魅力至上主義の教室   作:Mr.♟️

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原作突入
Bクラス入学


 

──目を奪われた。

 

今まで生きてきて、異性を見て見とれるなんてこと、ただの一度もなかったのに。

 

初対面のはずのその男の子に、私の視線は完全に釘付けになっていた。

 

いや、私だけじゃない。

 

教室にいる大半の生徒の視線が、まるで強力な磁石にでも引き寄せられるかのように、たった一人の男子生徒に集まっていた。

 

なにか特別なことをしているわけでもないのに、彼がそこに座っているだけで、周囲の視線が吸い寄せられる。

 

 

 

 

「せっかくだから、先生が来る前に自己紹介でもしておく?」

 

不意に、静寂を切り裂くように彼が口を開いた。

 

自分に集まっている視線を感じ取ったんだろうか。彼はゆっくりと立ち上がり、振り返ってクラス全体に向けて声をかけた。

 

彼の提案に対し、教室にいる大半の生徒が賛同の意を示す。私も、周囲の空気に呑まれるようにして軽く頷いた。

 

 

 

──その瞬間だった。

 

彼と、不意に視線が交差したような気がした。

 

ただの勘違いかもしれない。だけど......今、確実に目が合ったような?

 

 

「僕は神代凪。中学時代はバスケと卓球部に入ってた。高校では文化部に入ろうと思ってるから、同じ部活に入る人はよろしくね」

 

彼──神代凪は、涼しげな笑みを浮かべてそう名乗った。

 

ただのありきたりな自己紹介。それ以上でも以下でもないはずの言葉。それなのに、彼が言い終わった直後、教室からはただの自己紹介とは思えないほどの歓声が上がった。

 

主に女子生徒たちからの、熱を帯びた黄色い声。男子生徒たちも、反発するどころか空気に気圧されたように拍手を送っている。

 

まるでアイドルか何かのファンミーティングに迷い込んでしまったかのみたいだ。

 

ただただ圧倒されながら、私は頭の片隅で、この雰囲気の中で次に自己紹介をしなければならない生徒はひどく可哀想だな、と同情していた。

 

 

 

 

 

 

「次は──君はどうかな?さっき目が合ったからさ」

 

......よりにもよって。

 

その『ひどく可哀想な生徒』に、私が指名された。

 

彼の視線が真っ直ぐに私を示している。クラス全員の視線が、神代の視線を追うようにして一斉に私へと突き刺さった。

 

ていうか、さっき目が合ったの、気のせいじゃなかったんだ。

 

まさかあの一瞬に目が合っただけで、こんな罰ゲームを受けることになるなんて思ってもなかった。

 

 

「......姫野ユキ。中学時代は吹奏楽部で、高校では帰宅部になる予定」

 

最低限の情報だけを口にする。神代の時のような熱狂なんてあるはずもなく、教室内には疎らな拍手がパラパラと響いただけだった。

 

当然の反応だ。その雰囲気が嫌で、逃げるように腰を下ろした。そして、ほんの少しの恨み言を込めて、私を指名してきた張本人である神代をチラッと一瞥する。

 

すると彼は、私の視線に気づいたのか、悪びれる様子もなく、とても優しく、軽く微笑み返してきたのだ。

 

 

 

 

 

 

その瞬間、私の胸の奥で、今まで感じたことのない正体不明の熱がチリッと焦げるように生まれた。

 

彼に関わってはいけない。

 

直感がそう警鐘を鳴らしているのに、私はどうしても、彼から目を逸らすことができなかった。

 


 

僕は『Bクラス』に配属された。

 

てっきり、補導歴こそないものの、国内外でそれなりの暴力沙汰を起こしてきたから、CクラスかDクラスに配属されるとばかり思っていたけど......どうやら違ったらしい。

 

出来ればDクラスで綾小路くんとある程度仲良くしておきたかったから残念だ。

 

そして、僕にはクラスの配属よりも、少しだけ後悔していることがある。

 

それは、入学前に引いたアイテムガチャで手に入れた【天界の美容液】を使ってしまったことだ。

 

あれを使用した瞬間、僕のステイタス画面にあった魅力値が【S】から【SS】へとランクアップを果たしてしまった。

 

ランクアップ後のステイタスの説明文を確認すると、かつての『女子から好かれやすく、男子から好かれにくい』といったマイルドな文章が『誰もが見惚れる傾国の美貌』という、文章に変わっていた

 

 

 

 

......んー。

 

確かに僕は、この世界で理想のハーレムを作ることを目的としている。

 

でも、それは選りすぐりのヒロインたちと関係を築きたいという意味であって、文字通り『誰でもいい』わけじゃない。

 

廊下を歩くだけで男女問わず視線が突き刺さる状況は、流石に今後の立ち回りに困るレベルだ。

 

僕がこの学校で裏でクラスを動かしたりするのは難しい。何をやるにしても、矢面に立たないといけない。嫌だなぁ。

 

 

 

ん?ああ、今はもう、担任によるこの学校の特殊なルール──Sシステムの説明を受け終わって、昼休みの時間だ。

 

僕はクラスの女子たちに誘われるがまま、食堂のテーブル席についてる。

 

「山菜定食美味しい?」

 

「神代って、倹約家なんだね」

 

僕が無料、つまり0pptの山菜定食を注文して淡々と食べているのを、向かいの席に座る網倉さんと安藤さんが不思議そうに眺めてくる。

 

周りの生徒たちが支給された10万pptという大金に浮かれて少しお高めな定食やデザートを頼んでいる中、水と山菜定食だけを前にしている僕の姿は、変わって映ったと思う。

 

「んー、ポイントを使うのが怖くて。親からタダ程怖いものはないって教わったからさ。それに、美味しくない類の精進料理だと思えば食べれなくもないよ」

 

僕は苦笑しながら、塩っけのない山菜を口に運んだ。

 

煩悩を打ち消す必要があるってお父さんに言われて、中学の夏休みに厳しい寺へ預けられた経験があるんだよね。

 

あの時の精進料理に比べれば、味気ないこの山菜定食でも十分に栄養源として割り切ることができる。

 

「確かに。来月も10万ppt貰えるからって、今から使いすぎたら月末に困るもんね」

 

網倉さんが真面目な顔でうんうんと頷く。残念だけど、来月は10万pptも貰えないんだよね。

 

まあ、網倉さんは性格的に散財するタイプじゃなく、計画的に使いそうだから問題ないんじゃないかな?多分。

 

「そんな先のことまで考えてたんだ。私なんて、毎月10万貰えるなんてラッキーくらいにしか思ってなかったよ。明日は私も山菜定食にしようかなー......」

 

ハンバーグ定食を頬張りながら、両極端すぎることを言い始めた安藤さんを見て、とりあえず微笑んでおく。

 

僕の微笑みを受けた安藤さんは、一瞬で顔を真っ赤にして視線を泳がせた。

 

やっぱり、魅力値の【SS】は効果が強すぎる。ただ見つめて微笑んだだけなのに。

 

まあ、それはそれとして、1回くらいは山菜定食を食べておくのもいいんじゃないかな。

 


 

放課後のチャイムが鳴り終わり、Bクラスの教室は喧騒に包まれていた。

 

新しい友人たちと遊びに行く計画を立てる者。支給されたポイントの使い道を考え胸をふくらませるもの。それぞれが新しい高校生活を謳歌しようと浮き足立っている。

 

僕は鞄に荷物を詰め込み、帰り支度を整えて席を立った。

 

教室の前のドアから廊下へ出ようとしたその時──見覚えのある、一人の少女が静かに佇んでいた。

 

銀色の美しい髪を揺らし、特徴的な杖を両手で前につくようにして立つ彼女。

 

今後Aクラスのリーダーになるであろう彼女が。

 

「──あなたから会いに来てくれるのを待とうかとも思いましたが、会いたくて来てしまいました」

 

周囲の視線なんて一切気に留める様子もなく、彼女は真っ直ぐに僕だけを見つめて、凛とした声でそう告げた。

 

「5年と287日ぶりかな、坂柳さん。見惚れるほど綺麗になったね」

 

僕が歩み寄りながらそう答えると、周囲の空気が一気に爆発したようにザワついた。

 

教室だけでなく、廊下を歩いていた他クラスの生徒たちまでが足を止め、僕たちを遠巻きに眺めてヒソヒソと囁き合っている。

 

ザワついている理由は痛いほどわかる。

 

別クラスの坂柳さんが、わざわざBクラスの教室まで足を運んできたからだ。

 

そして何より──入学初日から無駄に注目を集めている僕が、彼女に対してあまりにもストレートで気障な褒め言葉を、これ以上ないほど自然に投げかけたからだろう。

 

今どきの思春期の男子高校生は、たとえ恋人同士であったとしても、人前で女子にこんな甘い台詞を吐いたりはしない。

 

「......あなたも、かっこよくなりました。昔よりもずっと」

 

周囲の喧騒なんて彼女の耳には入っていないのだろうか。坂柳さんは僕の言葉を真っ直ぐに受け止め、ほんのりと頬を染めながら、この上なく美しく微笑み返してくれた。

 

「そう言ってもらえたら嬉しいよ。これから帰るところなら、一緒に帰ろう」

 

正直なところ、昼休みの食堂で僕の存在は他クラスにも認識されただろうから、放課後に関わりのある女子の誰かしらが接触してくるだろうとは予想していた。

 

だが、それが初日から坂柳さんだったのは完全に予想外だった。

 

もちろん、彼女から会いに来てくれたことは当然嬉しい。

 

嬉しいけど、常に余裕を崩さない彼女が『待ちきれなくて来てしまった』なんて、年相応の可愛らしいことを言うとは思っていなかった。

 

「ええ、エスコートをお願いしても?」

 

「もちろん、喜んで」

 

僕は彼女の歩調に合わせ、ゆっくりと廊下を歩き始める。

 

すれ違う生徒たちが道を空け、僕たちを見つめている。

 

【好感度:96】

 

『慧眼』のスキルが示す彼女の頭上の数値は、もはや絶対的な信頼と愛情の領域に達している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「買いたいものがあるのですが、付き合ってもらえますか?」

 

学校の敷地内に併設された巨大な商業施設、ケヤキモールへと向かう並木道を歩きながら、彼女がふと提案してきた。

 

「チェス盤かな?再会を祝して、プレゼントさせてよ」

 

僕が先回りしてその答えを口にすると、彼女は驚いたように目を丸くした後、クスクスと楽しそうに笑みをこぼした。

 

「ふふっ、私たちは心が通じてるみたいですね」

 

「もしかしたらそうなのかもね」

 

ケヤキモールの中にある雑貨屋で、僕たちはシックなデザインのチェス盤と重厚感のある駒のセットを購入した。

 

たっかいなんて思ってない。必要な出費だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのままの流れで、僕は彼女の暮らす女子寮の部屋にまで招待されることになった。

 

入学初日に男子が女子の部屋に入るなんて、普通ならあり得ないことだ。それも、坂柳さん程の美人が相手なら尚更。

 

「手紙も楽しくはありましたが、対面で神代くんの顔を見ながらの方が嬉しいです」

 

中央に置かれたテーブルにチェス盤を広げ、初期配置に駒を並べていく。

 

互いの指先が触れそうな距離で向かい合うと、彼女から漂う品のある甘い香りが香ってくる。

 

「せっかくだから、罰ゲームでもつけようか。負けた方は勝った方の言うことを1つ聞かないとダメって言うのはどうかな?」

 

僕が軽く提案すると、彼女の纏う空気が一瞬にしてヒリついたものに変わった。

 

「......いいでしょう。ですが、後悔することになりますよ?」

 

ははっ、そんなに本気になるなんてね。

 

でも、僕も今回ばかりは負けるわけにはいかない。どうしても彼女に『お願い』しなければならない切実な理由があるのだ。

 

静寂に包まれた部屋の中で、駒を動かす乾いた音だけが響き渡る。

 

思考速度も、数手先を読む演算能力も、今までの比ではないほどに研ぎ澄まされている。

 

手紙越しでは読み切れなかった彼女の細かな表情の変化、呼吸の乱れ、視線の動き。

 

対面だからこそ得られる情報を全て処理し、僕は彼女の猛攻をギリギリのところで凌ぎ、罠を張り巡らせていった。

 

 

 

 

 

中盤での激しい駒の交換を経て、盤面は終盤戦へと突入する。

 

そして、約1時間の死闘の末──。

 

「──チェックメイト。僕の勝ちだね、坂柳さん」

 

僕がナイトを動かし、彼女のキングの逃げ道を完全に塞いだ瞬間、ゲームは終わりを告げた。

 

「......神代くん。ふふっ、負けたのに嬉しいです。やはり、私の横に並べるのはあなただけだと確認できましたから」

 

彼女は悔しがるどころか、酷く満たされたような、うっとりとした表情で僕を見つめてきた。

 

自分の全てをぶつけ、それを正面から受け止めて打ち破ってくれる存在。彼女にとって、僕はそういう存在なのだ。役割が重たい。

 

「大袈裟だなぁ。でも、ありがとう」

 

そんな風に言ってくれるけれど、次は僕が負けるかもしれない。

 

今回勝てたのは、僕が先手で主導権を握れたからという、ほんの僅かなアドバンテージがあったからに過ぎない。

 

「では、罰ゲームですが......何をして欲しいんですか?」

 

彼女が居住まいを正し、問いかけてくる。

 

さて、ここからが本番だ。

 

僕には、入学前のアイテムガチャで手に入れた【神の手】というチートアイテムがある。

 

あらゆる心身の不調を治すことができるこのアイテムを使えば、彼女の先天性疾患を治癒することが出来るかもしれない。

 

しかし、その発動条件は『対象の胸に1分手を置いた後、頭の中で念じる』という、倫理的に完全にアウトなものだった。

 

だが、罰ゲームという大義名分があれば、無理やり決行することができる。無理やり、本当に無理やりだけど。

 

「──君の胸に1分間触れたい」

 

僕は、極めて真剣な表情と声色で、その要求を口にした。

 

言い回しはこの上なく間違えてるし、客観的に見ればただの変態の発言だ。

 

だが、それでも問題ないと思う。だって、彼女の僕に対する好感度はカンスト間近の【好感度:96】なのだから。

 

実際、今の僕の発言を聞いても、彼女の頭上に浮かぶ好感度の数値が下がることは一切なかった。

 

 

 

 

 

 

ただ、彼女の反応は僕の予想とは少し違っていた。

 

「..........しばらく時間をください。心の準備をする時間を」

 

冷静沈着な彼女が、目を大きく見開き、顔を耳の先まで真っ赤にして俯いてしまったのだ。

 

あ、思ったより勘違いされた。

 

僕はただ、坂柳さんが『な、何を言っているんですか!』と少し慌てて問いただして来る様子を見たかっただけなのに。

 

僕の言葉を、文字通りの『そういう行為の要求』として重く、そして真摯に受け止めてしまったらしい。

 

いくら好感度が高いとはいえ、こんなセクハラ要求に真面目に悩んでしまうなんて、彼女の純情さを甘く見すぎていた。

 

流石に罪悪感が湧いてきた。

 

ここは大人しく、それっぽい適当な理由を説明して訂正しておこう。そう思って、口を開きかけた。

 

「その、一応てい」

「心の準備が出来たら、私から......あなたの部屋に行きます。その、何日かかるか、何ヶ月かかるかは分かりませんが」

 

僕の言葉を遮るように、彼女はギュッと両手を握りしめ、覚悟を決めたような、それでいてひどく潤んだ瞳で僕を見つめ上げてそう言い放った。

 

その表情には、恥じらいと、それを上回るほどの僕への深い情愛が入り混じっていた。

 

訂正する隙すら与えられず、彼女の中で勝手に『いつか神代くんの部屋に行って、身を委ねる』という恐ろしい約束が成立してしまった。

 

 

 

 

 

 

......これは、完全にやらかしたかもしれない。

 

ただちょっと慌てる可愛らしい表情が見たかっただけなのに。

 

ここで適当な理由を説明してしまえば、彼女のこの決意と恥じらいを完全に馬鹿にすることになってしまう。

 

僕は頭を抱えたい衝動を必死に抑え込みながら、今はただ、彼女の真っ赤に染まった可愛い顔を眺めて、引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。

 

うん、その時になったら何もせず返せばいいんだ。その時の僕が何とかしてくれるはずだから。

 


 

坂柳さん

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Cクラスの方が人気なのかな?って思ってたから意外だった。

神代くんは悪ふざけの代償を払うことになった。

Bクラス or Cクラス

  • Bクラス
  • Cクラス
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