オール・フォー・ワンから逃げきる方法について 作:ヒロアカは青春…?
条件分岐:入学前の目標が「オール・フォー・ワンに膝枕」になること
分岐したことによる安価の変化:「オール・フォー・ワンと同居する想定で家と家具を買う」「ワン・フォー・オールを奪って取引に使う」「オール・フォー・ワンに似合うワンピースを作成させる」
『オール・フォー・ワンが探している【彼氏】を見つけた。一人暮らしをしていて、今なら簡単に誘拐できる』
そう報告を受けてすぐに向かった。鼓動が早くなるのを抑えられなかったし、彼から受けた傷が少し痛むのもしょうがないだろう。いや、興奮し過ぎて少しだけ血が滲むのも気持ちよかった。
あの頃の傷はたった二つだけなのに、超再生が治そうとする意思すら見せない。元からあった傷だからなのかもしれないし、彼がボクを見てくれていたという事実をボク自身で否定したくないのかもしれない。
「ふふ、潜入は得意なんだ。でも君がちゃんと配慮してくれたってことはわかってるから」
彼の背丈を考えれば少し大きすぎるこのアパートは、不思議なことにボクの身長に合うようにタンスやクローゼットが置いてある。ただ照れていただけなのだろう。
(そんな回りくどいことしなくても告白してくれたらよかったのに…あぁいや、彼はボクのストーカーだったのかな?)
別に彼のことを咎めるつもりもない。寧ろストーカーをしてくれたことでよりボクのことを深く知ってくれていたと考えると下腹部が疼いてしまう。
クローゼットの中に仕舞われていた服で好みのものを着ておく。でも肌心地のいい素材に機動力のあるようなコレをボクは見たことがない。恐らく手作りの服なのだろう。
(他には…おや?なんでこんなところにノートが?)
ボクの身長でもギリギリなくらいの場所に隠されているノートブック。表紙には何も書かれていないけれど、何を書いているのだろうか。
「ボクとの新婚生活でも書いてくれていれば儲けもの、だ、が、…!?」
驚いた。なにせボクしか知らない妹の個性を正確に書き残し、全ての継承者の個性と対策があるのだから。更に最後のページには『ワン・フォー・オールが手に入ったら献上しにいく』とまで書いてある。
(君はどこまでボクを喜ばせてくれるんだ!)
しかし喜びのあまり目的を忘れてはいけなかった。ボクは彼の部屋にお邪魔したのは他でもない彼を連れ帰るためだ。
慎重に彼がいる部屋を開ける。求めていた妹を回収するのも手伝ってくれたようなものだし、目の前にいるのにボクのことを信頼してくれているのか安らかに眠ってくれている。
「ふふ、やっと見つけられた。まさか君が子どもの見た目にまでなっているとは思えなくてね」
本当にどんな個性を持っているのか。ボクへ彼はこのまま殺し合いをしたいし、何かを奪うつもりはなかった。ボクの彼氏を奪い尽くすなんて真似はまだやろうと思えない。
「こうやって触ってみれば間違いない。あの時と変わらない者だって魂でわかる」
そっと頬に手を当てると、彼は寝ぼけているのかすりすりと小動物のように体ごとボクに預けてくる。いくらなんでも無防備が過ぎて他の人に見られたら襲われないか心配になってきた。
「んぅ…だれぇ…?」
「君に助けられたヒロイン…とでもしようか」
キスをして寝ぼけている彼を起こすのもいいが、そんなことをすれば理性が効かなくなることが容易に想像できてしまう。
(連れ帰れば時間はたっぷりある。しっかりと教え込んであげなきゃいけないからね)
彼には少し乙女心というものを教えなければ他の女を捕まえたりボクのところから逃げてしまうかもしれない。それをされることは耐えがたいことだし、何よりも激情を彼にぶつけたいと思っている。
「少し眠るといい。目が覚めたときには驚けるようにしておこう」
内側から湧き上がる淀んだ感情をグッと堪え、彼が眠りやすいように個性を使って安眠させる。落ち着いた寝息を確認して彼を腕の中で抱きしめたあと、彼が作ってくれた愛の巣を後にするのだった。
(ちゃんと回収しておこう。しかしボクと彼で同じことを考えていたとはね…やはり相思相愛、ということか)
「知ってる天井だけど…知らない場所だ」
起きたあとの部屋の様子。家具の配置も変わっていないはずなのに入ってくる光の角度が違うので別の場所だろう。わざわざこんなしち面倒な誘拐をしてきた以上、下手人が誰なのかは火を見るよりも明らか。
(あんだけ逃げといてオール・フォー・ワンに捕まるとはな…わかってたけどキツイもんだ。つーかなんだこいつ)
どんな状況になるのかわからないが、裸でベッドに寝かされるのは碌なことになってない証拠だ。隣に寝ているオール・フォー・ワンも裸なのは、うん、考えたくない。
「…とはいえ殺せるわけでもないし一旦放置するか」
彼女がここを作った以上、俺が殺すことを想定して悪辣な罠を仕掛けているのかもしれない。本音を言えば密着して動いた瞬間に拘束するなりなんなりしたいのだが、相手の持っている個性が何なのかわからない以上は視界に入れて警戒しておくだけのほうがいい。
(ここに俺がいることが異常なんだがな…)
そうこう悩んでいると体が急激に重くなる。体重や重力が増えたからではなく上から彼女にのしかかられたからだ。
「おはよう。気分はどうだい?」
「誘拐されて気分のいいやつがいるかよ」
「配慮が足りなかったね。まあ先に逃げた君が悪い」
巴投げの要領で外そうとしても単純な体格差がありすぎて外せない。ジタバタと藻掻いていることすら面白そうに嘲笑う彼女は狂気に満ちた笑みを浮かべた。
「とりあえず服を着て隣の部屋に来てほしいな。ボクのことが好きなら逃げるなんてことはしないだろう?」
「…殺したいだけだっての」
「そんなことを言っても逃げるために個性を使わないとはそういうことだろう?照れなくても別にいいのさ」
何を勘違いされているのか、俺がオール・フォー・ワンのことを好きなストーカーとでも思われている。美女に裸で迫られても呆れしかない時点で俺からの好感度は察するべきだが。
「ちなみにだけど、君がボクを殺すなら銃を使うなりしないとダメだよ。超再生の個性を入手したからあの時みたいに貫通させても無駄さ」
「あぁそうかい」
原作でも持っていたその個性。何よりもずっとニコニコとこちらを観察されるのが不快だった。彼女が用意した新品だろう服を着て、オール・フォー・ワンに横に置いてあったワンピースを渡す。
「…おや、まさか着替えをよこすとは思わなかったよ。別に裸でもボクは構わないんだけどね?」
「黙れ。万が一のときにやりにくいだけだ」
「つまり着衣プレイがお好み、と。そんなむっつりさんでもボクはリクエストに答えてあげよう」
言葉は返しているけど会話が成立していない。彼女の背丈に合うような手作りのソレを着こなす。スレ民どもの無駄な要望のせいで作られた質の高すぎる一点物だ。
「ほら、似合ってるとか言わなくていいのかい?裸から着るまでのサービスシーンを見た感想は?」
こちらに見せつけるようにして笑いかけてくる彼女は、正体を知らなければ非常に可愛く誰でも振り向かせられる純真さと妖艶さがあっただろう。正直中身を知っていれば恐ろしいって感想しか出なくなるのだけれど。
「そうだな。有象無象なら引き寄せられるんじゃないか?」
彼女からの好感度が下がるなら儲けものだ。早いところ興味をなくして逃げても追われないようにしたい、という気持ちから皮肉った発言をして呆れるような視線を向ける。
「それなら君は引き寄せられないね。こうやって逃げられないように捕まえておかなきゃ」
手首を掴まれてそのまま彼女の腕に絡め取られる。本来なら胸の柔らかさにドギマギするようなものだが、あいにく今の気分は肉食獣に狙われたような本能的な恐怖だ。
「さて、じゃあ話をしようか。そっちの部屋で、ね?」
彼女の声は、酷く重い。
逃されない恐怖に身を震えさせながら、ただ歩くしかなかった。