オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
非合理的なシステムかどうかはさておいて、入試は最も大切なものだ。ましてやヒーロー科という大学から受ける講義を高校生からするという時点で押して知るべしである。
(ヒーローになるって子供の憧れを追い続けられるんだから当然のことではあるか)
少しばかり冷たい気がする感情はしまっておいて、目の前にそびえる擬似的な町を見る。雄英高校が誇る大きな敷地のなかに鎮座している場所にはライバルたちが多く集まっていた。
「ウチも受かるから雪和も頑張ってね!」
「ん、響香お姉ちゃんも頑張って」
姉弟揃って受験することには両親も少し驚いていたが、ちゃんと実力そのものはあるので応援してくれた。無個性であると宣言していたから普通科も受けてね、とも。
軽やかに試験会場へ向かう姉を見送った後、芯から集中して個性を使う。今回は個人技で戦闘をしなきゃいけない以上、ジャック・ザ・リッパーの個性は少しだけ相性が悪い。
(ならどうするか、ってところだね)
『自分はジャック・ザ・リッパーである』
『ジャック・ザ・リッパーは霧の中に現れて姿を消した』
『自分もまた霧の中に現れて姿を消すことができる』
体が霧になるわけではない。昔オール・フォー・ワンから逃げるときに使った瞬間移動と同じように一瞬でそこに現れる。
…しかし、これだけだと当然ながらうまくいかない。霧がある夜の田舎ならともかく、昼の閉鎖空間で霧ができるのは非常に厳しい。
『自分はジャック・ザ・リッパーである』
『ジャック・ザ・リッパーは濃霧の出ているロンドンに留まった』
『だから自分がいる一定範囲に濃霧を発生させて留まらせる』
「うわっ!?いきなり霧が出てきた…?」
「これも試験の為か?これじゃなんも見えねえ!」
騒いでいる受験生をみる限り、この目論見は成功したのだろう。体の一部しか見えなくて混乱している人を無視し持ってきておいたライトで下の方を照らして歩く。
「悲しいけどこれ、個性だからどうにもならんのよね」
しかも無個性だったから自分の個性が暴走してもしょうがない。そんなふうな言い訳ができるようにするため…ではなかったけど、無個性にしておいて正解だった。
『スタート』
無愛想な人の声が霧の中に響くと同時に走り出す。濃霧が出ているせいで死ぬほど視界が悪いせいでロボを見逃してしまうかも。
(…なーんて杞憂だったな。ちゃんとヒロアカ世界のロボットがそんなことも対策しないなんてことはない、か)
受験生を探している赤い光がこちらを見つけたと同時に、その真上へと瞬間移動。落下していく勢いのままに関節へと踵落としをし、首の部分をへし折る。1ポイントで脆いのもあったのか、簡単にゲットできた。
「壊れたねぇ…ん?」
壊した後の破片が若干使いやすいナイフに見える。装甲が逆に薄すぎて切れ味のいい刃物になってしまった。
(ちょっとだけ観察するか)
先ほどは一息に叩き切った部分を含めて軽く観察する。どうやら見た目と同じ様な素材にしてあるらしく、ゴムの部分のなかに鉄を紛れさせて強度を上げるようなセコい真似はなかった。
「ん〜…ならちょっと個性を別のにするか」
視界悪いし相手が見つけにくいし湿度が高くて気持ち悪い。少なくとも守ったりするわけじゃないなら濃霧を出すのは失敗だった。
《ジャック・ザ・リッパーに濃霧がついていたのはイギリスという環境だったから》
《故にジャック・ザ・リッパーに濃霧に関する能力はない》
留まっていた霧が上へと昇っていき、視界が徐々に広がっていく。ぽかんとしている目の前の人は横のロボットに気づいていない。
「危ないなぁ!?」
素早くナイフを投擲する。頬を掠めないギリギリのラインでロボットの弱点を壊して彼を引き寄せる。
「た、助かった…ってか霧晴れてよかったなこりゃ!」
「そう、だな…油断しないで切り替えようぜ。あんなもん気にしてる暇あったら壊さないといけないし」
まさか目の前にいる人に自分が個性で妨害してましたなんて言えない。申し訳なさを覚えながら、個性を再発動する。
『自分はジャック・ザ・リッパーである』
『ジャック・ザ・リッパーは高速で動いて敵を仕留める』
『自分もまた高速で移動して敵を仕留める』
体へと徐々に力を入れていけば普段の自分より格段に速い状態で立体機動する。速すぎるが制御できないわけではない。
「ハハハッ、こんな程度で満足しちゃいけねぇな!」
高笑いする口をすぐに閉じ、2ポイントを一体狩る。空からの強襲が可能ならこのまま3ポイントを狩るつもりだが…いかんせん、そう上手くはいかないようだ。
一撃を入れたところで半壊程度。二撃目で完全に壊せたがこのロスは試験時間を考えると不味いかもしれない。
逡巡する余裕も火力もないので1ポイントをヒット&アウェイで壊し続ける。2ポイントや3ポイントは狙えるときだけ破片を投げてワンチャンを狙いに行く。
そうこうしてポイントを稼いでいると、遂にソレが現れた。地面が大きく揺れて体勢を崩す奴らを見下ろすかのように堂々と下から這い出てくる。
協力しなければ壊せないような巨大さ。残っていたかすかな霧を振り払ったその姿は見るものに恐怖を与える─そして、単なるお邪魔であると冷静な数人は気づいたのだろうか。
近くにいたヴィラン想定のロボット集団の上に黒い影を落とし、グシャリとひしゃげた音が響く。何度も苛立ちのあまりに踏みつぶす様は、まるで赤子のように見えた。
「…ははっ、正気かよ」
他人の悲鳴が入り混じる中、体がそちらの方向へと動いていく。自らの意思に従って動いてるわけではないし、人助けしようなんて殊勝な考えではない。
(─むしろ、逆だ)
その考えではヒーロー社会では生きられない。ジャック・ザ・リッパーが自分であるとしていた弊害なのかもしれないが、どうしても悲劇を好んでしまう。
「…ま、だからといって助けないわけじゃないんだけどね」
本当にわずかな霧を使って瞬間移動。周りの悲鳴に心が躍りつつも、やらなきゃいけないことを取捨選択する。ここでできる最大限のヒーローらしい行動を模索する。
「おい!お前ら一旦落ち着いて散らばれ!避難するなら他の奴らを怪我させないように逃げろ!!」
ヤケクソでロボットの頭に破片をぶつけながら注意をこちらに向ける。殴った余波で他の受験生に怪我をしないように慎重に反対方向へと逃げる。
「あぁクソ、ロボットは素直で逃げやすいな!!」
せめてもの虚勢を張るが、当然ながらデカい攻撃は避けにくい。振られる腕を下に押しつけるようにして流し、周辺の被害を最小限に抑える。
『終了だ。ロボットの動きが停止するから最初のスタート地点まで戻ってこい』
へなへなと腰から崩れ落ちる─なんて醜態は晒さず、しっかりと地面へ着地。
(受かってんのかなぁ)
たとえ救助するとポイントが貰えるとわかっていても怖いものは怖い。ましてや中途半端にだけしか削れてないロボットも複数あるはずだ。
受かっているかどうかは知らないけど、個性に関しては隠すこともできないだろう。果たしてどこまで正確に伝えるべきなのかも考えなくちゃいけない。
「…前途多難だなぁ」
空に向かって深く息をつく。最初に作り出した深い霧は一つもなく、どこもかしこも晴れ晴れとしていた。
カービィのエアライドでの霧が濃くなるイベントは弱い(偏見)