『安価によって誰か一人他の人がいるような家にしている』
雪和がウチのことを避け始めたのはいつからだろうか。
『姉と弟の関係はいつか疎遠になるものだ』
他の皆が口を揃えてそう言ってたとしても、ウチはそれを信じたくなかった。信じていたとしても受け入れることなんて到底していなかった。
(でも、最近本当に疎遠になっちゃってる…)
元々の距離がずっと近かったのもある。毎日風呂に入っていた頃が高校1年生まで続くくらいには雪和との距離が近かったし、一人暮らししたいと思うのも当然のことだろう。
「本当はこうやってやられるのも嫌なんだろうね」
イヤホンジャックで中の様子を探る。雪和が安心して眠っているのを確認してから、両親から貸してもらった合鍵を取り出す。
本来なら入ってはいけないと言われたその場所に、ウチは音を立てないように入る。万が一にも雪和に気づかれてはいけないからだ。
(え…嘘…?)
彼が玄関脇に無造作に置いている傘は2人分。玄関前にある靴も2人分─女がいる、と思うには充分だった。もちろん雪和以外の心音は聞こえなかったから違うのだけど、それでもウチの心をかき乱すには充分すぎた。
ギター部屋。練習するために作ったのか二つほどギターが置かれていて、心がどんどん荒んでいく。
これ以上部屋を見ると頭が壊れそうで、心の何処かの制御がきかなくなりそうで。
でも、そうしたほうが雪和に対する態度が変わりそうだから、ウチは動くしかなかった。
(なんだろうなぁこの気持ち。凄く雪和が好きで好きで堪らないのに、何をやりたいのかわかんなくて気持ち悪い)
胸の中にあるドロリとした黒いナニカが零れ落ちていく。雪和への気持ちがどんどん膨れ上がっていく。
「どうしようかなぁ…」
体育祭のあの時もそうだった。ウチのことを頼っておいて、いざとなれば置き去りにして。
決勝でやろうって話をしておいて直前で戦いたくないとかゴネだす甘えん坊。
そんな雪和の部分が嫌いで好きだった。好悪の感情がない混ぜになったまま、彼の寝室へと足を踏み入れる。
ポツンとウチとの写真が置かれているだけの簡素な寝室。倒れるようにして眠っている彼の寝顔はどこか苦しそうだった。
(大変だよね、雪和…お姉ちゃんが取ってあげるから)
やはり来ておいて正解だった。雪和が苦しんでいるのがよくわかった。
学業…は、ウチよりできている。一番辛いのは女の子だろう。雪和のことを知りもしないで勝手に近づいて離れていく。なのに何度も好きだと言われて鬱陶しいだろう。
(任せてよ、雪和。お姉ちゃんがなんとかしてあげる)
あの時、銃弾を撃ってからずっと後悔が鳴り止まない。反動がずっと心の奥底で響いている。
あの女が慰めたのも許せなかった。本来ならウチが彼に謝るはずだったのに。
だから、だから。
私は深呼吸して、個性を使った。
体育祭が終わってから永遠に気味の悪さと気持ち悪さと後ろから突き刺すような視線があっておぞましい。
「最近気持ち悪さがずっと続いてるんで助けてください」
「非合理的な質問ならとっとと帰れ」
相澤先生に相談したらにべもなく断られた。もっとちゃんと伝えないと動いてくれないのかもしれない。
「なーぜか知らないけど不整脈やらなんやらが起きやすくなってるんですよ。それこそ若干回復させましたが、ずっと聴覚と視覚に影響が出てまして」
「…ちょっと個性で見るぞ。辛くても我慢しろ」
相澤先生が真っ先に疑ったのは個性による悪影響だった。身体が軽くなったような気がするが、これは単に体重を増加させるやつが外れただけだ。
「今のところどうにもないですね。言いようのない気持ち悪さは変わんないです」
「お前、一回本格的に病院に行ってこい。公欠にしておいてやるから全身見てもらえ」
一瞬でズル休みが手に入る─というわけじゃなく、俺の症状が何かわからないからとっとと判明させろということだろう。不器用な心遣いが嬉しかった。
「すいません…ちゃんと一日で治せるだけ治してきます」
「しっかり休めるときは休め。雪和は襲撃以降、妙に体の動きが単調になりがちだ」
どこかリズムが一定になるような攻撃が多い─らしい。無意識のうちなので制御できていないのも問題だし、そもそも自主練してるときにはそうなることは一切なかった。
(どうなってんのかなぁ…?)
病院に行くことすらも億劫になった体がぐるりと回転する。咄嗟になんとか立てなおしたけれど次同じことができるかはわからない。
「…だいぶ重症だな、コレ」
愚痴を吐きつつ教室に置いてある鞄を取ると、響香お姉ちゃんが近づいてくる。
「大丈夫?雪和、なんか体調悪いよね?」
「今から病院で早退…いや公欠…?だから…」
「そんな状態の雪和を一人で行かせられない。お姉ちゃんがついて行ってあげるから」
ポン、と薄い胸をお姉ちゃんは叩く。あと確かに家族くらいはいたほうがスムーズに話が進むのかもしれない。
「お願い…うん…」
「しょうがないなぁ。いつまでも甘えん坊でいてくれてもいいんだけどね」
そう笑う彼女の表情は、どこか獣を狙う蛇のような狡猾さが出ていた。
…俺は、そのことに気づくことは出来なかったのだ。