オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
「そういやB組と一緒の場所だってのにわざわざバスを分ける理由はあったのかねぇ…?」
「そんなこと気にすんな。ほら、とっとと降りろ」
怪しいので念のために個性が使えるように備えながらバスを降りる。傍から見れば不審極まりない行動だけどナイフくらいは持ち歩きたい。
「おーっ!大分広いね、雪和!」
「うん。都会から離れてるし空気が美味しい」
ただいかんせん霧が出ていないと困る。こんな真っ昼間に霧なんてものはないほうがありがたいのだけど…まぁ、別になにしてもおかしくはないか。
(宿泊施設…んーと、あそこかな…?)
考えていると後ろから手を叩く音が聞こえる。相澤先生がこっちに向かって話しかけてきている。
「うん、あそこが合宿場所だから地面通って歩いてこい。個性は私有地だから惜しみなく使っていい…そんじゃ、昼までには来いよ」
「ちょっと待って!?」
つっこまれる声も虚しく、彼の言葉が終わる前から地面ごと滑りおちる。何も予兆がなかったから咄嗟に対応することも出来ない。
(大群…マジの身軽だけどナイフ一本ありゃたどり着けるか?)
進行方向がわかりやすいようになのか、土から異形がどんどこ出ていく。口田が止めようとした瞬間、襲いかかってきた小さいヤツを振り払う。
「止まらない?」
「どうやら土くれってことらしい。緑谷、こういう土を操る個性のヒーローはいるか?」
「うん、いると思う。四人グループで…」
「じゃあ気にしないで合宿場を目指しましょう。戦いにくい個性の子は誰かにサポートしてもらって」
全体的な方針が決まったと同時に三人が飛び出す。どうやら緑谷たちは完全に個人でやりにいくらしい。
(ん〜…制限時間付きとはいえ殴るなら俺のほうが有利かな…?)
一撃で急所を狙えば壊れるように作られている土魔獣。火力そのものが足りずとも勝てそうではある。サポートをしても最悪最後に個性でかっ飛べばいいし。
「頼む雪和!個性が全然通用しねぇ!」
考えた傍から頼ってくる奴がいた。上鳴の個性じゃ普通に戦えないような相性の悪さだからしょうがないか。
「じゃあサポートしますか…とりあえず、隠密か正面突破だったらどっちがいい?」
「マジかよ雪和。…まあ土魔獣だと勝てないから隠密かな」
「はいよー」
上鳴の要望通りに個性を使う。正面突破よりも隠密のほうがコンセプト的にやりやすいから助かった。
(ま、正面突破は間違いなく日が暮れるんだよなぁ)
『自分はジャック・ザ・リッパーである』
『ジャック・ザ・リッパーは複数人いた』
『自分たちはジャック・ザ・リッパーである』
下手にやらかすと別のやつにまでついてしまうが今回はなんとか上鳴にだけ付与できた。そのまま慎重に個性を重ねていく。
『自分たちはジャック・ザ・リッパーである』
『ジャック・ザ・リッパーは逃げることができやすいほど隠密していた』
『自分たちもまた他の人に認識されない』
「…うし。上鳴、手繋がないと補足できなくなるからちゃんと握れよ?」
「お、おう…?というか俺等の方に流れてこなくなったな…?」
「そりゃ個性で隠密してるんだから当然だろ。…ま、解除しなかったら誰にも見向きされないで餓死させたりとかできるんだけど」
「恐ろしいなぁ!?」
認識阻害といえば聞こえはいいが、個性の複数人を先に解除したら上鳴は認識阻害を解除できない。俺以外からは誰からも認識されないで死ぬ─なんなら死体すら見向きもされないから腐り果てるまで気づくことが出来ない。
(本当にえげつない個性なんだよなぁ)
惜しむべきはそんなことしてもオール・フォー・ワンには全く効果がなさそう、ということか。オーちゃんならこれくらい気にしないで羞恥プレイとか平然と行ってきそうだし。
「ほれとっとと行くぞ。こんなもん長く続けるとシャレになんない」
…そしてまぁまぁ皆が集まっている中、俺と上鳴は着いた。アホほど緊張するが丁寧に個性を解除していく。
《ジャック・ザ・リッパーは隠密ではなく走って逃げ回った》
《ジャック・ザ・リッパーに認識阻害の効果はない》
《重ねてジャック・ザ・リッパーは一人で殺害まで行っていた》
《ジャック・ザ・リッパーは複数人ではない》
「…ほい、これで全員に見えるようになったはずだ」
「うぉ!?ようそこにいたな、二人とも!?」
「驚かれても困るもんは困るが…あぁでも上鳴が見えてんならよかった」
ふぅ、と額についた汗を拭う。他の人に個性を付与するなんてことは殆どやれるわけないから非常に疲れた。
「個性そのものの制御は出来んだけどどんな名前にするか、だねぇ」
「だったらアタイのサーチでまるっと理解できるはずだよ!」
「ッ…すいません、手癖で」
「どんな手癖?まるでヴィランみたい…ああいや、事情は聞いてるんだけど…ちょっと覗くね?」
一瞬だけナイフを構えてしまった。衝動をぐっと堪えて個性を改めて使い直す。
『自分はジャック・ザ・リッパーである』
『ジャック・ザ・リッパーはありとあらゆる情報が秘匿されていた』
『自分の情報もまた秘匿される』
見せたくない理由は複数あるけど、一番は二つ個性があるかもしれないということ─少なからず、荼毘のときみたいな知らない個性が体に及ぼす影響は未知数みたいなもんだし。
「安心しなって…あれ?サーチで見てもわかんない?」 「わかんないですか。まあいつも通りなので仕方ないですね」
「大分個性のブレが凄いのかなぁ…?キミ、名前も含めて全部わかんない」
首を傾げている彼女に首を振る。もともとなかったものだからしょうがないのかもしれない。
「個性の名前決まってないんですよね。もしいい案があればな〜くらいです」
「雪和は個性そのものを把握することからだな。どうやって使うかはわかってるんだ。限界を探れ」
「了解です」
ということで大人しく外まで行ってキャパを試すことにした。…まぁ外では使えないから個性というより素の肉体の強化だが。
そんなこんなで二日目の夜。珍しくスマホに振動が走り、確認すると荼毘からのメールだった。
『もし逃げられるならこの座標に来てほしい。オレのところに来れば安全だ』
『なるほど。ありがたいけどできない提案だ』
一瞬だけ乗りたい欲望に駆られるが、今ならまだ荼毘以外のヴィランを片付けることができる。あくまで自然に装って守りに行きたい。
『ただ、流石に申し訳ないからもし見つけたら俺は無抵抗で連れてかれるよ』
『…気遣いありがと、センセイ』
心の底からいじけてそうな様子がありありと見えるが今は関係ない。隠していたヒーローコスチュームを羽織り、肝試しへと向かう。
「おー遅いぞ雪和…ってめちゃくちゃ装備してんな」
「こっちのほうが着てると落ち着くんだよなぁ」
「ガチで驚かせる気?人殺したりはしないよね?」
「…死なない程度に個性の出力は調整した」
殺すつもりじゃん!?と叫んだ尾白の声が変なところで反響する。誰かいるのは間違いない。
(原作の人数との乖離は脳無か…ん、にしても一人多い気がするが…)
されどそこまで気にすることではない。恐らく対応できる範疇のキャラであるとなんとなーく感じているのだ。
「どこまで本能で理解しているのかってところかもな」
「どうした。肝試しがやっぱり苦手だったか?」
「うん凄い苦手だからいつでも個性発動させれるようにしておきたい」
大嘘をまくし立てながらスイッチオン。準備していた噴霧器がカランコロンと音を立てながらどんどん霧を出していく。
(マスタードみたいな奴がいたはずだが…まあ、薬性の霧なら中和できるだろ)
ジャック・ザ・リッパーの医者形態は『その時代から卓越した技能』を使える。無から材料を生成してアホみたいな効果を持つ薬を作ることだって可能だ。
「お前の個性か?」
「ちょっとした手品。数十年後には医術として有名になってんじゃない?」
「手品が医術か…凄いな…」
天然ボケをする轟。近世によくあるタイプのランタンで辺りを照らしながら散策していると、ついにソレが姿を現した。
黒く引きずった体。地面に突き刺してある刃。それは既に血を吸ったようなどす黒い色に染まり、動く事にポタポタと垂れていく。
死刑囚となった体ゆえなのか、それとも単なる個性の代償かはわからないが既に出血している。
「にく、みせて」
ランタンをめがけて飛んでくる刃をナイフで壊す。恐らく明かりだけで狙ってきたわけじゃない、とわかっているが勝てる気がしない。
(本当の殺人鬼か、怖いねぇ…)
「轟、とりあえずどうする?別に逃げるなら逃げたほうがいいぜ?」
「…さぁ、相手が許してくれそうなものかはわかんねぇ」
殺人鬼とは様々な性格がある。
ステインのような目的のある殺人鬼。
トガヒミコのような自分を貫く殺人鬼。
死柄木弔のような快楽的な殺人鬼。
どうであろうと恐ろしいのには変わらない。もはや躊躇って死ぬことだけは避けたい、という消極的な理由が二人の間で広がった。
「轟、一旦逃げるぞ。トレインになるが相澤先生のところまで引っ張ったほうがいい」
「おう。何度も氷結だすから巻き込まれないようにだけ気をつけてくれ」
恐らく異形でないならそっちのほうがいい。地理的有利は恐らく俺等のほうがある。逃げる寸前、見覚えのある白髪の少年の手が伸びてくる。咄嗟にナイフで斬るが、普通ににょきっと生えながら鮮血を撒き散らす。
頭にナイフを刺して脳漿を破壊すれば動かなくなった。
「…!轟、先に連絡しとく!
「は?」
「連中、俺をーッ!」
言おうとした瞬間、首が爆発する。先ほどの俺もどきではあり得ない高速移動。透明になっていたソレは、掌から爆発を出して嗤っていた。
(…そりゃ、そうか)
誰かが受かれば誰かが落ちる。そんな当たり前のことを思い出しながら、弾けた首の視点で下手人に憐れみの視線を向ける。
「そこまで堕ちたか─」
「─爆豪勝己」
首が地面を転がる。まだ喋れるなら問題はない。
『自分はジャック・ザ・リッパーである』
『ジャック・ザ・リッパーは常に万全の準備をして殺人を行っていた』
『故に自分もまた万全の状態である』
転げ回る傍から体ができる。気持ち悪いにも程があるが、余裕がある状況ではない。
「無差別にはやりたかねぇんだけど…まぁ、いいか」
ヴィランもヒーローも関係ない。もはやここまで殺意を持っている人間が一人いて、抑えられるかわからない死刑囚もいる。
「さぁさぁ紳士淑女の皆様!今宵始まります狂気の襲来。いずこの都から現れた偉大なる殺人鬼でございます─」
「死ねやクソ野郎がぁ!」
爆風は当たらない。頬を掠めるような音もしない。
「─空には霧を、大地に森を、恐れる心に絶望を。嘘偽りなき地獄へと招待しましょう!」
霧の全てを飲み込み、中にいる人間へと干渉する。相澤先生とブラド先生さえ残せばなんとかしてくれるだろう。
『
伏線を張れなかったゲボガス人間です()
ちなみにヒントそのものを挙げるとしたら
・響香お姉ちゃんがトーナメントに勝ち上がっている
→爆豪がいた場合は爆発で近寄れないため勝ち残りにくい
・全体的に爆豪の部分を雪和がとっている
→特に期末考査のオールマイト戦。基本的にやっていることが原作準拠していないせいで言われなかったけど実はロボットの時も『タフネスで1ポイントや2ポイントを倒し続けた』って要素だけは拾われてる