オール・フォー・ワンから逃げきる方法について   作:ヒロアカは青春…?

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月明かりに響くチャイム

 

「おいおい、こりゃどんな手品だ?」

 

オレはセンセイの出した噴霧器の近くにいたはずだった。あの薬はオレの体を癒していたソレと一緒だし、もしかしたら移動していなくてオレのことを待っているかもしれない。

 

(…結局その目論見は外れちまったもんだが)

 

挙句の果てには変な廃墟にワープさせられた。センセイの個性ならやれそうだし、噴霧器をピンポイントで置いていたのもこれのせいに違いない。

 

「幻覚なのかそれとも転移なのかわかんねぇのは哀しいな」

 

どこか神聖な風に見える呪物は、どう考えても噴霧器の会った位置に鎮座している。これでセンセイがなにかしたことは確定した。

 

(とりあえず燃やしてみるか)

 

触らぬ神に祟りなし─触らなければ進展なし。個性を発動させて燃やしてみるが奇妙なことに呪物にしか燃え広がることはなかった。

 

「本格的に幻覚?いや、多分そうじゃねぇな…オレの個性含めて適応ができてないのかもな」

 

青い炎が灯り、チロチロとこちらの行動が正解だったことを示している。先程まで燃えていたはずの部分すら直っていて不気味だが、そんなことを言えばこの空間そのものがおかしい。

 

『えーと…荼毘か…』

「ん、センセイじゃん。ちょっとここ説明してよ」

『説明するも何も同じことやってきゃこの空間終わるっての。もともとパーティーゲームみたいなもんだもん、これ』

 

 

センセイが困惑しているようなものだが、場所の説明になってない。ヴィランに説明する理由もないのかもしれないが─だからといって、意味不明なことくらい答えてほしい。

 

『義理が立たないもんなぁ…しゃあない、特別だぞ?』

「嬉しいよセンセイ。姿見せてくれたらもっとサイコーだった」

 

特別、と呼ばれることはどうにも心が踊る。センセイの言葉に一喜一憂するごとにオレの精神が変わっていく。その甘美な感触を楽しんでいることは声音には乗せないでセンセイの説明を聞く。

 

『要するに俺の個性で殺人鬼のいそうなフィールドを作り出したんだ。そこのトーテムを5個壊したらこの空間から出れる』

「他は?」

『俺もどきがこの空間をうろついているからそいつを殺して鍵を奪っても出れる。なんつーかゲームと変わんねぇよ』

 

その癖してこの空間広いし、とセンセイは愚痴る。子供っぽくなったセンセイの頭を撫でたかったが、そういえば今のセンセイに体がないことにきづく。

 

『あーとね、俺もどきが本体。別に殴ってもいいけど耐久値が死ぬほどある』

「…ふーん。オレなら殺せる?」

『確実に。ただそうするくらいなら正攻法で逃げてもらったほうが安全だと思う』

 

彼の言葉はわかった。要するにゲームのようなものだと思えばいいのだろう。

 

「他の奴らとも協力しろと?」

『ん〜…クソすぎる仕様があってな。【俺がやったこと】って認識してないと俺の声も聞こえない。んでそれに自力で気づかないとトーテムは見つけられない仕様になってる。今んとこお前が一番だな』

「センセイがクソゲーってことがよくわかったよ」

 

一番最初に見つけられた。深い意味を持っていないのだろうけど、オレにとってはとんでもなく心臓が跳ね上がる心地にさせられた。

 

『戦闘は避けてほしい。そんぐらい余裕だろ?』

「もちろんだって。センセイ捕まえたいし」

 

でも、まぁどこにいるかはわからない。

 

絶叫と学校のチャイムを聞きながら、オレは見逃さないようにゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

 

なぜ集団戦とは恐ろしいものなのか。様々な答えがあると思うが、俺の中では相手がわからないから強いのだと思っている。

 

相手の攻撃がどこから来るかわからない。相手がどんな人間なのかわからない。相手の居場所が変わっているからわからない。どこまで展開しているのかわからない。

 

(─あいにく、俺の個性で探索するなんてことは不可能だった)

 

霧の状態で探し回ることも考えたが、体が裸の状態で全身に強い衝撃を受け続けるのは不可能だった。そもそも長い間そんな状態を維持していたら戻れなくなってしまう。

 

だから集団戦において最も恐ろしい状況を自分で作ることが大切だと考えた。相手に環境を悟らせないまま初見でハメ殺す。ヒーローとしての見せプレイもへったくれもないが、生存率の前では関係ない。

 

(だから環境を整えた。…あんま急造だし簡単に対策されるっちゃされちまうだろうが)

 

平たく言えば領域展開─あるいは世界の上書き。それが俺の個性でできる範囲での集団戦の対策だった。

 

 

 


 

 

体に近くにあるのは大きな鋏。近くにある壁へと振り下ろせばいい音と共に切断される。

 

Mmm(ン〜〜)…おや、ロンドンのほうが都合がよいですが、こちらでもまぁいいでしょう」

 

19世紀のロンドンではなく小学校。再現された空間としてはジャック・ザ・リッパーとして不愉快だが問題はない─まぁ、少しばかり殺意がこもり過ぎてしまうかもしれない。

 

(今回ならそこまで心配はなさそうなんだけどなぁ…さて、どこまで傷つけるべきだろうか)

 

神器と呼ばれた鋏は問題なく機能しており、恐らく殺害もできることは容易に想像がつく。一種の結界と化した場所で俺がキラーの位置についているのは自分で望んだからだ。

 

「…どんな不利な状況でも、相手からの要望は必ず受けなければならない」

 

最も今回は自分の意志で選択したものだし、本来ならやれなかった後始末を行うだけだ。

 

「それが、紳士(ジェントルメン)の嗜みですから」

 

後ろから襲いかかってくる爆豪の攻撃を鋏でカウンターし、何もない吹き抜けの部分へと体を躍らせる。もはやヒーローを目指していた少年とは到底思えないような殺意と欲望に満ちた目線が向けられる。

 

「Sir…【腐った百合は雑草よりひどい臭いを天地に放つ】と言うべきですね」

「アァン!?殺す殺す殺す殺す!」

 

才能を持つ故に挫折が認められずオール・フォー・ワンに心の隙を突かれた。あるいはオール・フォー・ワンに人生を変える手段としてヴィランを提示されて墜ちたのかもしれない。

 

(老いたような見た目の状態じゃ、そりゃ標的がわからないわけだ)

 

問答無用で殺しに来る以上、確保は難しいしオール・フォー・ワンに個性で地雷を仕掛けられているだろう。

寧ろ子供な分使い捨てたところでなんの痛痒も感じてはいまい。

 

「もしよければこのまま降参されてもらえませんか?無益な殺生で死ぬ、なんて嫌でしょう?」

「降参だぁ…?アンタみてぇな老いぼれごときに負けるなんてこたぁあり得ねぇんだよ、クソがァァァ!」

 

爆発。爆発。透明になって背後から爆発。ついで刃が喉元を狙って掠める。先程俺を殺した際に体から奪っていたらしい。戦闘センスだけはあるヴィランとは厄介である。

 

「この小学校、曰く付きでしてね。シミの付いた壁、首吊り死体…ここまで来ればどんなものが行われたか、わかりますね?」

「……だからなんだって「大有りですよ」

「どんな世界であってもなくならない恐怖。貴方がたのような人間が『恐怖の学校』を具現化してくれたので助かりました」

 

優雅にワイヤーを駆け上がって一礼。彼の目にはきっと鮮やかな銀色と月が霧に紛れて見えないはずだ。

 

「ンなもん認めてたまるかぁあ゙!」

「【避けることができないものは、抱擁してしまわなければならない】─これはあなたの責任ですよ、爆豪勝己」

 

終わりを告げる銀食器の突き刺さる音。鮮血をまき散らしながら怒りと絶望がない混ぜになった感情へと色が変わっていく。

 

「さて…まだ、あなたには生きていてもらわねばなりません」

 

彼を担いで近くにあるフックへとかける。白衣が置かれているロッカーにありがちなソレは、人体を吊るすに伴って恐ろしいほど鋭く尖っていた。

 

彼の絶叫と共に、時計塔の音が鳴る。

晩鐘は未だ、名を指し示していない。

 




学校のチャイムってロンドンの時計塔の鳴る音と同じなんですって。
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